第4話 頼んでいないお弁当

 大人が運営している《いつも待っている機関車》に乗ったフーリャ、クロン、レミリの3人は適当に空いている席に腰を下ろした。


 いつも待っている機関車は、全身を揺らす振動を伝えながら、ガタゴトと進んでいく。

 車窓からは流れていく景色がよく見える。

 海、川、山、空、星がゆっくりと動いていく様子は、フーリャにとってなかなかに刺激的だった。特に、昼間でもさまざまな色や形をしている星に目が留まった。


「やっぱり旅行はいいな、おい! そう思わねえか?」


 フーリャが聞いた。

 問いに対してクロンとレミリは微妙な顔をした。


「ぼくは仕事をしていたかったんだけど……」

「わたしはコタツに入って正月番組を見ていたかったわ」


 否定的な回答を二人から返されたが、フーリャは気にしなかった。


「なぁに、旅先でいいことがあれば、沈んだ気持ちなんて吹き飛ぶぜ!」

「旅行なんて旅番組でいいじゃないの」


 レミリが反論する。


「いやいや、実際に見るのと、映像で見るのじゃやっぱ違うだろ?」


 フーリャも黙ってはいない。

 3人できたのだから3人で楽しみを共有したいのだ。


「お腹すいた」


 クロンはクロンでマイペースである。

 いったいどこから空腹の話が湧いたのか、フーリャにはわからない。そもそも、本当に空腹で口から言葉がこぼれたのかもしれなかった。


「食べよう」

「おう、先に食べとけ」


 クロンの膝の上に弁当箱が現れている。

 誰も気づかないうちに現れていた。

 周囲の席には他の客がいるものの、売り子さんは見当たらない。


「それ《頼んでいないお弁当》か?」

「そうみたいだね」


 フーリャが聞いて、クロンが答えた。


「中身は?」

「開けてみないとわからないよ……」

「支払いは?」

「……無料だと思う」

「ならおれも欲しいな」

「フーリャ、膝の上にお弁当が置かれてるよ?」


 いつの間に!

 とフーリャは驚いた。

 ちょっとしたびっくり箱を置かれた気分だった。

 フーリャにとっては初めての経験だったのだ。聞いたことはあったけれど、いざやられると不思議に思える。


「じゃあ同時に開けようぜ」

「いいよ」


 ぱかっと小箱を開く。

 中に入っていたのは茶色と白の肉に、てかてかと光るタレがかけられた焼き肉弁当だった。フーリャの大好物だ。


「おれのは焼き肉弁当だったぞ!」

「こっちは、のり弁当」


 クロンの膝上に乗せられた弁当箱を見ると、ご飯の上に深緑色の薄い紙みたいなものが重ねられていた。クロンがぼーっと目を大きくして見ている感じでは、好物なのだと思われる。


「わたしは、卵そぼろご飯ね」


 レミリも弁当を手に持っていた。

 というか見せびらかしていた。


「おいしそうだね」


 律儀にクロンが反応した。

 フーリャは、特に可でもなく不可でもなくといった感想だったので、何も言わなかった。


「ふふん、ねだってもあげないからね!」

「いや、その時はまた《頼んでいないお弁当》がくると思うから……」

「そういうものなの?」

「たぶんね」


 と、そこでレミリが気づいた。


「フーリャ! お弁当をバクバク食べてないで会話に加わりなさいよ!」

「ひょんなことふぃったって、んぐ。止まらないものは止まらないんだわ」


 うがーっとレミリはフーリャに雄叫びをあげる。

 その様子を涼風を受けるように流してしまうフーリャ。


 二人とも楽しんでいるなあ、と思いつつ、のり弁を食べ進めるクロンだった。


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