第12話 対寒兵器、今後の展開
パパ上達が執務室に行った後、ラウラ母さん、ジャルラン、アデリナお祖母ちゃんと心ゆくまでコタツで温まった後、自室に戻りドノバン先生を迎える。
ドノバン先生に早速謝っておいた。
「先生、申し訳ございませんでした。父が失礼なことを尋ねてご迷惑をおかけして」
「いや、殿下、殿下に謝っていただく必要はありません。陛下にも勿体なくも謝罪して頂いておりますから」
「ドノバン先生、私は今回のことで一つ分かったことがあります。まだ3歳の私が言うことは、大人にとっては信憑性に欠けるということです。私の年齢があと10も上だったらまだ信じて貰えるのでしょうが、5歳の私では実の父でもやはり疑問に思うのです」
「う-ん、殿下の言われることには確かに一理あります。私は殿下の家庭教師をさせていただいているので殿下の優秀さや発想の豊かさには疑問の余地がないのですが、確かに殿下の人となりを知らない者からすると、
「それでドノバン先生にまたお願いしたいことがあるのです。今度、私は湯を循環させて部屋を暖める暖房と、簡単でもいいから何か仕事をする蒸気機関の制作の許可を父上から頂きました。職人も用意していただけることになったのですが、私が直接職人とやり取りしても、職人たちが取り合ってくれない可能性があります。ですからドノバン先生に同席いただき、私の話の裏打ちをしていただきたいのです。如何でしょうか」
ドノバン先生は少し考えていたが、
「殿下のたっての頼みとあらば、お引き受けしないという選択は私にはありません。やらせていただきます」
と引き受けてくれた。
後日、職人らと会う時のために、予めドノバン先生には腹案を話しておいた。
室内を湯で温める暖房については、とりあえず2部屋くらいを暖めるなら循環に動力は必要なく、温度差から生じる対流だけでも行けるかもしれないが、一応将来大規模な物を作ることを視野に入れて蒸気機関を湯の流れを作り出すために使いたいこと、それと蒸気機関は水を引き上げることに使う必要があることを話した。
「殿下は蒸気機関の構造をご存じなのですか」
「正直に言うと、詳しくは分かりません。自分なりに考えたもの、になってしまいます。本当はイグライドで利用されているものを参考にしたいんですけどね。ただ、吹き出す蒸気の吹き出し口をなるべく小さくした方が得られる力は大きくなりそうだと言うことと、湯灌の内部の圧力を上げた方が湯灌の沸点が上がって蒸気の力が大きくなりそうなこと、それとなるべく蒸気の力を多く回転運動にしたいので、沢山の風受けが付いた風車みたいなものを、全面で蒸気を受ける形で使いたいとは思っています」
イメージは蒸気タービンだ。
ただ、それを上手く作れるかどうかは別だが。
本来ならタービン部分はアルミで作れればいいが、この世界にアルミはないだろう。
「なんとなく殿下のイメージされているものは理解できました。それで殿下が実際に作成するにあたっての不安点というか疑問点、は何かございますか」
「色々と不安だらけですよ。コタツのように単純な作りじゃないですからね。最大の不安は風車の回転運動をどうやって外部に取り出すか、ですね。風車が外部に開放されていれば簡単なんだけど、それだと蒸気を全部外に逃してしまうから効率的じゃないと思いますし。
考えたのはストローに風車の軸を差し込み、ストローを配管の壁にくっつけ、軸を外部に出して回転を取り出すって方法なんですけど、果たして鉄をストロー状に加工できるか、ストローを上手く鉄管の壁にくっつける、そこまでの細工が職人にできるのか、そこが一番心配ですね。
