Ⅰ章 弾圧ノ箱

-所長とスパイスが入ってくる。


所 長  「治まったか。全くいい加減にしてもらいたいな。薬だってタダじゃない

     というのに。おい。こいつを懲罰室に放り込んどけ。明日まで食事は与え

     なくて良いからな」


-ハックルベリーを抱えて部屋を出るバジルとペッパー。


所 長  「障害者が…。おい、起きろ」


-寝ているさんきゅうを起こす所長。


さんきゅう「…うん?あ、所長さん。もう時間ですか?」

所 長  「昼寝とは呑気なものだな。同室である貴様がそんなだからすぐに、あい

     つが暴れ出すんだ。この施設の治安のためにも、もう少し協力したらどう

     だ?」

さんきゅう「所長さん。この方は?」

所 長  「…貴様が知る必要などない」

さんきゅう「そうですか。あっ、まだ作業まで時間ありますね。ちょっと散歩してき

     ます」


-横に置いておいた本を持って部屋を出るさんきゅう。


所 長  「…いやいや、お恥ずかしいとこを見せてしまいました」

スパイス 「あの、彼らが…」

所 長  「ええ、この収容所の一番の悩みの種です」

スパイス 「連れてかれた方はわかりますが、今の彼はそうでも…」

所 長  「参級ですか」

スパイス 「さんきゅう?」

所 長  「第参級障害者に指定された事からそう呼んでいます。普通は番号で呼ぶ

     のですが、奴はある意味特別なので」

スパイス 「はぁ…」

所 長  「確かに、奴は今までこれといった問題を起こした事はありません。た

     だ…合わないんです」

スパイス 「合わない?」

所 長  「私とは馬が合わないといいますか。いつも調子を狂わされていてね」

スパイス 「すいません、それって…」

所 長  「分かってますよ。こんなのはただの個人的な問題です」

スパイス 「…では、もう一人の患者の方は?重度の精神障害者としか聞かされてな

     いのですが…」

所 長  「それ以外はとても説明出来る事ではない、という事ですよ。他に分かっ

     ている事といえばひとつだけです」

スパイス 「何ですか?」

所 長  「二人の少女の存在です」

スパイス 「少女?」

所 長  「あなたもさっき聞いたでしょう?奴のあの、まるで異性に対して見栄を

     張っているかのような独り言を」

スパイス 「確かに誰かと話しているように聞こえました。でも誰と?」

所 長  「それは、こいつですよ」


-壁を軽く蹴る所長。すると壁の中からネズミの鳴き声がする。


スパイス 「え?ねずみ?」

所 長  「ええ、ねずみです。あと、この収容所の裏の林にこうもりがいるんです

     よ。この二匹、いつの間にかこの部屋に出入りするようになりましてね。

     まあ、向こうは餌目的なんでしょうが。奴は、そのネズミとコウモリに話

     しかけているんですよ」

スパイス 「その二匹が、少女だと?」

所 長  「ええ。でもひょっとしたら奴には、本当に少女に見えるているのかもし

     れません。何せ第壱級障害者の烙印を押された男ですから。まあ、私には

     どうでもいいことですがね」

スパイス 「どうでもいい?」

所 長  「さて、そろそろ戻りましょうか。新しい収容者の手続きがあるのでね」

スパイス 「は、はい」

所 長  「では、行きましょう」


-暗転する舞台。

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