Ⅶ章 集結ノ鍵
-廊下を歩いているさんきゅうとスパイス。
スパイス 「そういえば、いつも持っているその本は何なんですか?」
さんきゅう「これですか?知り合いが差し入れで持ってきてくれたものなんです」
スパイス 「どんなお話なんですか?」
さんきゅう「まぁ、ありがちなファンタジーなんですけど…え?」
弐っちゃん「あ!さんきゅうさん」
さんきゅう「ちょっと、何があったの?おい、ハック!」
-そこに所長と看守が現れる。
所 長 「何の騒ぎだ?ほう。解放されたその日にとはな。最速記録だ」
さんきゅう「待って下さい所長さん。これは違うんです」
所 長 「何が違うというんだ?」
さんきゅう「え?それは・・・」
所 長 「違わないな。おい懲罰室へ」
さんきゅう「だから待って下さい!これ以上はハックの身が持ちません!」
所 長 「だったら何の問題がある?」
さんきゅう「何ですって?」
所 長 「いい加減こいつに高価な薬を使うのが嫌になっていたところだ。問題行
動を繰り返した結果、懲罰室で衰弱死してくれた方が、私の責任にはなら
ずに処理がつけられるからな」
さんきゅう「あんた!それでも人間かよ!」
-所長に掴みかかるさんきゅう。
所 長 「…人間ではないのは、貴様らだ!」
-さんきゅうを殴り倒す所長。
弐っちゃん「さんきゅうさん!」
-そこにせんせいが大音量のラジカセと共に駆け付ける。
せんせい 「所長!何の騒ぎですか?」
所 長 「騒いでるのはあなたのラジカセではないですか?」
せんせい 「ああ、すいません」
-ラジカセを止めるせんせい。
所 長 「別に何でもありませんよ。そこのクズがまた騒ぎを起こしたようなので
ね。それと、参級。私の服を乱した責任は近いうちにとってもらうから
な」
-部屋を出ていく所長。
看守がハックを連れてそれに続く。
弐っちゃん「さんきゅうさん!大丈夫ですか!」
さんきゅう「こ、これくらい平気だって。あいてて…」
弐っちゃん「あ~~~」
せんせい 「弐っちゃん。さんきゅうさんを医務室に連れてくわ。手伝って」
弐っちゃん「え、は、はい!」
さんきゅう「どうも、すいません」
弐っちゃん「さんきゅうさん、死なないで」
さんきゅう「し、死ぬほどじゃないって」
スパイス 「あ、あのせんせい」
せんせい 「…ごめん。二人とも先に行ってて」
-先に部屋を出ていくさんきゅうと弐っちゃん。
せんせい 「何かしら?」
スパイス 「あの彼の…、ハックのことをよろしくお願いします。彼にもしものこと
があったら…」
せんせい 「あったら何なの?」
スパイス 「…いえ」
せんせい 「…心配しないで。明日彼を連れ出すわ」
スパイス 「大丈夫なんですか?」
せんせい 「それぐらいのことはやってみせるわよ」
スパイス 「ありがとうございます」
せんせい 「まぁあそこの方が安全かもしれないけどね」
スパイス 「どういう意味ですか?」
せんせい 「…何かあなたは信頼できそうね。詳しい事聞きたいなら、私の部屋に来
て。今日中によ」
-部屋を出ていくせんせい。
スパイスがまた周囲の空間を変えると、バジルとペッパーが戻って来る。
ペッパー 「スパ姉。今危うく言いかけたっしょ?」
スパイス 「ごめんなさい。少し焦っちゃったわ」
バジル 「いえ。俺たちも、ハックをまた懲罰坊送りにしてしまいました」
ペッパー 「でも、それは仕方ないじゃん。あそこで何もしなかったら怪しまれる
し」
バジル 「それにしても、せんせいが話したいことって何だろうな?」
ペッパー 「さぁ~」
スパイス 「まぁ、それは後で聞けるみたいだから、置いときましょう。ところで二
人とも、頼んだ事についてはやってくれましたか?」
バジル 「ああ、はい。聞き取れたものは全て書きとめておきました」
-メモを渡すバジル。
