四章 ともだちトせんせい

 場所は、弐っちゃんの部屋。

 室内には彼女の他に一組の男女がいるが、明らかにここの看守でも収容者でもなかった。

「その"せかい"はね、おっきな屋根で守ってもらってるの」

「おっきな屋根?ドームみたいな?」

 と、ソルトが聞く。

「そう。それ」

「そんな大きなドームに住めるなら、みんな安心だね」

 と、ジョナが言う。

「うん。みんな安心安心」

「いくら何でも"せかい"よりデカイドームはやり過ぎよ。もう少し小さいのをたくさん創ったら?」

「いろんな屋根を創っていいの?」

「そういう事になるわね」

「それも楽しそうだね」

「うん。楽しそう」

「でも、まだそこへ行こうって気にはなってないわね」

 ソルトに言われて、俯いてしまう弐っちゃん。

「まだ探したいのかい?」

「うん」

 ジョナに問われた弐っちゃんは、静かに頷いた。

「でも、探すのはもう終わったかも…」

「ほんとに?誰よ」

「もしかしてそれって…」

ー♪♪

「弐っちゃん。入っていい?」

 ドアがノックされ、さんきゅうの声がする。

「どうぞ~」

 部屋に入り、室内を見渡すさんきゅう。

「誰かいたの?」

「いるよ。ともだち」

「ともだち?」

 いつの間にか、二人の姿は消えていた。

「今は帰っちゃったけど」

「そうなんだ」

「もうお仕事の時間?」

「まだ大丈夫だよ。紹介したい人がいてさ」

 さんきゅうに促され、スーツ姿の女性せんせいが入って来る。

「こんにちは」

 すぐさま挨拶をする弐っちゃん。

「こんにちは。あなたが弐っちゃんね。私はね、せんせい」

「せんせい?」

「皆からそう呼ばれてるんだ」

「そうなんだ。よろしくせんせいさん」

「よろしくね」

 先生が、持っているラジオに気付く弐っちゃん。

「ねぇ、これは?」

「これ?ラジオよ」

「ラジオ?声が聞こえる箱のこと?」

「そうとも言うわね。聴いてみる?」

 ラジオを付けるせんせい。音楽が流れ出し、しばしそれにひたる三人。

「何か、やさしい」

「ディランズですね。僕も大好きです」

「ええ。いい歌よね」

「困りますねぇ」

 いつの間にか、部屋の入り口に所長と看守がいる。

「所長」

「やはりここでしたか。収容者に違法電波を聴かせるなと、何度言わせたら気が済むんですか?」

「申し訳ありません。気が緩んでいました」

「せんせい…」

 頭を下げるせんせいを複雑な表情でみるさんきゅう。

「しっかりしてください。休暇は昨日までのはずですからね。おい。そろそろ作業時間だ。二人を作業棟へ」

「はい」

「あ。今日も会えたね」

 その看守は、先日弐っちゃんを逃がしてしまった人物だった。

「あ、うん…」

「おい。今度は、逃がさずやれよ」

 所長の言葉に身を強ばらせる看守は、無言で二人を外へと促した。

「行こうか」

「うん」

「せんせい。それじゃまた」

「ええ」

 部屋を出ていく三人。

「所長。ハックは隔離室ですか?」

「ハック?収容者は番号で示してほしいですな。また暴れたので放り込んでありますよ」

「そうですか。ちなみに健康診断には行かれましたか?」

「またそれですか。生憎あなたのように、休暇を取って帰省する暇もないものでね。では」

 部屋を出ていく所長を、無言で見送るせんせい。

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