それと湯灌をどの程度圧力に耐えられるように作れるか。鋳物だと強度が足りないかもしれない不安があります。
まあ、現実的にできそうな形に擦り合わせてやるしかないとわかっているから、全然違う形になったとしても仕方ないとは思っています」
「わかりました。その辺りの調整や職人の技術的に可能な点、不可能な点の洗い出しは私が行いましょう」
「ありがとうございます、ドノバン先生」
先生にはかなり助けてもらう必要があるだろう。
前世でボイラー技士だったり発電所技師だったりしたら、もっと機関の構造を簡単で効率的で、この世界の技術でも実現可能なものを考えられたんだろうが、所詮は素人のネット知識でしか知らないことだからな。
この世界の人たちの技術や知識を借りながらでないとやっていけない。
この世界の人たちに、発想のヒントを与える程度のことしか出来ない。
世知辛いもんだ。
さて、午後はイザベル母さんらと、湯たんぽ、コタツの戦略会議だ。
とりあえずこれらをこの世に普及させて、寒さの脅威を駆逐してやらねば。
「ジョアン、では湯たんぽとコタツについて、今後どのような形で展開していくのかを考えようではありませんか」
畏まった喋り方のイザベル母さん。ラウラ母さんとアデリナお祖母ちゃん、そしてジャルランがなぜかちゃっかりイザベル母さんの膝の上にいる。
家族が食事をとるダイニングの広間だ。
当然全員コタツにあたっている。
イザベル母さんの秘書的な仕事をしている侍女のレオニーはテーブルで記録を取る。足元にはイザベル母さんが貸し与えた湯たんぽ。
「まず湯たんぽに関しては、王家の贔屓にしている複数の御用商に製造許可を与えて、とにかく量産させましょう。形状はあの平べったい形が一番お湯の熱を生かすと思うので、あの形状の物だけは王家の特許とし、御用商から特許の使用料をいただくようにします。その辺りの金額設定はイザベル母さんたちで相談して決めて下さい」
「お湯を入れてフタをすればいいだけの単純なものですから、模倣し放題になるのではないのぉ?」
イザベル母さんの疑問は最もだ。
「模倣はされても咎める必要はありません。自分の家にあるものを工夫して湯たんぽ替わりにするのは仕方ないと割り切っていいと思います。ただ、売ることを目的として製造する場合はあの形にして特許使用料をいただく、それでいいと思います。元々これは燃料をそれ程使わず暖を取ることを目的としていますから、民間に広く普及させるためにはその程度の規制で良いのです」
「ジョアンの言う特許? については何となくわかるのよ。元々考えた人のアイデアを守る、そういうことよね? この場合は王家が特許所有者ということでいいのかしら。それともジョアン?」
とラウラ母さんが尋ねる。
「私ではなく王家、ということにしていただけると有難いです。イザベル母さん、我が国は特許というものを今まで扱っておりましたか?」
「前例はないわねえ。今回が初めてになると思うわ。そのために法律を作らないとねぇ。王家直轄領内だけなら話は早いのだけど、アレイエム全土となると王国法を改正しないとねぇ。まあちょうど冬だし各領地持ち貴族家も王都に来ている時期だから、改正の議会を開催すれば何とかなるわぁ」
「では、そちらもお願いします。それで、次にコタツについてですが、父上に話したように改良点は多々あると思います。私やジャルランにはわからない女性からの視点で、何かありましたら教えて下さい」
「そうだねえ、ジョアンがダニエルに言っていた通り、淑女が一度台に上がるってのは抵抗があるねえ。私なんかだと膝が痛かったりするからね。できれば上り下りなしであたれるようになると嬉しいけどねえ」
とアデリナお祖母ちゃん。
