イジメは許されるんですか?




 私は中学校に行きたくない。


 私は学校の教師やクラスメイトからイジメを受けているからだ。

 イジメられていることを学校の先生に相談しても、とりあってもらえない。逆に、私の存在が面倒なのか「あなたにも原因がある」と諭してくる。

 イジメてくる子の方が教師にとっては気に入ってる存在だから、イジメてる子を庇って私のことなんて少しも考えてくれない。


 トークグループの中で自分の悪口を書かれたり

 掃除当番を押し付けられたり

 無視されたり

 仲間外れにされたり

 教科書を捨てられたり

 ノートを破られたり

 上履きを捨てられたり

 恥ずかしい恰好をさせられて写真を撮られたり


 それって全部私が悪いの?


 確かに私はブスだし、太ってるし、足も遅いし、喋り方も自信ないけど……

 それってイジメていい理由になるの?


 それに、私は学校の校則について納得いかないことが多くて、納得できないのに絶対的に従わなければならないということが苦痛だった。


 前髪は目にかかったらいけないとか

 髪が肩についたら縛らないといけないとか

 縛るときはポニーテールにしたらいけないとか

 元々髪の毛が明るいのに、黒染めしないといけないとか

 夏場は半袖を着ないといけないとか

 日焼け止めは塗ったらいけないとか

 化粧したらいけないとか

 下着は白を着用しなければいけないとか

 男子は髪を伸ばしたらいけないとか


 あげたらキリがない。

 刑務所に入ったことがないから、刑務所のつらさは分からないけれど、刑務所のように感じる。

 それか、私はロボットにさせられちゃうんだって思って怖くなった。

 なんでそうなのか分からないけど「従いなさい」って言われ続けることが怖かった。


 私は自分の顔に自信がないから、髪の毛で顔を隠したいし

 首のニキビを隠したいから髪の毛も縛りたくないし

 地毛が茶色いのになんで私だけ黒染めしなければいけないのか分からないし

 太ってる身体を露出させたくないから半袖は着たくないし

 肌が弱いから日焼け止めは塗らないとすぐに痛くなっちゃうし

 化粧してまともな顔になるなら化粧したいし

 太ってるから下着の色なんてろくに選べないし

 別に男の子だって髪の毛は伸ばしていいと思うし


 私は教室の中で「ブス」「デブ」「ニキビ」「白ブタ」と言われる悪口に耐えなければならない。

 なのに、校則だからって無理やり従わせるって、教師からのイジメじゃないの?


