第6話 なめるまで味のわからない飴
海面飴とやらを買うために、お店にやってきた3人。
さっそく買って舐めてみた。
形状は棒の刺さったぐるぐる飴とほぼ同じだったが、厚みがすこし足りないと、3人とも同意見。
味はしょっぱさ8割、甘さ2割といった具合で、これも3人とも癖になりそうになる。「きれいな海の味ってこういうのかもなあ」、とフーリャがつぶやく。「エメラルドグリーンの色も綺麗だよね」、とクロンが続く。「形に芸がないわ」、とレミリは厳しい感想を述べた。
他にも似たような飴が売っていたので、買ってみることにした。
この星では大人は有料で、子どもは大人になってからお金を支払うという仕組みらしい。
「《なめるまで味のわからない飴》……だと?」
「なんだかギャンブル要素が多そうな商品だねえ……」
「あら、あんたたち、こんなものが怖いの?」
フーリャ、クロン、レミリがそれぞれ言葉にした。
みんな興味は深々のようだ。
もちろん食べてみた。
「なんだ……これ……辛い?」
「辛いは味覚じゃなくて痛覚だよ、フーリャ。僕のは……なんだろう、臭い?」
「あんたのも味覚じゃないのよ……。わたしのは……冷たっ!」
3人とも味が当たらなかったらしい。
こんな商品もあるのか、と目を合わせて笑い合う。
すると、店員さんが寄ってきて声をかけてきた。
他に客もいなくて暇をしていたのだろう。
「どうだい、《なめるまで味のわからない飴》は?」
「これ本当に味がついてるんすか?」
フーリャが聞いた。
「当たりは『天にも昇る味』をしているよ」
「はずれはなんなんです?」
今度はクロンが聞いた。
「はずれは『地の底に100年閉じ込められる』ような味だね」
「……なにそれ」
レミリが怪しげな視線を店員さんに向ける。
「ぼくは実際に両方とも、なめたことがあるから、合っていると思うよ」
「い、いや、やめておくわ」
どん引きするレミリに続いて、フーリャとクロンも目を細めて。
「右に同じで……」
「左に同じだな」
店員さんはすこし気を落とした様子。
肩が下がった。
「まあ他にも商品はあるから、気に入ったものがあったら買っていってね」
「あ、はい」
フーリャが代表して答えた。
しかし、珍しそうな商品はあるものの、気に入ったものはなかったので、買わずに店を後にした。
《いつも待っている機関車》とはいえ、いつまでも待たせておくのは気が引ける。
3人は早めに戻ろうと薄い海面を踏みしめて進んでいく。
「やあ、いい買い物はできたかい?」
《案内をしてくれる大地》が話しかけてきた。
フーリャが先んじて対応する。
「正直なところ変な商品が多くて、あんまり買い物しなかったぞ」
「あっはっは、辺境の駅前だからねえ。土産物屋も珍品が増えちゃうのさ」
「そんなものか?」
「首都に近い、ちゃんと栄えた駅前なら普通の商品も売ってるよ」
「へえ」
「行ってみるかい?」
「いや、列車を待たせてるからもう行くわ」
「そう……また来ることがあればぜひ寄ってみてほしいね」
口の形をした砂は、口角を変えながら、提案してくる。
その口調と様子はすこし寂しそうだった。
次第に列車の停まっている駅が見えてくる。
3人は駅の構内に姿を消していったのだった。
フーリャと仲間たちの短期旅行 水嶋 穂太郎 @MizushimaHotaro
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