第74話 村長検討会議




 夕方になり代官のマッシュが来村した。


 「ジョアン=デンカー、ようやくお帰りになりましたか。ダリウス=ハールディーズ様に連れて行かれたと聞いた時には驚きましたが、その後は何やらノースフォレスト地区の食糧事情のために色々とハールディーズ領で動かれていたと聞いておりましたので、戻られるのを心からお待ちしておりました」


 「いやいや、マッシュは心配だったんじゃないの? 私がそのまま王都に戻ってしまったら、一緒に借財の申し込みをしに行ってくれる人が居なくなるって」


 俺は少し意地悪くマッシュにそう言ってみる。


 「ジョアン=デンカー、痛いところは突かないでいただきたいんですがね。とはいえ、ジョアン=デンカーの持ってきた海産物は興味がありますが」


 俺はハールディーズ領から持ち帰った煮干しと乾燥わかめなど乾燥海藻を見せた。


 「今日はこれを使った料理をお出ししますが、気に入ったらたくさん買って食べてください。煮干しは体を作る大事な栄養の他骨を作る栄養もたくさん含まれていますので領民の体格を良くするために役立つと思います。

 それとこちらの乾燥した海藻は煮干しとはまた違った体を作るための栄養が豊富に含まれています。 それと、海藻をたくさん食べると髪の毛がいつまでもフサフサでいられる効果があるとかないとか。

 マッシュには買い上げてもらうというよりは、クリン村や他のノースフォレスト地区にこちらの製品を普及させるためにお骨折りいただきたいんですよ」


 代官マッシュは海藻の効能を聞いて、無意識だろうが普段から気にしている自分の頭髪に手をやった。


 「販売に関しては、ライネル商会に一任しますよ。税の優遇はできませんが、調理方法などは私の家人や関係先などに教えて広める一助にはできるでしょう」


 「それだけでも十分有難いことですよ。よろしくお願いします。

 ところで、本日はこれからフライス村の村人が集まって会合をするそうですね」


 「ええ。デンカーもその様子だとお聞きになったようですが、村長のディルクの急死に伴って次の村長をどうするか話し合うのです。

 村長は代々世襲でディルクの家の者が務めていたのですが、今回はディルクの長男のエリックが11歳ということで、そのまま任せていいのかという声が他の村人から上がっていましてね。私が強引にエリックで、と決めてしまってもいいのですが、村長はそれなりに仕事も多いので果たしてエリックがそれを覚えてやれるのかどうか、私も不安に思う部分もあります」


 「ディルクさんが村長を継いだ時はどうだったのですか?」


 「ディルクが村長を継いだ時はディルクが21歳でしたから、そんなに揉めたりすることはなかったですよ。ディルクの父も病気で亡くなったので、病床の身とはいえ引継ぎもできましたしね。村長の息子が年若い場合は他の村の場合だと補佐役をつけたりしていますが、今回のフライス村の場合は補佐役になり得る者からエリックが継ぐことに疑念が上がっていまして。難しいところです」


 「こうして合議で村長を決めることって今まであったのですか?」


 「いや、ほぼ前例はないですね。村長の仕事は結構専門的な部分も多いですから、村長から子へと口伝えで教えている部分も多いので、代々村長の子が継いでいます」


 「村長の仕事ってどんなものがあるんです?」


 「多岐にわたる、としか言えませんが、王家領の畑の耕作労働の村民への割り振り、木の伐採の主導と薪の分配の割合決め、商人との様々な物品の売買交渉、耕作労働以外の労役と兵役の人選、村人同士のいざこざの仲裁、必要な情報の村民へ周知連絡などですね。当然代官である私との交渉や陳情もあります。

 こう見ていくと11歳のエリックには荷が重いのではないか、と不安に思うのですよ」


 確かになあ。思ったより面倒臭い。どれもこれも面倒だが、村人にそれらの情報を伝えるのは特に面倒だろう。何せほとんどの者は字が読めない書けないだろうから、回覧を回す、なんて無理だし立札で周知、なんてのも無理だ。いちいち一軒一軒回って伝えていくしかない。