 学校で「人権」っていう勉強をした。

 学校で「道徳」っていう勉強をした。


 でも、私の周りにはソレは存在してないように感じた。

 私は怖かった。

 存在していないのに「人の命は平等」とか「差別してはいけない」とか平気で言う。

 私はゾッとした。

 私はその「人間」の枠に入っていないということを思い知った。


 周りの人たちは上手く誤魔化したり

 上手く教師に取り入って見逃してもらったり

 あるいはなんでも「YES」と言って受け入れたり


 私はそんなに器用に立ち回れなかった。

 間違っていることは「間違っている」って言えない学校が本当に苦痛だった。

 表向きは「間違ってる」ことでも、それは「正しい」ことにされて、学校という社会では私の方が「間違ってる」ことにされた。

 存在することそのものが疎まれる存在になっていた。


 学校に居場所はない。

 そんな私は家でも居場所がなかった。


 父は、私が「学校に行きたくない」と言ったら私に暴力を振るって


「勉強したくても勉強できない子がいるんだ! どんな状況でも勉強ができることは幸せなことなんだ!」

「誰が食べさせて学校に行かせてやってると思ってるんだ!」


 と叱責した。

 私は学校でのイジメが原因で、勉強どころではなかった。

 だって教科書は勝手に捨てられちゃうし、書いたノートは破られちゃうし、私がいくら頑張っても、周りの人がそれを台無しにする。


 母は、私が「いじめられている」と言うと


「あんたはブスだし太ってるし、ひっそり空気みたいに振舞ってればいいのよ。でしゃばるからイジメられるの」

「周りの声なんて無視しなさい」

「学校に行かないとろくな大人にならないわよ」


 そう言ってろくにとり合ってもらえなかった。

 学校に行っていれば必ずまともな人間になるわけじゃない。学校に行っていてもろくでもない人間もいる。そのろくでもない人間に私は迫害されているのに。


 母は癇癪かんしゃく持ちで気に喰わないことがあるとビンタされた。

 私が苦手な食べ物を不味そうに食べたりしたときなどだ。

 私が太っている要因として、母が沢山ご飯を作るというものがある。

 父が「もういらない」と言うと、残りは全部私が食べなければならない。

 私が食べ物を残すと殴られるので食べなければいけなかった。

 お腹がいっぱいでも、無理やり口に運ばなければならない。

 母に「もう少しご飯減らしてほしい」と言ってもビンタされた。


「ご飯が食べられるのは幸せなことなのよ!」

「食べられない子だっているんだから!」


 それが悪循環になって私はどんどん太っていったし、痩せることができなかった。

 油もののせいなのかニキビはできるし、スキンケアの化粧品などを買ってほしいと言っても、父に「そんなものは必要ない!」と殴られた。


「あんた、本当に穀潰しね」

「なんでそんな顔に生まれたんだ。見ていて不快」

「なんの取柄もないし、本当に死んでほしい」

「こんな子供ならほしくなかった」


 などと私は言われ続けた。


 家にいても、学校に行っても居場所のない私は家出したこともあった。

 SNSで「誰か泊めてください」と呼びかけたら、何件か「俺の家で良ければ」という返事が来た。

 これ以上酷い目には遭わないと思っていたし、ネットで優しくしてくれるその人たちに私は心を開いた。

 でも……私はオジサンの家に行ったら、レイプされた。

 ネット上では優しかったのに、実際に会ってレイプするときは


「お前みたいなブス、抱いてもらえるだけありがたいと思え!」


 と言われた。

 私は怖かったけど、抵抗できなかった。


 事が終わった後、私は泣きながら家に帰った。

 父も母も私が夜中まで遊びまわっていたのだと思い、暴力を振るった。

 私が泣いていようと、事情を聴いてくることはなかった。ただただ自分たちの思い通りにならない私に対してすることは暴力だ。

 この件は、妊娠しなかったことだけが唯一の救いだ。


 私は誰も信じられなくなった。

 学校も、親も、教師も、ネットの人たちも。

「社会」という「表」の顔はまともなふうを装っても、裏では私を虐げる。


 みんな汚い。

 みんな汚らわしい。

 みんな汚れている。


 私は行き場を失くして部屋にひきこもるようになった。

 部屋に鍵をかけて、父も母も入ってこられないようにした。


 ドアの前で叫ぶように私を罵倒する父と母に対して、私はついに耐えられなくなり「暴力」を覚えた。

 親には散々怒られて、殴られて、蹴られて、暴言を吐かれてきたけど、私も「暴力」を振るってもいいのだと考えるようになった。


 そうだ。


 だって私はずっと振るわれてきたんだから暴力を振るっても構わないと思った。

 学校でもずっと理不尽な扱いを受けてきた。

 だから私だってそうしてもいいんだ。


 鍵を開けてドアを開いて、まず母の顔を殴りつけた。


「うわぁあああああああっ!!!」


 父の腹を殴った。


 倒れた両親を何度も何度も蹴ったり殴ったりした。


「放っておいて!!」


 初めて誰かに対してやり返したときは気持ちが良かった。


 それ以降、私は気に喰わないことがあると些細な事で親を暴行するようになった。


「学校に行ってほしい」と言われたから暴力を振るった。

「部屋から出てきて」と言われたから暴力を振るった。

 親が部屋に訪れたから暴力を振るった。

 ご飯を持ってくるのが遅かったから暴力を振るった。

 ご飯が不味かったから暴力を振るった。

 私が寝たい時に下からの話し声がうるさかったから暴力を振るった。

 買ってこいと言ったものを間違えたから暴力を振るった。

 暴力を振るっているときに泣きわめいている声がうるさかったから暴力を振るった。


 私は暴力を振るい続けた。


 親は仕事に行くので、顔は狙わなかった。

 いつも殴ったり蹴ったりするのは太ももや尻、背中、腹、肩、二の腕の辺りだ。


 私が暴力で支配されていたのと同じ、私は暴力で両親を支配した。


 ある日、親が「あなたなんて産まなければよかった!」と言った。


 私は別に生まれたくなかったのに。

 私はどうして生まれてきたのか解らなかった。

 私は別に「産んでください」って言って生まれてきたわけじゃない。

 私はもっと裕福な家に生まれたかった。

 私は普通の人生を送りたかった。

 私は幸せになりたかった。


 幸せになろうとしても、過去のことを思い出すと苦しくて、悲しくて、憎くて、その感情がどんどん私の「幸せ」を遠ざける。


 私は、私をイジメたことをなかったことにして社会に出てのうのうと生きている人が憎い。

 私に酷い言葉を吐き続けたクラスメイトが憎い。

 イジメを訴えても何もしてくれなかった教師が憎い。

 私をこんな醜い容姿に産んだ親が憎い。

 私を生み出したすべてが憎い。


「じゃあもう終わりにする」


 私はカッターナイフを手に持った。




 ***




「本日、宮城県仙台市の無職、藤井ふじい麻美あさみ容疑者が殺人の疑いで逮捕されました」


「藤井容疑者は同居している両親を殺害した疑いがもたれています」


「“全部なかったことにしたくて殺害した”と容疑を認めています」




 END




(※イジメによって人生が狂ってしまう人がいます。イジメがなかったら普通に暮らせた人がいます。イジメによって心に深い傷を負う人がいます。「子供だから言う事を聞かせられない」と躾を諦める人がいますが、イジメ被害によって人生を諦めて死んでしまう人もいます。自分たちが加害者になって、他人の人生をめちゃくちゃにしないようにしましょう)



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