「私はそうねえ、コタツで食事を取るとして、配膳するために一々給仕の者に昇って降りてをさせるのも面倒かなと思うのよねえ」
家族の食事の面倒を見ることが多いラウラ母さん。
「アデリナ様が言われたことと一緒ですわねぇ」
イザベル母さんも台に昇ることに抵抗はやはりあるようだ。
それでもみんな何だかんだ言っても暖かさには勝てないのだが。
「今母さんたちが言われたことを解決する方法はあるにはあります。ようするに下の台を使わず、普段使っているダイニングテーブルに布団をかけ、その上に板を置いて椅子に座ったままあたれるコタツにすればいいのです」
ガタッと音がしたのでそちらを見ると、イザベル母さんの侍女のレオニーが椅子を蹴って立ち上がっていた。
内心の喜びを隠すように掛けている眼鏡をクイッと人差し指で押し上げながら冷静さを装い、言う。
「ジョアン様、それはいつ出来るのでしょうか?」
あー、期待してんだな。
寒いもんな、仕方ない、わかる。
でもこれから残念なことを言わねばならない。
基本建物の中が石の床で、地面に座る文化ではないこの世界で炭火の熱を外になるべく逃がさずコタツにあたるため、わざわざ台を作り、そこに掘りゴタツを作った形にしているのだ。
「ただね、通常のテーブルをコタツのように使うのは少し問題がありまして、あえてこの台を使った形にしているので……レオニーの期待に応えられるかはこれからの話次第。乞うご期待」
「それだと問題あるのかい?」
アデリナお祖母ちゃんの疑問は最もだ。
「この今座っている台をわざわざ作ったのは、炭火の熱をなるべく逃がしたくないからなんです。少量の炭で暖が取れるようにと思って。
ダイニングテーブルに布団をかけるやり方だと、普段の生活とあまり変わりなく使える便利さがありますが、それほど劇的な暖かさは感じられないんです。
ダイニングテーブルだと熱源の炭が複数必要になると思いますし、椅子ごと布団をかけるので、どうしても布団の隙間が沢山できてしまいます。コタツの中に隙間風が沢山入る感じになってしまい暖かさが感じづらくなってしまうのです。
他にも床からテーブル下部までの高さが掘りゴタツ式に比べて高いため、暖められた空気が上に昇ってしまい、椅子に座った足元がなかなか暖かくならない、というのもあります」
少量の炭火で最高に暖かさを感じてもらうためにあの形にしたからな。最初からテーブルに布団を掛ける形では、パパ上やイザベル母さんがあそこまで納得したかどうか。
「それでも何もしない、暖炉の火だけで暖を取るよりは暖かいとは思うのですが、上半身まで暖まる程は難しいかと。
ですから、その辺りはお祖母ちゃんやお母さんの意見を聞いて決めていきたいなと思ってます」
「ふーん、そうなのかい。私は断然暖かい方がいいからね、無理なく昇り降りできる工夫さえしてくれればいいよ」
「私はジョアンが陛下に言っていたように、台の部分を動かせるようにしてくれれば、配膳がし易くていいと思うわ」
「正直に言うとこの暖かさには抗えないわぁ。でも、執務中の寒さを何とかしたいから、普通の机をコタツに変えられるなら、そうしたいわぁ。」
イザベル母さんの発言に書記をしながらレオニーもうんうんと頷く。
見事に三者三様ではある。
「僕はねー、この台に寝っ転がりたいから、台の表面にじゅうたんとか、ふかふかなものを貼ったりしてくれるといいなー」
ジャルランよ、わかる、わかるぞ。
だがそれは無限のコタツの闇に引き込まれる第一歩だ。
これ以上コタツから一歩も出ないで生活したくなる、そんな罠だ。
いや待て、使用人が常にいる王侯貴族の生活って、非常にコタツ廃人と相性がいいのでは?