 「マッシュには何か腹案があるの? マッシュはディルクの息子以外で誰かやってもらえそうな当てはあったりする?」


 「お恥ずかしいことながら、そこまで詳しくフライス村民のことを私は知りません。

 おい、ハーマン、誰か当てはあるのか?」


 マッシュが自分の家人を呼ぶ。


 ハーマンと呼ばれた家人が返答する。ハーマンは以前俺が無理やり風呂に入れた従者の一人だ。てっきり従者だと思っていたが、実はそうじゃないのか。フライス村担当の官吏なのかも知れない。

 あれから毎回ここに来たら風呂に入るのを楽しみにしていたようだから、変に機嫌は損ねていないだろう。そうであってほしい。


 「今回エリックの村長就任に異議を唱えているのはペーターとティモの2人です。2人ともディルクの補佐役としてこれまで動いてきた村人です。ペーターは主に村の連絡役として動いていたので村人には顔が広く、ティモはディルクと一緒に行動し実務に当たる、言わばディルクの右腕でした。ティモはディルクが命を落とした時も一緒に木の伐採をしていて大怪我を負いましたが、デンカーさんのところのエルフのお嬢さんに怪我を治してもらって命を取り留めました。

 エリック以外の者に村長をさせるのならこの2人のどちらかになるかと思います」


 「ハーマンは直接村長や村民とやりとりをしていましたので、それなりに村民の人となりには詳しいのですよ。今日の集会もハーマンに仕切ってもらいます」


 やっぱりハーマンはフライス村担当の官吏だったよ。まあ俺の王子って立場も知ってるだろうから失礼な事してたとしても普通ならどうでもいいんだろうが、もう少し人となりを知る努力をしておくべきだったか。これから出てくる情報がどんな心情に基づいているか判断がつかない。


 「ハーマンさん、ごめんなさい、ずっとマッシュの従者だと思ってました」


 「いえ、デンカーさんが誤解するのも無理はありません。

 デンカーさんがフライス村にいらっしゃるまではバーデン男爵も滅多にフライス村には足を運んでいなかったので、私が主なやりとりを村長らとしていたのですが、デンカーさんのおかげでバーデン男爵も足しげくフライス村に来られるようになりましたから私の影が薄くなっても当然ですし、私もバーデン男爵にお仕えしていることに違いはありませんから。

 本来殿下が私ごときに直接お声がけされ、こうして直接返答をするなど有り得ないことですから、こうしてお話いただけるのもこの身に余る光栄に存じます」


 「いや、ハーマンさん、そんなに畏まられるのもここではちょっと……何だかむず痒いよ。

 王都に陳情に行った時だったら相応の態度にしてもらわないといけないですけれど」


 「ハーマンは王都には連れて行きませんよ。ハーマンを連れて行ったらノースフォレスト地区の政務がかなり滞ってしまいますからな」


 「ハーマンさんは優秀なんですね。これからもノースフォレスト地区をよろしくお願いします。

 ところでさっきの話の続きですけど、ハーマンさんは誰が村長にふさわしいと思われるのですか?

 私ごとき子供が言うのもなんですが、ただ村人が集まって意見を言うと言っても皆初めてのことなんでしょう? とても話がまとまるとは思えないんですよ」


 「そうですね……私はティモが村長ならばまとまるのではないかと思いますが。年齢も35歳ですし、あと10年は無理でも5,6年は務められる壮健さはあります。エルフのお嬢さんの治癒魔法のおかげで後に残る障害もありませんから。

 ペーターは忌憚なく言えば、口は回りますが実際に働く部分で上手く立ち回って逃げている部分が見える時がありますので、顔は広いですが村人の信頼を集められるのかという不安があります。

