第29話 エイクロイド帝国の政変の顛末
初めて王宮から出て、エイクロイド帝国の首都リーバスのリドルリア皇宮へ行ってから1年弱が経過して俺は8歳になった。
今は5月。
俺は今、フライス村という所にいる。
何故ここにいるのか、それを少し回想しようと思う。
別に勘当された訳でも、追放された訳でもないぞ。
エドモン=バーナビー皇帝戴冠10周年記念式典から急遽帰国した俺たち一行は、一旦ハラス王国の首都レングランシュトルムに入った。
リドルリア皇宮からレングランシュトルムまでは僅かに1日弱。
リドルリア皇宮を発った次の日の朝にはレングランシュトルムに着いていた。
ホーデンバーグ王家の好意で、そのままお茶運搬船を使わせてもらった俺たちは1日半でレングランシュトルムから港町メルネに着いた。
お茶運搬船は速度重視のため大型ではなく中型船だったためメルネにも問題なく入港できたのだ。
行きは3日強で帰りは2日強。
かなり早く帰りつくことが出来た。
帰国したダニエルパパ上はエイクロイド帝国との国境に近い貴族に対し、エイクロイド帝国の暴動の波及に備え、各貴族ごとに警戒を強めるように要請した。
国境線はリルズ川だ。川を渡って暴徒がなだれ込むことは殆ど無いだろう。
ただ、軍による侵攻とは違って、平民身分の者たちの反乱だ。
アレイエムの平民たちにも思想的な影響が出ないとも限らない。
50年前に疾病が大流行し、農村や都市部でバタバタと人が死んだ。その影響で労働人口は一気に減った。その後も疾病は何度も小規模ながらも繰り返しネーレピアを襲っている。
そのためどこの土地でも労働力不足だ。
まっとうな領主は労働力が不足している現状を理解して、農業の収穫減を他の方法で、例えば商品作物への一部転換だったり、家内制手工業で特産品を新たに作り売ったり、あるいは収入減の現実を受け入れて領地の予算の無駄の削減をしたり、補う工夫をしている。
しかし、労働力不足の現状を理解しきれていない領主は単純な増税で減収分を埋めようとしたため、その重い負担を課せられた平民階級の不満は数十年分溜まりに溜まっている。
今回のエイクロイドで起きている反乱はそうした性質のものだ。
アレイエムでも労働力不足の現状を理解していない領主は多い。
そう言った者たちの領地で、エイクロイドの反乱に影響されて領民たちが反旗を翻す可能性がある。
それに備えよ、というのがパパ上の命令だ。
もちろん西部の王家直轄領を預かる代官=男爵位の者たちにもその命令は下っている。
王宮警備を担当する第1騎士団と、王都アレイエムの警備を担当する第2騎士団から戦力を割き、西部の王家直轄領に派遣する。
増援の騎士団を率いるのはゲオルグ=リーベルト第一騎士団長。
ゲオルグ先生はエイクロイドから帰ってきて、すぐにまたエイクロイドとの国境付近に赴くことになった。お疲れ様です。
そんな訳で俺は剣術と馬術の先生が不在となった。
第一騎士団の留守は副団長のエルウィン=レーマン伯爵が預かっている。
そのためジャルランの教育には大きな影響がなく、レーマン伯爵が多忙にになったため、剣術と馬術が週に4回に減った程度だ。
当初はエイクロイド帝国の平民反乱は1,2か月程度で鎮圧されるだろうという見通しで、国境への騎士団増援もその期間で終了するという見込みだったが、予想以上に長引いていた。
エイクロイド帝国の平民反乱が鎮圧されるどころか、予想以上に長引いていた理由は、オーエ教だ。
オーエ教本道派が、アナスタージ教皇名義で、平民反乱の中心組織である国民議会を正式なエイクロイドの議会として承認しろ、とエドモン=バーナビー皇帝に強く圧力を掛けたのだ。
元々神の元に人は平等、という中心教義を持つオーエ教。
本道派がその原点に回帰した、という訳ではない。
単純だ。
エドモン=バーナビー皇帝戴冠10周年記念式典のあと、数日の間リドルリア皇宮から出れず、帰国できなかったからだ。
