第16話

ハッハッ、と粗い息遣いが聞こえる。

もう二度と顔を見ることはないと思っていた枢木白虎君が、俺を迎えに来てくれた。


そう、俺は今、親父の運ばれた病院ではなく、警察署の取調べ室にいた。


俺は親父が倒れたのに気が動転したあまり、自分がフルチンなのも忘れて親父を抱え病院まで走って来ていた。


そこで警備員に取り押さえられ、パトカーに乗せられて今に至る、というわけである。


「僕のお古で悪いけど…」

そう言って白虎君は服を差し入れてくれたので有り難く着ることにする。


丈が短くて俺のデベソだけが出っ張り、漫画みたいになった。

俺の横にいた警察官がそれを見て堪えきれず吹き出した。


馬鹿にしてん…

わぁ、柔軟剤の匂いがするぅ〜♪


「親父の容態は…?」

「何とか峠は越したってさ、…君が服を忘れて病院に駆けつけたおかげで、早く処置出来たのが幸いだったって」

そういうと彼は軽く肩をすくめて笑い、

俺の足元を見る。


「……ありがとう、君が靴を履くのも忘れて駆けつけたおかげだ」

頭を下げられた。


よしてくれ、…俺は自分の為に走ったんだ、

結果多くの人にも迷惑かけた、

頭を下げるのはこっちの方だ。


「お袋は…病院には?」

白虎君は被りを振って否定した。


そうか


「一応連絡は入れたんだけどね」

だとしたら、お袋が来ないのは俺のせいか


そりゃそうか

いい歳して公然猥褻罪で捕まった息子の親なんて周りに知られたら、プライドの高いお袋でなくても憤死するわ。


「一応、緊急事態だったってことで、罪は取り下げられ厳重注意だけで済んだけどね」

白虎君は片目でウインクする。


ア、アニキィィッ!!!


お世話になりました、と頭を下げて警察署を後にする。

「じゃあ僕は仕事に戻るけど…、君はこれからどうするつもりだい?」


言いながら車のキーをかざしてロックを解除する。

クソ、良い車乗ってんな、今度見かけたらエンブレムへし折ったろ。


「さあ、どうしようかね……、取り敢えず親父のお見舞いには行くけど」


「最後に親孝行してやろうって気はない?

良かったらまだウチの仕事空いて─」


「いやそれはいい、断固有り難く丁重にお断り申し上げ奉る」


「ハハハッ、まぁ君はそう言うだろうと思ってたよ」

奴はそう言いながら車に乗り込んだ。


「また親父の容体が変わったら連絡するっ!」


枢木白虎は、真っ赤なポルシェから腕だけを出して振り、颯爽と駆け抜けていった。


親孝行、ね


しゃーねぇ、俺もそろそろ本気出すかな


行くぜ 最後の親孝行(final war)だ

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