「ジャルランの気持ちはよくわかるよ。でも自分は一歩もコタツから出ないで、全部身の回りのことをカーヤにお願いするようになっては駄目だよ。私なら自分がそうなるの分かり切ってるからね。ジャルは私を見習っちゃ駄目だよ。
お祖母ちゃん達の意見は参考になります。そうですね、この台を使うコタツと、通常のテーブルをコタツとして使うのと、どちらも一長一短があるので、どちらかに決めるのは難しいかも知れません。
なら、どちらも進めるということでいいかと思います。
選択肢は多い方がいいですからね。
改良したものの大雑把な図面を描きますので、家具職人に発注してください」
「それは私がやっておきますね」
とラウラ母さん。
「私はコタツも王家が特許を取るようにすればいいのねぇ?」
イザベル母さんは察しがいい。
「はい、イザベル母さん。ただ、イザベル母さんにはもっとお願いしたいことがあります。試作で作ったこの台のあるものをコタツの特許とするのではなく、『テーブルに布を掛けてテーブルの中の空間を温める暖房』を特許としてほしいことと、あとは湯たんぽとコタツを社交の席で広めてほしいのです」
「なるほどねえ。わかったわ。特許に関してはジョアンの言う通り進めるわぁ。社交の席で貴族の奥様方に勧めるのも。それに関してはやり方は私に任せてもらっていいのねぇ?」
「はい。社交の席に関しては私にはわからないので」
「社交の場なんて身も蓋もなく言ってしまえば、ご婦人方で集まっておしゃべりして、珍しいものを見たり聞いたりする、そんな場ですからねぇ。貴族の女性が労働をしなくて良くなったから出来たもの。そこにこんないい物を出したら、すぐに広まるわよぉ」
「イザベルも家に染まったもんだね。嫁入りしてきた頃とは別人さね。ハラスでお嬢様してた頃には考えられなかっただろう?」
アデリナお祖母ちゃんがニヤニヤしながらイザベル母さんを
「アデリナ様ったら、もう昔のことはいいじゃありませんか。ハンカチを縫うくらいしか出来なかった私が、ニールセンに来てから色々とアデリナ様やラウラに教えてもらってここまで来れたってことにしといて下さいな。当初は面食らいましたけど。社交なんて皆様忙しくてしている暇がないなんて思いもしませんでしたからねぇ」
「あの頃のあんたは本当に高慢ちきな娘だったねえ。メイド長のイライザの陰に隠れてばっかりでね。あたしゃイライザが家に嫁いできたのかと思ってたよ。でも、一緒になった男に、自分のやった仕事を褒められるのは嬉しいもんだったろう?」
「そうでしたわねえ。社交の席に逃げようにも、この国の貴族の奥様方は忙しいからって集まりたがらなくてねぇ。本当に驚きました。とんでもないところに来てしまったと。でもアデリナ様やラウラに何度も何度も勧められて自分で縫った掛布団だ、クッションだを夫が使って喜んでくれたのは本当に嬉しかったですし、その時にようやくアデリナ様の言われていたことがわかって、ニールセンの一員になれた気がしましたわぁ」
「でもイザベル様のおかげで、やっとこの国の社交界もそれらしくなってきましたよ」
「ラウラのおかげよぉ。ラウラが知り合いのご婦人方が細々とやっていた幾つかのサロンを紹介してくれたから、サロン同士の横のつながりを広げることが出来て今のようになったんですもの。」
「これからも育てていかないといけませんね」
「ええ。ようやく貴族家同士の関係性は置いてでも、ともかく参加すれば何らかの有益な情報が交換できるというように思ってもらえるようになってきたんですもの。少しづつ格を付けていかなければねぇ」
なんか非常に過去の嫁姑の話は興味深いのだが、 本題の方を片付けてしまいたいなー。
「すみません。お祖母ちゃんたちの昔話、すごく興味深いんですけど、もう少し決めていただきたいことがあるので話を進めてもよろしいでしょうか?」
「ああ、すまないねジョアン。話の途中だったね。続けとくれ」
「えーっとですね、さっきのお母さんたちの話にも出てきた、コタツに掛ける掛布団のことなんです。
今、このコタツに使っている掛布団、レオナやピアに出してきてもらった内廷にあった物をそのまま使ってるんで、掛けてある布団の裾が短い面と長い面がありますよね。できれば全面揃えた方が中の暖かさが逃げないのでいいんです。そのためにコタツ専用の掛布団が欲しいんです。
それにダイニングテーブルやイザベル母さんの執務机に掛けてコタツとして使おうとするのであれば、内廷で使っている掛布団ではサイズが合いません。だから専用の物を作らないといけないんですが……アレイエムでそういったことをやっている職人や工場はありますか?」
実はラウラ母さんに聞いた話だと、アレイエムでは布団の類は各家で自作しているところが多い。布と中に詰める物を買ってきて、夫人が使用人と一緒に縫って作るのだ。それこそニールセン王家でも、先ほどの話にあったように正妃のイザベル母さんも作ったことがある。
布団を作る余裕のない平民は、ワラの上にシーツを敷き、ワラを被って寝ている者もあるという。
まあ王家や大貴族の場合はハラス経由で輸入した他国製の布団を買ったりしてはいる。来客が多く数を揃える必要があるからだ。
でもまだまだ高価な他国製の布団は民間には流通しておらず自作が普通で、家内制手工業で布や服を作っている業者はあっても、布団を作っているところは少ないようだ。
「そうだねえ。確かに専用の掛布団は必要になるね。作る業者も思い当たらないしねえ……当面、王宮ウチで使うコタツの掛布団は私がメイドやら侍女やらを指揮して作るよ。イザベル、イライザにそう伝えといとくれ。ラウラもそれでいいかい?
