第5話 案内をしてくれる大地
列車が止まった。
どうやら停車駅についたらしい。
早速、降りようとしたフーリャをクロンがやめるように言う。
「フーリャ、ここで降りちゃうと列車を待つことになっちゃわない?」
「んー、《いつも待っている機関車》だし大丈夫じゃねえの?」
「まあ確かにそういう列車なんだろうけど……」
クロンはこの運行列車を利用したことがなかったので、不安だった。
なので、車掌さんに聞いてみることにした。
先頭車両まで移動して、駅員の格好をした人に話を聞いてみる。
すると、男性はこころよく答えてくれた。
「ええ、お客さんが戻ってくるまで待っていますよ!」
「他の客が戻ってきた場合はどうするんだ? 待ってるのか?」
聞いたのはフーリャだ。
確かにクロンも気になる。
「列車を分身させるんで平気ですよ?」
「なるほど、その場で増やせるのか」
「そうですね。お客さんは当運行を利用するのは初めてですか?」
「まあ、そんな感じです」
「見たところ、全員子どものようですけど、どこかへ買い物ですか?」
「いえ、こいつが二十歳なので、保護者をやってもらって旅行です」
「旅行! いいですねえ」
そう言って車掌さんはうらやましそうにしていたが、「もっとも私は毎日の仕事が旅行のようなものですがね」と言い換えされて、フーリャはぐぅの音も出なかった。
「ではいってらっしゃい!」
「へーい」
適当に挨拶をして駅の構内から外に出る。
海か湖かわからないが、平面の大地が広がっていた。
家や町は見かけないので、道の駅のような場所なのだろう。
と、その時。
「ここから先に1km南に進むと、土産物屋があるよ!」
どこからか、フーリャは声を聞いた。
フーリャもクロンもレミリも初めてくる土地なので、彼らの声ではない。
「おすすめは、海面飴だよ!」
また聞こえた。
どうやら下から聞こえてくるようだ。
水面の下の砂が口の形をしていた。
「やあ」
「お、おう」
フーリャはちょっと驚いた。
砂が生きているのか、この星の砂はしゃべることができるのか、判断できなかったからだ。フーリャたちの住んでいる星の砂はしゃべったりしない。
「ぼくは《案内をしてくれる大地》だよ」
「名前まんまだな! 自己紹介ありがとよ。おれはフーリャで、こっちの2人は」
クロンが深々と地面に向かって頭を下げ、レミリは軽く会釈した。
「クロンと申します」
「レミリよ、変な砂さん」
変はひどいなあ、と砂は笑った。
「砂さんは仕事でこんなことやってんのか?」
フーリャが聞いた。
「そうだよー」
「ちなみに旧こよみで何歳?」
「この星ができてからずっと。まだ新しいんだよね、うちの星」
「へえ」
「まあたぶん1億歳くらいかな」
「とんでもねえ長生きしてんじゃねえか!」
1億年も仕事を続けているなんて冗談じゃない、とフーリャは思う。
いつかは子どもに飽きて自分も大人になるんだろうな、と考えてはいたが、いくらなんでも長すぎる。
そんなに働くのならば、やすらかに逝きたいものだ。
「どう? ぼくの話は参考になったかな?」
「ああ……楽しい話をありがとよ」
「それはよかった」
「海面飴っての買って、おれたちはもう行くわ」
フーリャは、後ろに控えていたクロンとレミリに合図をして、その場を後にした。
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