第4話
「――んっ、しっとりしてておいしい......」
「それは良かったよ」
俺は冷蔵庫からチョコケーキを取りだし、取り皿とフォークを持って紬の部屋にやってきた。
そしてそのチョコケーキを見るや否や、すぐにフォークを取り食べ始めたのである。
「ははっ......お前って甘いものが好きなのね」
「うーん......そうかな。でも、あんまり甘々なものはちょっとくどい」
「あー、まあたしかにな。甘々だと全部食べれないもんな」
「うん。というか、このケーキお兄ちゃんは食べないの?」
チョコで口元が汚れているのを気にしてない紬が、不思議そうにそう訊いてくる。
「え、あ、いや、そのケーキはお前のだからさ......その、なんか食べたら悪いっつーか、罪悪感があるっつーか。だから――っ!?」
「お兄ちゃんも食べればいいのに」
「むぐっ!?ちょ、おまっ!?」
何が起きたのか一瞬分からなかったが、どうやらフォークで取ったケーキを俺の口に押し込んだらしい。
そんな強引にしなくても......。
「むぐ......うん、普通に美味い。それと......お前口元チョコだらけだぞ」
「えっ?あ、あうぅぅ......」
テーブルに置いてあった小さな鏡を取り、自分の顔を映すとその光景にちょっと恥ずかしさがあったのか、少し唸りながらもそのチョコをティッシュで拭いた。
「ふぅ......」
一息ついたところで、俺はちょっと気になっていることを紬に訊いてみた。
「なあ、なんでお前は引きこもりになっちまったんだよ?」
「教えない」
きっぱりと言われてしまった。
「まあ、そのうち分かる日が来るでしょ。なんか、そんな予感がするし」
どんな予感だよそれ......怖いんだが。
「まあでも、一つ言える事としては――」
「この私は、本当の私じゃないってこと」
「......はい?」
ちょっと意味不明な言葉だった。
「今わたしいるでしょ?」
「う、うん」
「今いるこの私は、本当の私じゃないってこと」
「......いや、分かるように言ってくれてるのかもしれないけど、俺には全然分からんぞ?」
「今は分からなくてもいい。そのうち答えがくるからさ」
なにそれ怖いんですけど。
「まっ、とにかく、ケーキ食べよ?」
嬉しそうにケーキを食べる紬。
まあかわいいから良いんだけど。
その日はとても楽しい一日だった。
久しぶりに紬に出会って、そしてこんなにも嬉しそうにケーキを食べている姿が見れるという嬉しさ。
ケーキを買ってきて良かったかもな。
「......何見てんの?」
俺の視線を感じたのか、ケーキを食べるのを一旦止めて俺の方を見た。
「あ、いや、なんでもないです!」
俺はちょっと慌てながらも視線を逸らした。
「......もう、ばか......」
そもそも、紬の顔に見とれてたって言ったらどうなることだが......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます