ストーカーじゃないですよね?




 私は手紙が好き。


 やっぱり自分の気持ちを伝えるのに、一番いい方法だと思う。


 気持ちを込めた手紙って相手の心に響くものがあって好き。

 私も手紙をもらうと嬉しいし、相手も私が一生懸命書いた手紙から色々なことを汲み取ってくれると思う。

 最近はスマホで簡単にメッセージを送り合えるけど、やっぱり無機質なメッセージよりも私は手紙派かな?


 私は同じアパートの人で好きな人がいる。

 私の一目惚れだった。

 何度か見かけるうちに、自分の気持ちに抑えが効かなくなって、その想いを伝えようとその人の家のポストに手紙を出した。

 自分が手紙もらったら嬉しいし、相手も喜んでもらえるかなって思って。


「赤坂様へ

 突然のお手紙ごめんなさい。どうしても自分の気持ちをあなたに伝えたくて。

 私はあなたに一目ぼれした18歳の女の子です。身長は159cmで、体重は40kgです。顔は女優の×××に似てるかな?(笑)

 突然なのでビックリしちゃうかもしれないですけど、良かったら私と友達から始めてくれませんか? 連絡待ってます♡

 姫奈ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 この手紙をポストに投函して、ドキドキしながらずっと待ってた。

 けど、ずっと待っていたのに全然連絡が来なかった。


「もしかしたら恥ずかしくて連絡取れないのかな?」とか

「連絡しようと思って置いておいたら間違えて他のものと一緒に捨てちゃって、連絡できなくて困ってるかも」とか

「電話番号とID書き間違えちゃったかな」とか

「何度も目があったことがあるし、絶対向こうも私のこと好きなはずなのに」とか


 色々考えた末、もう1回手紙を出すことにした。


「赤坂様へ

 こんにちわ。2度目の手紙ですね。前の手紙は呼んでくれましたか?

 もしかして恥ずかしくて連絡できなかったのかなって(笑)だとしたら可愛いです。

 私、この前の手紙で電話番号とかID書き間違えちゃったかなと思ってもう1回書いてます。

 赤坂さんと私は何度も目があったことがあるし、赤坂さんも私のこと見たら“あ~この子だったのか!”って思うと思いますよ♡

 だから緊張せずに、気軽に連絡してきてくださいね☆

 それじゃ、連絡待ってます♡

 姫奈ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 その手紙を投函して、私は再びドキドキしながら連絡を待った。

 1時間経ち、3時間経ち、半日経ち、1日経ち、3日経っても全然連絡がこなかった。


「もしかしたらポストの中の手紙、気づいてないのかも」

 そう思った私は3度目の手紙を書いた。

 今度は玄関のドアノブの部分に貼り付けておいて「手紙が来てるよ!」ってことを認知してもらおうと思う。


「赤坂様へ

 こんばんわ☆ これは3回目の手紙なんですけど、もしかしたら前の手紙に気づいてもらえてないかな?(汗)って思って、これを書いてます。

 詳しいことは1回目、2回目の手紙を見てくださいね♡

 今日、赤坂さんを玄関先で見ました。今日もスーツ姿かっこよかったです。○○○株式会社にお勤めされてるんですよね?

 一流企業なので、きっと赤坂さんはすごく頭がいいのかなって思うとドキドキしちゃいます♡

 私、独り暮らしの赤坂さんの家で料理とかしたいなって思ってます。ほら、独り暮らしの男性ってコンビニ弁当ばっかりだったりするじゃないですか!

 それだと具合が悪くなっちゃいますから。

 私は料理が得意なんですよ♡

 それじゃ、連絡待ってますね♡

 姫奈ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 私はその手紙をセロハンテープで赤坂さんのドアノブの近くのドアに貼った。

「これでよし」と思って私はまた連絡を待った。


「そうだ! 赤坂さんに料理のおすそ分けしてあげよう。男の人の胃袋を掴むのは攻略の最短ルートだよね」


 そう思った私は何を作ろうかと考えたが、女子力を発揮して、尚且つ常温でも腐らないものと言ったら最初はクッキーとかかな?