平民からするとオーエ教団の上層部も結局平民から諸々の名目で搾取している側で、領主らと変わらないのだ。
それを自覚しているオーエ教団上層部は、自らの帰国時の安全を担保するために、国民議会をエイクロイドの正式な議会として承認しろ、とエドモン=バーナビー皇帝に強く圧力を掛けた。
結果、バーナビー皇帝というか官僚たちはその要請を受け、条件付きながら国民議会を正式な議会として認める、という声明を出した。
皇帝の権威は建前上、オーエ教皇から
それを受けてようやくオーエ教本道派は安心して都市国家オーエに帰国できた。
実際に襲撃されたかどうかなんてのは問題ではない。安心感という気持ちの問題だ。自分たちの安心感のために、エイクロイド国内の混乱を更に引っ掻き回したのだ。
帰国後のオーエ教本道派は話し合いによる円満な解決を望む、という声明を出しただけでエイクロイドの政変には介入していないが、反乱によるエイクロイド国内の教会収入減についてはエイクロイド代表者に文句をつけ、国庫から補助を出せと迫るという、なかなか世俗にまみれた対応をしている。
オーエ教本道派のその後の対応はともかく、エイクロイド帝国内では平民の代表が集った国民議会が正式に承認されてしまった。
これはどういう事態かと言うと、国民議会と、皇帝を始めとしたこれまでの政治機構と、2つの統治機構が存在しているということになる。
治安維持組織である軍は当然皇帝側に従うかと思いきや、実際に軍組織を回している下士官以下は平民の出が多く、ほぼ全ての平民出身の下士官、兵が部隊ごと大量に脱走した。脱走した兵たちは国民議会の元に集まり、国民軍を結成した。
武器弾薬は最初の暴動で武器保管庫を襲撃した時に略奪されたものを装備し、それなりの形の軍と呼べる状態にはなっていた。
地方の軍はここまでの事態の推移を見て、上級職に就いている貴族士官たちが平民出身士官や兵に拘束されたり殺されたりすることを恐れ逃走し、残った者はそのまま国民軍に参加するという流れがドミノ倒しのように起こり、エイクロイド中の軍の殆どは国民軍になった。
皇帝の軍については実働人員の殆どが国民軍に流れてしまったため、リドルリア皇宮を守備するのがやっとの状態となっていた。
ここまで僅か3か月だ。
エイクロイドの実権は実際に軍を握った国民議会と、議長のラプスティエールに移っていた。
貴族院議会は名目としては存在しているが、議会で議決をいくらしようとも、実際の施策機構は軍を持つ国民議会の議決のとおり政策を実施するようになっており骨抜きになっていた。そんな中国民議会が貴族院議会に合流を求め、半分以上の貴族院議員は国民議会と対等の立場を保証されるとの言に釣られ国民議会と対を為す形の貴族院議会として再編された。ただし国民議会の議決を貴族院議会が否決したとして国民議会に差し戻しとなるだけ。同じ案件が再度国民議会で採決されれば貴族院議会は二度否決することはできない。
諸外国はというと、こうしたエイクロイドの国内の混乱についてはこの3か月間、正確に掴めていたところは都市国家オーエくらいだったのではないだろうか。
国の隅々まで存在するオーエ教会がオーエの情報網として機能した。
各国は商人などから情報を得ていたものの、実際にエイクロイド国内の隅々まで教会の信者組織で把握しているオーエ教に、情報の面では頼ることになった。
アレイエムのオーエ教は改革派が中心で、本道派が中心のエイクロイドの情報は思うように入って来なかった。
そんな中、エイクロイドの情報を最も多く集め、もたらしていたのはディラン=ニールセン公爵家だった。
ディラン=ニールセン公爵家は対エイクロイド外交の実務を担っていたこともあり、エイクロイド国内に独自の情報網を持っていたのだ。
10月にエイクロイドの国民議会がエイクロイド共和国の樹立を各国に向けて宣言した時、いち早く承認したのは都市国家オーエと、オーエ教本道派だった。