 エリックに関しては正直、よくわかりません。父親のディルクと一緒に作業をしている姿は見ていますが、実際村長としての働きの場に出てきたこともないですから」


 「ちなみに村長になると得をすることって何かあるのですか」


 「殿下の御父上がお触れを出して、村人皆が王家領から分譲してもらい自分の農地を持てるようになったのは今から10年前です。それまでは一部の農民、村長を務めている家などくらいしか自分の農地を持っていませんでした。その頃は自分の農地を持つ家は多くの小作農を雇い羽振りも良かったのです。王家の畑も大勢の小作農を使っていました。その頃村長というのは最大の自作農でしたので、先程バーデン男爵が説明したような仕事もただ小作農に押し付けるだけ、自作農にも通達するだけで良かったのです。自作農同士の争いなどは土地と小作農の数の多寡で決まりましたから随分楽だったと思います。

 今は村長の仕事は王家領の畑の耕作割り振りが増え、報酬も特段出る訳ではありません。まあ木材などの共有財や、王家領の畑の収穫からいくらかを慣例として村人に渡す分の分配を任されているので、村長として適度に他の村人よりも多く取る、くらいの役得はありますけれど。

 ディルクもそこまで自分の分を多く分配していた訳でもないだろうと思いますが、それほど労以上に得をする仕事ではありませんね」


 「要するになって得をするようなものではないということですね」


 「私たちから見ればそう思いますが、貧しい者から見れば富を蓄えられるチャンス、と思うものもいるでしょう」


 「ハーマンさんの話に出てきた人で、得をするために村長になりたがっている人っていますか」


 「率直に言ってそこまではわかりません。ペーターもティモも、自分が村長になりたいがために異議を唱えているのかどうかもはっきりしません。彼らはただ、年若いエリックに任せていいのか、多くの村人にも意見を聞きたいとしか言っていなかったのですよ」


 「そっかー、でも決め手に欠けるね。エリックを2人が変わらずに補佐する形でもいいんじゃないかと思うけれど、それは無理なの?」


 「どうなんでしょうね、話を聞いてみないことには何とも」


 マッシュが口を開き、ハーマンに言う。


 「私としては、今までと変わらず村人が働いてくれれば村長は誰がなったってかまわないんだよ。ディルクの息子が継いでくれるのならそれでもいい。やることさえやってくれればね。主だった村人の意見だって本来は聞く必要はない。ただ、ハーマンが一度そういった試みをしてみても良いのではないかと言うから今日臨席するだけだ。補佐に着くのが嫌だという二人のどちらかが自分がなりたいと言い出して、多くの村人がそれに賛同するのならそれでもいい」


 これはマッシュ熱い責任逃れだな。

 ハーマンの責任にするつもりだ。


 「ハーマンさん、とりあえず最終的にハーマンさんが思うように決めるしかないですよ」


 済まない、俺も熱い責任逃れだ。だって全然誰がいいとか解らないんだもの。

 少なくとも話を聞かないと解らないし、そもそも俺が決めることでも何でもない。


 「はぁ、そうですね、とりあえず今日の話の中心もペーターとティモになるでしょうから、二人の話を聞いて決めたいと思います」


 ハーマンは深いため息と一緒にそう言葉を出した。





 それから30分程して村人が20人程代官屋敷の広間に集まった。出席が義務付けられている訳でもないので全世帯から一人必ず来ているという訳ではないらしい。


 俺たちがいつも使っているダイニングテーブルの周囲には全員が座れないので、フデの檻とダイニングテーブルの間の広く空いた空間に椅子を人数分置き、座ってもらう。


 フデの檻の前に演台のような台を置き、その後ろにマッシュが威厳を出して座る。


 その横にハーマン。ハーマンが司会進行役だ。


 マッシュを挟んでハーマンと反対側にディルクの奥さんのマールさんと息子のエリック。そのさらに横の壁側にオブザーバー参加でルンベック牧師、ドノバン先生、ハンス、ダイクが座っている。


