Ⅲ章 領域ノ中
――人間が干渉できない領域の中。
バジル 「遅いですよ。姉さん」
ペッパー 「やっと来たよ」
スパイス 「ごめんなさいね」
バジル 「看守になりきるのも大変なんですよ」
ペッパー 「仕事もかったるいし…」
スパイス 「そう言うけど、私も私で大変だったのよ。で、早速彼の事について聞き
たいんだけど、何かわかった?」
バジル 「ハックルベリーですね」
ペッパー 「スパ姉も、あいつから聞いてんじゃないの?」
スパイス 「所長から?確かに、重度の精神障害者で、ねずみとこうもりを女の子だ
と思い込んでいる、というのは聞いたけど…」
バジル 「思ってるだけじゃないんです。本当にいたんですよ」
スパイス 「いたって、どこに?」
ペッパー 「あいつの中」
バジル 「正確にいうと、虚構意識の中にです。そこに、二人の少女がいました。
部屋にねずみとこうもりが入り込んできた時に現れるみたいです」
スパイス 「虚構の住人。想人(そらびと)という訳ね。現実世界に対する拒絶は相
当なものみたいね」
ペッパー 「まともに喋ってるとこなんて見たことないよ」
バジル 「同居人とも会話は成立してないみたいです」
スパイス 「その世界の中では?」
ペッパー 「全然ダメ」
バジル 「ええ。入り込んでも一方的に敵と見なされてしまって」
ペッパー 「それで暴れだすもんだから、今日みたいに所長に見つかって懲罰房送り
にされちゃったりもするし」
バジル 「そのせいもあって、うかつに接触することすらできません」
スパイス 「時間がかかりそうね。でも話をしないことには始まらないわ」
ペッパー 「でもさぁ、本当にあいつってアーゼンノアなのかなぁ」
バジル 「確かに、そう思うのも無理ないな」
ペッパー 「どっちかっていうと、あの同居人の方が適任だと思うけどな」
バジル 「参級か?」
スパイス 「さっきいた彼ね」
バジル 「彼だけだな。所長に反発してるのは」
ペッパー 「あいつなら、今日来た女の子ともうまくやれそうだね」
スパイス 「あの少女ね…」
バジル 「何か気になるんですか?」
スパイス 「大したことじゃないわ。不思議な雰囲気の子だったから…」
ペッパー 「所長と揉め事起こさなきゃいいけど。にしても、あの所長。障害者って
だけで人を家畜扱いするなんて、どういう神経してんだか」
スパイス 「所長ですか」
ペッパー 「嫌な奴だったでしょ。あいつの頭の中も胸くそ悪いことばっかりなんす
よ。だってこんなんすよ」
-手をはたいて所長の虚構意識を見せるペッパー。
すると所長が現れる。
所 長 「全ては、この国の勝利のためにある。戦うこともできず、国の資産を食
い潰す障害者どもを、私は認めない!戦えない奴らを養う金があるなら
ば、兵器を造れ!国民の皆様、あなたの身近に国の勝利を妨げる障害者が
いるならば、是非障害者収容所にご連絡下さい。あなたのそばのいらない
障害者。いらなくなった障害者。全て承ります」
-退場する所長。
ペッパー 「ほら、こんなんですよ!」
バジル 「別にあいつだけが特殊って訳でもないさ。確かに、やり過ぎだとも感じ
るけど、それがこの国の決めたことだ」
ペッパー 「余計たちが悪いじゃん」
スパイス 「でもそれが事実よ」
ペッパー 「歪みきってるよなぁ」
バジル 「ぼやいてもしょうがないだろ。どうします?これから」
スパイス 「とりあえず、彼の心が壊れた原因を探ることからね。手がかりはkれ本
人にしかないんだから、もう少し様子を見てみましょう。では、そろそろ
戻るわよ」
バジル 「はい」
ペッパー 「は~い」
――領域を解き、現実世界へと戻る三人。
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