他の諸国はどこも王政を敷いており、この革命の余波が自国に波及し国家体制が揺らぐことを恐れていたため承認には及び腰だった。
当然我がアレイエムもじっと事態の動きを静観していた。
やがて、各国の対応が硬化する事件が11月に起きた。
皇帝エドモン=バーナビーとその一族の処刑だ。
罪状は国外逃亡未遂。
国民議会は軍の掌握を完了した頃に、それまでの議会だった貴族院との合併法案も通し、エイクロイド全土に通達した。
同時にエイクロイド全域からの徴税も開始し、予算案も決定した。
国民議会の決定した予算案は、皇帝の生活に使う皇室費を90%減の大幅な減額とした。
このままでは全てを奪われると思ったのだろう、エドモン=バーナビー皇帝は一族を引き連れて極秘のうちに出国しようとし、トリエル国境に近い町で捕縛された。
逃亡先はトリエルだったのか、それとも都市国家オーエだったのか、或いは他の国だったのか、謎のままだ。
なぜなら彼等には釈明する機会も与えらえなかったからだ。
皇帝エドモン=バーナビーとその一族は首都リーバスに戻され、国民議会の決議によって死を宣告された。
「神よ、人の愚かさを許し給え」
エドモン=バーナビーは最期にそう言ったと伝わっている。
彼らに対する処刑法は火あぶりだった。
そして処刑広場に集まった1000人以上の見物人たちには
「あなた方の罪はあなた方自身が裁くのです。さあ、あなた方自身で火をお付け下さい、皇帝陛下と皇族の皆様方。
もしもあなた方がご自身を裁く決意がなかなか着かないようでしたら、民が石を持ってあなた方に決意を促しましょう」
各々魔法で火を付けろ、ということだ。
すると見物人から石が投げられた。
その石はバーナビー一族の誰にも届かず、広場の石畳に落ち乾いた音をたて跳ねて転がった。
が、それを切っ掛けに次々と石が投げられ、容赦なく
小石どころではない、握り拳の倍ほどもある石も投げられる。
それが頭に当たり、頭皮を髪ごとベロンと剥けさせる。
顔に当たり鼻を潰し血を流させる。
バーナビー一族から流れる血を見た見物人たちは沸き立つ。
見物人はただひたすら人肉の的に石をぶつけ、壊す楽しみに熱狂した。
皇帝エドモン=バーナビーはこの状況で最期の言葉を言ったようだ。
その言葉は己に向けられたのか、それとも民衆に向けられたのか。
何にせよ皇帝エドモン=バーナビーは一族の足元に積み上げられた薪に、次々に火を付けた。
皇后は火が付いた瞬間に皇帝を見て一瞬微笑み、絶叫と共に炎に包まれた。
最後に皇帝は自分の足元の薪に火を付け、炎に呑まれた。
こうして1000年続いたバーナビー朝はあっけなく幕を閉じた。
民衆はバーナビー一族が炎に包まれても石を投げることを止めなかった。
それどころか炎が収まり、黒焦げになった遺体にも石を当てようと投げる者が多数いた。
自分たちを虐げていた者たちに対して、これまでの恨みとばかりに、いつまでも、いつまでも。
見物人も他の見物人が投げた石が当たり怪我をする者や、当たり所が悪く命を落とす者も大勢いた。
集まった見物人を兵士が追い散らし解散させるまで投石は続いていた。
処刑の様子は、処刑に立ち会ったオーエ教本道派の司祭の口から語られ、オーエ教会を通じて各国に知らされた。
俺はこの話をディラン=ニールセン公爵の使いの者から聞いた。
あの日、フランシーヌ=バーナビー嬢だけでも連れ出せていれば、というひどい後悔に苛まれた俺を、ラウラ母さんがそっと抱きしめ落ち着かせてくれた。
実際のところ、フランシーヌ嬢本人の意思は逃げるなどまったく考えておらず、むしろバーナビー家を支えようという意志があったのだから、俺の後悔など単なる感傷に過ぎない。
ただ、理性では判っていても、感情はひどく揺らされた。
希望的観測として使者から伝えられたのは、国民議会の本人確認の仕方が
