第2話 ちょうどいい格好にしてくれる洋服入れ
「元旦になんの用?」
レミリの家を訪ねてフーリャがチャイムを押すと、何枚もの服を着込んだ少女が玄関扉からぬっと顔をだした。
「フーリャ……と、クロンよね?」
「あん? あんまりにも引きこもり続けて人の顔も忘れちまったのか?」
「見た目は変わってないじゃない……」
「そりゃそうか」
こよみを自由に決められるようになってから、歳も自由に決められるようになった昨今だ。
見た目が急に変わっていてもおかしくはない。
彼女――レミリはむしろ変わっていない見た目を怪しんだようだ。
そんな少女の様子を無視してフーリャは続ける。
なお、クロンはフーリャの後ろにすこし距離を置いて離れている。
「旅行いこうぜ」
「イヤ。動きたくない」
「相変わらずだな」
「人に左右されたくないのよね」
なるほど、とフーリャは納得した。そういう生き方もある。
「ところでマジで正月なんだな。雪降ってんじゃねえか。中入れろよ」
「乙女の家に突然訪ねてきて、あがらせろなんて最低ね」
「なんとでも言え」
「……ちょっと待ってなさいよ」
軒先で待たされること数分。
「待たせたわね。入っていいわよ」
レミリの服装がそれなりに人様の前でもおかしくない格好に変わっていた。
ものの数分の出来事である。
不思議に思ったフーリャが尋ねる。
「早着替えなんて特技あったか、お前?」
「そんなどうでもいい特技なんてないわよ。便利なものがあるだけ」
「へえ、ちなみにどんな?」
「《ちょうどいい格好にしてくれる洋服入れ》」
なるほど、とフーリャは納得した。
そんなものを手に入れたのなら、数分で着替えて戻ってくることも可能だろう。
なにもおかしなことはない。
レミリに招かれて家のリビングに通されると、テレビが正月番組を流していた。
録画ではない。レミリにとって今は元旦だから、テレビもそれに合わせて当然なのだ。
「で、旅行だったわね。なんで急にそんな話になったの?」
フーリャは今が《中立こよみ》で七夕だということと、彦星と織り姫にあやかってどこかに行こうという計画を話した。
「なるほどね。ロマンチックでいいんじゃないの」
「お前もくるか?」
「イヤ。あんたたちだけで行きなさいよ」
「……もう面倒だ、こうすりゃいい」
フーリャは、リビングに飾られていたカレンダーを1月から7月まで一気に破ってしまった。
「あああああ! なにすんのよ!」
「暑い! 部屋が暑い!」
「そりゃもう7月だからな、早く着替えてこいよ」
「くっ、わたしを部屋から引きずり出したのかしら!?」
「んなこたぁねえよ、旅行についてくるかどうかは自由だ」
レミリは、ぐぬぬ、と歯がみをして。フーリャを睨んでくる。
「ひとつ条件があるわ」
「なんだよ」
「元旦の残ってるカレンダーを買って。そしたらわたしも行く」
「お前もたいがいだなあ……」
あきれ半分のフーリャ。
なお、フーリャとレミリのやりとりと見てきたクロンは、いっさい口を挟むことができなかった。この二人の会話についていくのには無理があると自覚していたからだった……。
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