 クッキーに決めた私は早速作りはじめた。


「どんな形がいいかなー? やっぱりハート型がいいよね」


 私はハートの型をとってクッキーを焼いた。

 1枚食べてみると、自分でも上手に焼けたと思った。

 それを可愛いラッピングに入れて、その中に入れる手紙を書いた。


「赤坂様へ

 こんにちわ♡ 返事がなかったんですけど、もしかして具合が悪いんですかね?(汗)

 具合が悪いのかなと思って、食べ物の差し入れです。

 このクッキーは私が焼きました♡ 結構な自信作です☆

 私、前に料理が得意だって言ったじゃないですか? それを実感してほしくて♡

 このクッキーを食べたら、きっと具合が悪いのもすぐ治りますから!

 ファイトです♡

 いつまでも連絡待ってますからね、いつでも連絡ください♡

 姫奈ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 クッキーの中に手紙を入れた。

 そして赤坂さんの家の前に行って、ドアノブにクッキーをぶら下げておいた。

 以前セロテープで貼った手紙はなくなっていたので「赤坂さんが見てくれたのかな?」と思った。

 しかし、もしかしたら関係ない人が手紙をはがして持って行ってしまったかもしれない。

 このクッキーも、もしかしたら別の人が持って行ってしまうかもしれない。

 そう考えた私は、いつも赤坂さんが帰ってくる時間を見計らって、赤坂さんの家の前で張っていた。


 待ち続けて30分程度した頃、赤坂さんは帰ってきた。

 そしてドアノブに私がかけたクッキーに気づいて、しばらくそれを見つめていたが、家の周りを何度か見渡した後にそれを持って家の中に入っていった。

 それを見て私は嬉しくなってその場で飛び跳ねて喜んだ。


 そして、また1日、2日たった頃、相変わらず私の携帯は鳴らない。


「なんでだろう。クッキーは好きじゃなかったのかな?」とか

「クッキーまだ食べてないのかも」とか

「もしかして、私からもらったクッキーを開けるのもったいなくて開けられてないのかも」とか


 考えた私は今度はカレーを作ろうと思った。

 カレーならタッパーに入れて、保冷剤とか入れておけばそう簡単に痛むこともないし、カレーなら誰でも好きだよね。

 私はカレーを作りはじめ、色々隠し味を入れた。ワイン、リンゴ、牛乳……

 あと、私の血液を入れた。

 血液は私の愛情の証。

 それに、赤坂さんに私の体液入りのカレーを食べてもらえたら本当に、身も心も私たちは1つになれる気がした。

 手首を切るのはちょっと痛かったけど、私の血液を入れて作ったカレーは美味しかった。


「これでよし。あとは手紙を書くだけね」


「赤坂様へ

 こんばんは♡ クッキーは口に合わなかったですかね?(汗)

 今度はカレーを作ってみました。色々入れたので、かなり美味しく仕上がってますよ♡

 色々っていうのは……ふふふ、秘密♡

 料理の定番と言ったらカレーですよね? 私はカレー大好きです。

 保冷剤を入れておきますけど、早めに食べてくださいね☆

 感想を聞かせてほしいです。結構自信作なので♡

 最近、毎日赤坂さんのことばっかり考えちゃいます……

 朝起きてから寝るまでずーっと赤坂さんのこと考えちゃいます。

 本当に大好きです♡

 早く赤坂さんと電話したり、メッセージしたりしたいです。

 手紙は好きなんですけどね!

 それじゃ、待ってますね♡

 姫奈ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 私はタッパーにつめたカレーに保冷剤を入れて、手紙が濡れないように耐水封筒に入れて、それを袋に入れた。


「よーし、今日もいくぞー!」


 そのカレーを赤坂さんの家のドアノブに再び袋をぶら下げた。

 早く赤坂さんと話がしたいなと思いながら、うきうきした気持ちでその日も赤坂さんが帰ってくる時間まで待っていた。

 待ち続けて1時間程度、赤坂さんが帰ってきた。


 ――あれ……?


