フーリャと仲間たちの短期旅行

水嶋 穂太郎

第1話 カレンダー

 なんの特徴もない部屋で、2人の男子が壁に貼られたカレンダーを見ていた。


 一人はこの家に住むフーリャという、子どもと若者の中間くらいの男子。

 その男子とカレンダーの間で視線をさまよわせている、クロンという若者。


 フーリャがぼそりと口を開いて言った。


「……どこか旅行に行きたい」

「どうしたの、フーリャ。浮かない顔をして」


 フーリャの友人であるクロンが聞いた。


 フーリャは中立年齢で16歳になる、子どもだ。

 好奇心が旺盛な時期である。

 暇さえできれば、どこかに行ってみたい気分にもなる気性だった。


 年齢が一定の期間でカウントされる中立年齢に沿った、伝統的な生活をしているものの、まだまだ子ども。好奇心を抑えることはできなかった。


「今日って《中立こよみ》で、七夕じゃん?」

「だからどうしたんだい?」

「彦星が織り姫に会いに行ってんだから、おれたちもどっかの誰かに会いに行ってもいいと思うんだよ」

「理屈がわかるようでわからないんだけど、要するに誰かとの出逢いを目的に旅行しようということ?」


「そう!」とフーリャはおおげさにうなずいた。


「でもなあ……未成年だけだと旅行って許可が下りないんだよなあ……」

「……クロンはいま年齢って何歳になってんの?」

「……20歳だけど」

「お、ちょうどいいじゃん。保護者としてついてきてよ」

「どちらかと言えばいやだ」

「なんで!」

「フーリャが面倒を起こしそうだからだよ!」


 クロンはフーリャと年齢はすこし離れているものの、産まれてから同じ時間経過でカウントされる中立年齢なら、同級生の子どもだ。幼いころからの付き合いで、フーリャとの接し方も心得てきていた。基本、かかわらない。

 あばれんぼうのフーリャには近づかない。

 トラブルメーカーのフーリャとは関わりを持たない。


 クロンは、中立年齢を越えて、20歳になっている辺り、周囲の子どもとは距離を置いて、早くおとなになりたいのだ。子どもっぽいフーリャにはできれば関わりたくない。


「僕のこよみだと、まだ4月なんだけど」

「はぁ!? 4月だって、クロン!? またなんでだよ?」

「仕事の上司を笑わせるためにエイプリルフールのネタを考えていて、こよみを4月1日にしてたら、そのままにしちゃってね」

「おっちょこちょいだなあ……いくらこよみを自由にできるからってそりゃないんじゃない?」

「まあ……反省はしてるさ。自分のこよみから出たらもう夏だったから焦ったよ」

「なにやってんだよ、まったく……」


 中立こよみのカレンダーが役に立たなくなってからは困るなあ、とフーリャはため息をついた。世の中は便利になるほど、弊害で悪影響もでてくる。困ったものである。

 ちなみに中立こよみ――旧こよみの上では、今は7月7日であった。

 フーリャは頭を振って、考えを切り替える。


「2人じゃちょっと寂しいじゃん。あいつ誘おうぜ」

「あいつ? あいつって……まさか!」

「お察しの通り《正月女》のレミリだ」

「彼女は放っておこう! ぼくはきみ以上に彼女が苦手なんだ!」

「正月のまま引きこもってるだけじゃねえか」

「とんでもない頑固者でしょう……」


 クロンは、考えただけでも疲れてくる、といったふうだ。

 レミリは自分の考えをとにかく押し通す気質だったので、中立こよみに則った中立学校で同じクラスになっても、浮いているのがわかった。手を差し伸べようとしたときもあったのだがあっさりと「邪魔」の一言で終わらされてしまったのを、いまでもショックに思っていた。

 そんな彼女も誘って旅行?

 あり得ない……。


「おう、レミリを引きずり出してやろうぜ」

「言い方!」

「まあ時と場合によっては仲良くなれるきっかけになるかもしれんぞ」

「……」


 フーリャは割とクロンの考えをお見通しのようだった。

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