なるべく本来の仕事の手が回らない、何てことにはしないようにするつもりだけどね」
「はい、アデリナ様。アデリナ様のお作りになるお布団、柔らかさが他と全然違いますから楽しみですわ」
「イライザにもしっかり伝えておきますわぁ。イライザは優秀ですから、その辺りの調整はお手の物でしょうし大丈夫でしょう。
ラウラ、内廷で使うもの以外に社交の場でも使いたいから、外朝用にも3つほど発注しておいてもらえないかしらぁ? アデリナ様がコタツ専用の掛布団を作って下さったら早速社交の場で広めることにするわぁ。
ところでジョアン、当面
あなたの話ぶりだと、何か腹案があるんじゃないのぉ」
「腹案という程の物でもないんですが、コタツ本体の制作と、掛布団の制作、規格を合わせてやらないと効率的ではないと思うんです。掛布団とコタツ本体の大きさが違ってたりすると意味がないですし、コタツを買ったら掛布団を作るまで待たなきゃいけない、というのは買おうという意欲を損ねるんじゃないかと。
ですから、コタツ本体の制作と掛布団の制作、一体的に行う工場というか企業を立ち上げたらどうかと思うのです」
「それは王家が資金を出して作るってことぉ?」
「そうですね、全額出資する必要はなく、コタツに賛同する他貴族家の出資を募ってもいいですし、製糸業や製布業を営む商人の出資を募ってもいいかと思います。でも王家の発言力を工場内で大きく残すためには最大の出資者になっておく必要はあるかと思います。
工場の設立自体は第3者に任せてコタツ製造の特許だけ使わせ、特許使用料だけもらう、という手もあります。
価格や品質、流通量のコントロールはできない難点はありますが。
どちらにするか、それは父上、母上の判断にお任せします」
「なるほどねぇ、それは確かにダニエルとも相談しないといけない部分よねぇ。
わかったわ、それは私とダニエル、他の宮中伯の見解も参考にしながら決めていくわねぇ。
ジョアンもそれを望んでいるんでしょう?」
「はい、そのように取り計らっていただけると有難いです、母上」
5歳の俺が前面に出たところで、侮られるのがオチだ。
こういうことはしっかりとした大人に任せとけばいい。
「あー、ところでいいかい?」
アデリナお祖母ちゃんが発言する。
「あたしもね、この年で老骨に鞭打って掛布団5,6枚作るんだからさ、正直イザベル達の執務室用の掛布団までは手が回らないさね。だから、自分の使う分の掛布団は自分で作って貰いたいのさ。イザベル、久しぶりにやっとくれ」
「アデリナ様、そんなご無体なぁ……」
イザベル母さんが情けない顔をする。外朝では決して見せない顔だろう。
「あんたは意外に筋が良かったんだから頑張んなよ、イザベル」
お祖母ちゃん得意のニヤリ笑いだ。
「ちょっとレオニー、あんたも当然手伝いなさいよぉ、コタツにあたる気満々なんでしょぉ?」
「イザベル様、私そういった裁縫だとかは職分が違いますので……」
「何言ってんのよぉ! あんただけ楽して温まろうなんて虫が良すぎるわよぉ!」
「まあまあ、イザベル様、私も手伝いますから……」
ラウラ母さんが声をかける。
「ラウラは優しすぎるのよぉ! レオニーも将来の殿方のために布団の一つくらい作れるようになっておかないといけないわよ! レオニーあんた、ガリガリ紙に向かってばかりの人生で良いと思ってんの!」
むなしくイザベル母さんの八つ当たりが広間に響いた。
レオニーは、その日以降、しばらく湯たんぽは貸してもらえなくなったようだ。
早く買えるようになるといいね。
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