 俺とピア、リューズは厨房にいる。


 結局、マッシュらと話しているうちに村人たちが来る時間になり、夕食を食べている時間がなかったので、これが終わったら村人らにも鍋料理を振る舞い一緒に食べようと思って厨房で用意しているのだ。

 単なるもてなしではなく、煮干し(すりつぶしていりこにした)のダシの味を知ってもらうためだ。当然具には海藻も入れてある。

 とはいってももう鍋の準備の大半は終わっている。

 ピアが参加者全員にペパーミント茶を出してしまったので、もうすることがない。


 だから厨房から話の様子に聞き耳を立てる。


 最も話に参加して話をリードしようなんて気はないが。


 「あー、皆の者、わざわざ集まって貰ってご苦労。皆に集まって貰ったのは他でもない、前村長ディルクが死亡して、慣例に習えばディルクの息子のエリックが村長になるのだが、それに一部の村人から異議が上がっていてな。それについて皆の意見が聞きたい、というわけだ。

 意見を聞かせてもらう前に、ノースフォレスト地区の代官、マッシュ=バーデン男爵からお言葉がある。心して聞くように。

 では男爵、お言葉をいただけますか」


 ハーマンが進行する。こんな庶民相手の会合の進行は初めてだろうが、無難な進行だ。


 「皆の者、今日も王家のための労働、よく働いてくれた。労働後の休息時間に集まってもらうのは心苦しいが、皆の生活にも関わることだ。よくよく話合って決めて貰いたいと思う。

 村長の仕事というのは、王家領の畑の耕作労働の村民への割り振り、木の伐採の主導と薪の分配の割合決め、商人との様々な物品の売買交渉、耕作労働以外の労役と兵役の人選、村人同士のいざこざの仲裁、必要な情報の村民へ周知連絡、そして代官である私との交渉や陳情と多岐に渡る。

 これら重要な役割を果たすにふさわしい人間を選んで欲しい。

 そして、村民ではないが、立派な知見を持った人物として、教会のルンベック牧師、私の知己のデンカー商会のフライス村責任者の面々、ドノバン氏、ハンス氏、ダイク氏にも臨席してもらった。彼らの知見も借りながら話合って、私としてはこのフライス村のことを任せることができる人間を是非選んで欲しいと思っている。

 以上だ」


 なかなか貴族らしい態度でマッシュが挨拶を終えた。

 そうだよ、普段俺とは気さくに話してるけど、貴族なんだから。

 庶民の話し合いにマッシュが臨席するなんてほぼないだろうな。


 「では、まずは異議の訴えをした者の話から聞こうか。

 ペーター、前村長が健在だった頃に前村長をよく手伝っていたお前が、今回前村長の息子のエリックが村長を継ぐことを危惧した理由、皆の前で聞かせて貰おうか」


 名前を呼ばれたペーターが立ち上がる。

 それ程身長は高くない。下手したらダリウスよりも小さいかも知れない。

 猫背気味で前歯が2本常に口から出ている。


 「へへっ、それでは話させていただきます。

 私はディルクが生きていた頃から、村を回って畑の耕作の割り振りだの、薪の分配だのを伝えさせていただいておりました。その頃から村人一人一人と話す機会が多かったんですが、前村長のディルクの物資の分配だの耕作地の作業の割り振りだのが、どうも不平等なんじゃないかってえ声がチラホラ聞こえてきてたんですな。

 それでディルクが亡くなって、まあ当然息子のエリックが継ぐわけじゃあないですか。

 それでエリックにそういった声が上がってるってことを伝えて改善してもらおうと思い何度か話したんですよ。そしたらエリックは、自分には決められないってその度に泣き出しましてねえ。村の長としてまあ軟弱というかねえ、エリックに任せて私らの生活立ち行くのかって不安になりましてねえ。それでハーマンさんにご相談したっていう訳なんですよ」


