第五話 不和
妙子は博行の給与で二人暮らしと犬二匹でこちらのアパートで生活していた。
こちらのアパートへ引っ越して来た時は観葉植物なども成長して活力があったが、孝之が亡くなるその年から凄い勢いで枯れていき、今もそれが続いている。
その頃、アパートの玄関で長男が度々孝之の姿を見ていた。
長男と孝之は親子関係は最悪で相性が悪いといしか言いようがなかった。
妻である妙子のことも孝之は憎んでいた。
稼いだ金を全部使って大好きなギャンブルやキャバクラ、酒に注ぎ込んで毎日楽しく生きたいと真剣に孝之は思っていた。
日頃からその様な状況に近い状態であったにもかかわらず、家族には“俺は何も遊んでない! 遊び足りないくらいだ!”と怒鳴っていた。
”妙子が金を溜め込んでいる“と孝之は思い、自分の稼いだ金を全部使わせてくれないことを恨んでいた。
実際にはお金の預貯金があるわけではなく、三十代半ばで新築の一戸建てをローンで購入して家計は火の車であった。
妙子の両親の遺産も全部注ぎ込んでも支払いが厳しく、築一年目でもう支払いができないから家を売ってやり直そうと言っても、孝之は聞く耳を持たない。
妙子と博行がぐるになって自分に意地悪しているとしか思わない性格の孝之は益々意固地になるだけであったのだ。
「孝之さんは最初からその様な性格だったんですか?」
「はい。博行を妊娠した時にも“誰の子か分からない”とか”俺は子供を産めない女が好きだ“など平気で言うのです。夫の周りの人たちからは“結婚するんじゃない”と私は言われ続けていたんです」
妙子は更に話を続けた。
「夫の行きつけのスナックに連れて行かれた時にもそこのママさんに”あの人とは絶対に結婚するんじゃない“とか“子供を産んで別れたら何かあったら私の所にいつでもおいで”と言われたり、そのお店に居たお客さんで家庭裁判所の職員の男性も一人で取り残されている私を見かねて名刺を渡し”何かあったら相談にのるよ“と言ってくれたんです」
「相談したのですか?」
「いいえ…… その家庭裁判所の職員の男性が私にお寿司をご馳走する話していると、さっきまで私を独り取り残して、別の席で仲間と賑やかに飲んで騒いでいた孝之は私と男性の間に割って入ってきたんです」
家庭裁判所の職員はその後、孝之と妙子を寿司屋に連れて行きカウンターに座り“好きな物を頼んでいいよ”と行った途端、二十歳の孝之は”ウニ! ウニ!“と何度も何度も繰り返ししつこくウニだけをひたすら注文していた。
妙子が何度も“やめなさい”とさとしても孝之は”好きなの頼んでいいって言っただろうが!“と凄い剣幕で怒鳴っていた。
面識のなかった初めて合った人に対して失礼極まりない態度の孝之に周りの人たちも気分を害していた。
結婚後も出産予定日間近なのに出産費を孝之は別の飲み屋の女に貸してお金は戻ってこないまま妙子の父親と二人で役所で手続きをして長男を出産したり、出産後は孝之は風邪で会社を休んでいるにもかかわらず、自宅でじっとしていられなくてパチンコ屋に行ったのが会社にバレて解雇されたり、結婚生活でも育児も全て妙子一人がやり、赤子を背負いながら仕事をして生活費のお金を稼いで生活する日々であった。
夢の様な幸せな新婚生活とは無縁の過酷で残酷なな生活を野口妙子は送っていた事が分かった。
間宮響子は妙子の背後に蠢く黒い影を感じていたが、今はまだその正体が分からずにいた。
「一戸建ての家は今はどうしているの?」
「あの家は夫が亡くなってから私達は相続放棄を家庭裁判所で手続きをしてから放置状態です。生前からこの家の住宅ローンはどうなっているのか何度も聞いていたんですが、夫は”俺が死んだらチャラになる保険は入っていない“と私たちにずっと言っていました。しかし、相続放棄後に銀行から保険に加入していると言われて……もう、夫の嘘を信じた私たちの落ち度でしかなくて……」
「そうでしたか。その家の写真か何かお持ちではないですか?」
「家の写真という様な物はあいにく持ってませんが、夫が自営業で会社しておりまして自宅兼会社にしてましたからインターネット検索のマップでは画像を見ることができます」
「吉村くん、ネットで会社名を検索して!」
響子の指示を受けて吉村賢人は自分のスマホで妙子から聞いた会社名を検索するとマップから家の画像を検索することができた。
「深い緑色の屋根に茶色の外壁……ドイツ風の外観の家なんですね……」
響子は引き攣った表情を隠しきれずにいた。
妙子は少し戸惑いながら話を続けた。
「夫は突然死でした。次男が十四時過ぎに一階のトイレへ行くのに二階から降りると照明がついたままストーブもついたままで、夫はまだ一階のベッドで寝ていたので声を掛けたそうです。返事をしない父親の様子がおかしいと思い、次男は夫の体を触って揺すったそうですが、体は冷たく硬直したままだったそうです。それで次男は慌てて私へ電話をしてきました」
「死因は何だったのか分かったんですか?」
「消防の救急と警察へ連絡し、先に救急隊員が到着し夫の状態を確認しましたが、亡くなっていたので警察の担当になりました。検死へと遺体は運ばれて“心臓の動脈が石灰化している為の循環器不全によるもの”が死因でした」
「そうだったんですね……それでは孝之さんは自分が死んだことに気づいてないかもしれませんね……」
「やはり……そうなんですね……11月下旬に亡くなったのですが、夫はストーブを二十八度で焚いてストーブ近くにベッドがあり、電気敷布も温度が”強“にした状態で寝ながら亡くなったので、検死では低温火傷のため両足の太腿から足首までの皮膚が剥離してしまったそうです。右側臥位の姿勢だったため右顔半分や剥離した両足からも腐敗が進み、検死から戻ってきた翌日には直葬で火葬だったのです」
妙子は躊躇いながら続けた。
「自宅の方は住宅ローンや電気、水道、携帯電話や税金や健康保険料の滞納から督促状や差し押さえ通知などもきており、夫が亡くなった月に電気も水道も携帯電話も全て滞納ために止まりました。口座のお金も差し押さえになりましたので、お金を工面するのが大変でした。家に遺骨を置いたまま家の出入りが出来なくなる前に夫の遺骨は火葬の翌日にお墓に納骨したのです。納骨の後直ぐにその足でそのまま弁護士の無料相談と受けて家庭裁判所で相続放棄となったのです。あれからあの家には私達は行っていません」
「妙子さん、この家から出られたのは不幸中の幸いでした。私はこの家のイメージを貴方から相談を受ける以前に見ました。この家には幽霊も居ますが、それら幽霊を支配している存在が居ます。それは、息子さんたちを狙っています。そのため障害となる妙子さんをまず葬るようでしたね」
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