確実なのはエドモン=バーナビー皇帝と皇后、皇太子夫妻と皇弟のクレマンなど、多くの人の前に姿を表わす機会の多かった者の顔は判明しているため確実に処刑されたことがわかっているが、その他の一族は顔が一般には不明な者もいるため、他のルートで脱出したのなら生き残っている可能性がある、ということだった。
ただ、年若い令嬢があの状況で親族と別行動を取るというのは、殆どその可能性はないだろうと思う。
皇帝処刑の知らせを受けた周辺諸国は、これまで様子見をしてきたエイクロイド共和国政府を国家体制に対する賊、と断じた。
ネーレピアの諸国はエイクロイドとの国交断交と、領土を接する国々は宣戦布告をエイクロイドの賊に通達した。
エイクロイドと国境を接するトリエル、サピア、海を挟んで対峙するイグライドは逆賊討伐としてエイクロイドに攻め込んだ。
ハラス王国はエイクロイド近海を軍船で警戒した。陸上兵力ではエイクロイドに太刀打ちできないからだ。ハラスは幸い我がアレイエム王国の領土を間に挟んでおり、エイクロイドとは地続きの国境線を持たない。
我がアレイエム王国は逆賊討伐として当然エイクロイドに攻め込む方針だった。
だが、エイクロイドとの外交実務を担当していたディラン=ニールセン公爵が断固として反対した。
「共和国政府などという賊の集団は、すぐに足の引っ張り合いで瓦解する。我々はその後樹立される政権と交渉するため、ここは自重するべき」と言う論だ。
ディラン=ニールセン公爵の論にも確かに一理ある。ただ、他の参戦した国々と歩調を合わせなければ、武力による討伐の機を逃す。
国王のパパ上が断固参戦の方針を口にしたとたん、ディラン=ニールセン公爵は
「でしたら王家の兵だけでやればよい。我が領の兵は一兵たりとも出さんし、我が領内を王家や他領の兵が通るのも断固阻止する」
と更に態度を硬化させた。
陸路でエイクロイドの首都リーバスを目指すにはディラン=ニールセン公爵領のヘーレンを経由するのが最短で、最も道も整備されている。
そこを通さないというのは海路を取るか遠くマッケルに迂回するか。
どちらにせよ各国の交戦と歩調を合わすには時間がかかりすぎる。
そうこうしているうちに、各地で攻め込んだ各国の軍とエイクロイド軍の交戦が始まり、結果も伝わってきた。
トリエル、サピアの軍は元々数の上でエイクロイド軍に劣っており、交戦はしたものの、被害がそれほど出ないうちにと撤退した。
イグライド軍はエイクロイド海軍が海戦を挑んでくることを望んでいたようだが、エイクロイド軍は海戦を挑んで相手のリングに上がるようなことはしなかった。
イグライド軍が上陸したところを叩く徹底した水際戦術で挑んだ。
この方面の最高指揮官はポルナレフ=ボンバドル将軍。
イグライド軍の上陸予想地点を殆ど推測し的中させた。
地続きの隣国サピア王国にイグライド軍が上陸することも読み切っていた。
エイクロイド軍は装備も劣った弱卒、と以前ディラン=ニールセン公爵が評していたが、この度の闘いは平民出身の兵にとって初めて「自分たちの祖国」を防衛する戦いとなったことで、兵の士気が非常に高かった。それと相まってボンバドル将軍の作戦がことごとく当たったこともあり、完勝と言っていい勝利を収めた。
こうしてアレイエム王国は完全に出兵の機を逃した。
エイクロイドでは軍が防衛戦に勝利し続けている間、国民議会は皇帝の処刑でタガが外れたかの如く、過去のちょっとした
粛清は議長のラプスティエール主導で行われ、議会はさながら裁判長が検事を兼ねた出来損ないの裁判所のような様相だったそうだ。
ラプスティエールは雄弁で正義感が非常に強い男だった。
そんな男だからこそ当初信頼され、議長に選任されたのだが、権力を握ってからは自分の正義を実現させることをひたすらに追求した。
つまり、政治に携わる者は一切曇りのない潔癖さであらねばならない。過去に少しでも汚職やサボタージュをした者は許されない。