 うーん、外見と話し方のせいなのか、非常に嫌味ったらしく聞こえてしまう。

 いきなり何も知らない11歳の子供にそんな話をしたところで、と思うが、そうもいかないのか? この世界は。


 「私に話した通りのことだな、ペーター。その後気持ちが変わったりはしていないのか」


 「へへっ、ハーマンさんにお話しした後も何度かエリックには話しましたけど、全く変わりませんや」


 「そうか、ペーター。お前の異議は皆が聞いた。一旦座ってくれ。

 では、もう一人の異議を訴えた者、ティモ。お前の考えを話してくれ」


 「……はい」


 名前を呼ばれたティモが立ち上がる。

 ティモは身長は165cm程で、村人の中ではやや身長が高く、それなりにしまった体つきだ。

 額が出っ張り、目が奥まっている。

 右腕に大きな傷跡が残っているが、ジャイアントボアに付けられた傷が治癒魔法でも体の栄養が足りず治りきらなかったのだろう。


 「……ディルクは村長としてふさわしかったのかどうか、ペーターの言う話にも一理あると思っています。奥方のマールと息子のエリックがいる前で言うべき話ではないかも知れませんが、ディルクは大自作農の息子で村長になるのも当然という驕った部分がありましたから、10年前の小作農の開放によって立場の絶対的な優位性が失われてしまった後は自分の驕りを持て余していたように思います。村長として責任は重くなり、自身の権益は少なくなった。そんな中で物資の分配や耕作地の作業の割り振りに自分の恣意的な部分が表れていました」


 この人、イカツい外見の割に、話す言葉がしっかりしている。まったく学がない訳ではなさそうだ。


 「ティモ、前置きが長いな。前村長のディルクの話ではないぞ。次の村長の話だ」


 ハーマンが続きを促す。


 「……私も曲りなりに元は自作農の息子でしたから、ディルクの戸惑いや悩みは理解できていたつもりでした。ディルクは驕った部分が確かにありましたが、小作農の解放後も村長としての責務は果たそうとしていました。村長としてフライス村を守ろうという強い気持ちがあった。それはディルクの美点です。

 私がエリックに村長の責務が務まるかどうか危惧している部分は、エリックにこの村を先頭に立って守ろうという気持ちが見えないことです。

 ……ディルクは兵役には出ておらず、特段の戦闘訓練なども受けていませんが、害獣が出たら先頭に立って被害を抑えようとしていた。今回は残念な結果になってしまいましたが、ディルクが踏ん張ったおかげでジャイアントボアを1頭は仕留めることができましたし、無傷で仲間を逃がすことができ、結果的にそこにいるドノバンさんたちの助けを求めることができて私たちも助かった。

 しかしエリックは、以前からディルクが何度誘っても木の伐採にも来ず、ディルクと一緒に体を鍛えることもせず。とても村人の先頭に立とうとしているとは私には思えなかったのです」


 淡々とティモが話す。妙な説得力がある。


 「なるほど、良く分かった。ティモ、座ってくれ。

 エリック、この両名はおまえの父、ディルクをよく助けていた者たちだ。この者たちからの異議、おまえはどう考える? そも、お前は村長の責務を果たしたいと考えているのか? エリック、聞かせてくれ」


 「エリック、しっかり自分の考えをお言い。さあ」


 エリックの横に座っているマールさんが、エリックにそう声をかけるが、エリックは黙って下を向いている。両膝に乗せた両拳はギュッと握りしめられている。


 「エリック、しっかりおし! 父ちゃんが悲しむよ!」


 「へへっ、ハーマンさん、こんな感じなんですわ。これじゃあとてもとても何か決めたりするなんてできゃしないでしょう」


 ペーターの嘲るような声。


 それを聞いた途端、エリックは立ち上がり、扉に向かって走り出した。


 「エリック! お待ち!」


 マールさんが制止するが、エリックはそのまま俺たちのいる厨房の前を走り抜けて行く。

 一瞬見えたエリックの目には涙が光っている。


 「リューズ、追おう。ピア、皆さんにメカブ茶入れて場を落ち着かせて」



 俺はそう二人に言うと、扉を開けて外に出たエリックを追っかけた。



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