 赤坂さんは隣に女性を連れていた。

 私と比べると可愛くもなんともない普通の女だった。


 ――家族の人かな?


 赤坂さんはドアノブにかけてあった私の手作りカレーに気づき、また辺りを見渡してからその女性2人と一緒に家の中に入っていった。


 それから私はまた赤坂さんからの連絡を待った。

 やはり、連絡は来ない。


「んー、手紙は見てくれてると思うんだけどなー」


「もしかして、具合が悪くなって家族の人に看病に来てもらってたのかな?」とか

「私に連絡したら、もう私からの手紙がなくなっちゃうと思って惜しんでるのかな」とか

「あれが赤坂さんの彼女なわけないよね」とか


 そう思って私は再び手紙を書き始めた。


「赤坂様へ

 こんにちわ♡ カレー美味しかったですか?(笑)

 この前、女性と家に入っていくのを見ましたけど、あれは家族の方ですよね?

 家族の方が介護に来られるほど具合が悪いのですか……?(汗)

 具合が悪かったら、私が看病しますよ! 私、そういうの昔から得意なんです。

 なんていうかなー? 相手の気持ちが分かっちゃうっていうか、察する力が強いんですよね。

 よく“優しい”って言われるんですよ♡

 赤坂さんのすべてを包み込めたらって思います。きゃっ//// 恥ずかしい!(笑)

 私、子供とかも大好きで、早く子供ほしいなーって思うんです。

 そういうのって早い方がいいじゃないですか?

 ……っていうことで!(照)

 連絡待ってまーす♡

 姫奈ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 それを書き終わっていつも通り赤坂さんの家に投函しに行った。


 そして、また1日、2日が経った。


 連絡は来ない。


 私はなんだか不安に思ってきた。


 ――本当に、彼女とかじゃないよね……?


 私はそう考えると、急に赤坂さんに裏切られたような感覚に陥った。


 ――もし、そうだったとしたら絶対に許さない


 私は便箋を取り出して、また手紙を書こうと思った。


 ――どうして連絡してくれないの?


 手紙のインパクトが足りなかったのかもしれない。

 そう考えた私は、自分の血で手紙を書くことにした。

 自分の手首をカッターで切り付けて、溢れてきた血を爪ですくって手紙に血文字を書く。


「あかさかさまへ

 どうしてムシするんですか?

 あの人、カノジョじゃないですよね?

 カノジョだったら別れて下さい。

 私があなたのカノジョです。

 れんらくしてくれないなら、ちょくせつ会いに行きます。

 れんらくしてください。

 ひな 090-6842-×××× ID:hina××××」


 私は手紙の血が乾いたころに手紙を折って、便箋に入れた。

 そしていつも通り赤坂さんの家のポストに投函した。


 これなら絶対に返事が来るはず。


 連絡が来たらどんな話をしようかな。


 デートはどこに行こうかな。


 セックスは付き合い始めて1か月経ったくらいがいいかな? あんまり早くてもビッチだと思われたくないし。


 でも結婚は早くしたいな。


 子供は3人とか? 大家族のほうが絶対楽しいよね。


 子供は色んな習い事させたいな。


 子供が自立したら赤坂さんと2人で老後を迎えて……


 おじいちゃんとおばあちゃんになっても手を繋いでデートしたいな。


 何もかもが楽しみだなぁ。




 ***




「本日、大分県中津市で、18歳女子高校生が好意のある男性に対してつきまとい行為をしたとして、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕されました」


「容疑者の女子高校生は“つきまとい行為はしていない”、“手紙を出しただけ”と容疑を一部否認しています」


「容疑者は自分の血液をしようして書いた手紙を、被害者男性宅に投函していたということです」




 END




(※「血文字の手紙」を題材に書き始めたら、いつの間にかストーカーの話になってました。ストーカー行為をする方は自分がストーカーって気づかなかったり、盲目的になりすぎて「自分の行動は大丈夫」とか思ったりするようです。自分の行動には気をつけましょう)



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