ラプスティエールの元には政敵を密告する者たちで列ができた。連日ラプスティエールはそれを聞き、議会で糾弾し、密告された者を処刑場に送った。
1か月間で処刑された議員や官僚は100人近かったそうだ。
毎日3人以上は死刑宣告を受けていた計算だ。
ちなみに俺たちの取次だったアンドレイ=ジャッケも処刑されたそうだ。
こうした苛烈な手段で政治の浄化を進めようとするラプスティエールの姿勢は徐々に疎まれ始め、とうとう今年の1月にラプスティエールも議会の造反に会い、処刑された。
こうした議会の動きを見ていたエイクロイドの民衆は議会に失望を覚えていた。
混沌とした国内で唯一輝かしい成果を出していた軍に対して賞賛と期待が集まるのも当然のことだ。
2月に開催された国民議会でそうした世論を受け、ポルナレフ=ボンバドル将軍が共和国代表に選出された。
こうしてようやくエイクロイドの内紛は落ち着いた様相を見せはじめたのだ。
今はボンバドルエイクロイド共和国代表と各国の間で、国交は断絶してはいるものの交渉がポツポツと持たれ始めている。
アレイエム王国はディラン=ニールセン公爵が水面下で接触している。
そして俺がフライス村という王家直轄領の中でも辺境の村に何故いるのか、だが、上記の争乱に備えるため騎士団を率いて西部に赴任したゲオルグ先生が不在のため、俺に乗馬と剣を教える者がいなかった。
その時、エイクロイドへの出兵が有耶無耶となり、一旦領地に戻るガリウス=ハールディーズ公爵が、俺をハールディーズ領で鍛えたい、とパパ上に申し出たのだ。
元々パパ上は俺たちの剣の指導者としてガリウス=ハールディーズ公爵を熱望していたので、その申し出に乗った。
ジャルランも一緒に行きたがったが、ジャルランの剣と乗馬の指導者は引き続きエルウィン=レーマン伯爵が務め、指導者不在の俺だけ行くことになった。
当然王子一人で行かせる訳もなく、護衛の騎士2名とドノバン先生も学問関係の指導者ということで一緒に行くことになった。
あと、俺の身の回りの世話係はピアが付いて来ることになった。
こうして俺は12月から2月までハールディーズ公爵領に行き、そこで地獄のシゴキを受けた。
何せ肉体言語の人だから。
ハールディーズ公爵の嫡男のダリウスも、外見はジュディ夫人似でシュッとしてるのに、父親譲りで肉体言語派だからたまったもんじゃなかった。
にこやかな笑みを浮かべながら木剣で容赦なく俺を叩きのめすダリウスは、マジサイコパスじゃないかと疑ったものだ。
実際は剣の稽古以外は実に理知的でいい人なんだが、剣の稽古になると何かスイッチが入って別人になる。
ちなみにジュディ夫人とジャニーンは冬の間は王都アレイエムのタウンハウスに滞在しており、俺とは会っていない。
そんなシゴキの日々に耐えハールディーズ公爵領に俺が滞在している間に、暗き暗き森からエルフが時々人里近くに姿を表わしている、という噂があると耳に挟んだ。
エルフが姿を表わす人里というのがフライス村だ。
フライス村は王家直轄領の中でも最も暗き暗き森に近く、尚且つ一番近い大きな町はハールディーズ公爵領内と言う立地のため、フライス村の噂はハールディーズ公爵領の方により早く回るのだ。
俺はドノバン先生が以前言っていたようにスライムが絶滅したかも知れないとは思っている。
ただ、「ネーレピアの人間が誰も入ったことのない場所ならスライムが生き残っている可能性がある」というのを確認してみたいと思っていたのだ。
暗き暗き森はその候補地だ。
更に言えば人との交流のない暗き暗き森のエルフ。
こちらもどんな生活を送っているのか興味がある。
コミュニケーションが取れれば、少しでもエルフの生活を知る機会になる。
そんな訳でこの5月、俺はフライス村にいる。
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