それに目を通すスパイス。
スパイス 「これは、彼があの本を出版する以前の記憶ですね」
バジル 「ええ。俺たちが事前に知り得ていたことと同じものばかりです」
ペッパー 「一番知りたいとこに関しては何にもなし。何かやり損って感じっすよ」
スパイス 「親友と旅の思い出を話し合うことが多いですね」
バジル 「というより、ほぼ全部ですね」
ペッパー 「よっぽどいいダチだったんじゃないすか?」
バジル 「聞いてる限りでは、ハックとは正反対の人間らしいがな。何でそんな奴
と親友になれたんだかな」
ペッパー 「そういうもんなんだろ。人間なんてさ」
バジル 「でも、今はどうしてるんだろうな?」
ペッパー 「そういや、親友だっていう割には、面会に来たこともないよな、そい
つ」
-不意に立ち上がるスパイス。
バジル 「どうしました。姉さん?」
スパイス 「もしかしたら…でも充分にありえるわね」
バジル 「何か分かったんですか?」
スパイス 「ええ。推測でしかないけれど。でも、問題はそれをどう今の彼に伝える
かね。ペッパー君」
ペッパー 「はい?」
スパイス 「あなたは、人の虚構意識を見せる力があるのよね?」
ペッパー 「ええ、まぁ」
スパイス 「それは、実際に見たものでしかできないの?」
ペッパー 「はい。見たものを再現するのはできるけど…」
スパイス 「見ていないものを無理なの?」
ペッパー 「はい。見たことならなら何だって見せられるんすけど。例えば、弐っち
ゃんのとか」
-弐っちゃんの虚構意識を投影するペッパー。
ハックルベリー・弐っちゃん・さんきゅう・ネズミ・コウモリ・リアルソルト・ジョナゴールドが集まり楽しく踊りだす。
やがて、踊りが終わり皆が姿を消していく。
ペッパー 「こんな感じで」
バジル 「別に見せなくてもいいだろ」
ペッパー 「いや、何か重苦しい感じだったから…。あれ?」
バジル 「どうした?」
ペッパー 「そういやさ、さっき弐っちゃん、あの二人と話してなかったか?」
バジル 「あの二人?」
ペッパー 「ネズミとコウモリの女」
バジル 「ああ!確かにそうだ。虚構意識にもいるってことは、彼女はあの二人が
見えていたことになる」
ペッパー 「でも、見えるだけならともかく。何で話までできたんだろう?『うえび
と』でもないのに」
バジル 「姉さん。どういう事なんでしょうか?…姉さん?」
ペッパー 「スパ姉?」
スパイス 「…バジルさん。あの変わった格好の二人は何なんです?」
バジル 「変わった格好の二人?」
ペッパー 「弐っちゃんの友達のことじゃん?」
バジル 「あの二人ですか。あれは、弐っちゃんの空想上の友達です。名前は確
か、塩分ちゃんと青林檎太郎君」
ペッパー 「ホントふざけた名前だよな」
バジル 「それがどうかしたんですか、姉さん?」
スパイス 「…二人共、至急弐っちゃんを呼んで来て下さい」
バジル 「え、どうしてですか?」
スパイス 「詳しいことは後で説明します。とにかく、呼んで来て下さい」
バジ&ペパ『はい!!』
-領域を出ていくバジルとペッパー。
領域から出るスパイス。床に落ちていたさんきゅうの本を拾い上げる。本を開き読み進める。
スパイス 「……!これは」
-弐っちゃんが入ってくる。
弐っちゃん「あの、秘書さん。用ってなすか?」
スパイス 「あ、ごめんなさい。急に呼び出したりして」
弐っちゃん「いいんですよ。ただ、早くさんきゅうさんの所に戻りたくて」
スパイス 「大丈夫。手間は取らせないわ。ちょっと相談があって」
弐っちゃん「相談ですか?」
スパイス 「ええ、正確にはあなたのお友達とね」
-領域を展開するスパイス。
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