第15話
夢を見た。
異世界転生でも無ければ、高校の頃のイジメの記憶でも無い。
幼い頃、家族皆でキャンプした時の、人生で一番充実してた頃の記憶だ。
俺と妹は川の浅瀬で水をかけあってはしゃぎ、
親父はBBQコンロの中々付かない火と格闘していた。
お袋は少し離れたところでパラソルを立て川で冷やしたスイカの番をしており、俺は妹と二人で何度も手を振った。
その内、ただ浅瀬でパシャパシャはしゃぐのに飽きた俺は、更なる刺激を求め大きな岩場に登った
「危ないヨォ」と尻込みする妹を眼下に、
「大丈夫だって!父さん母さんも見ててよっ!」
と大声で叫び、勢いよく飛び込んだ。
ざっぱーんっ!
大きな波飛沫が上がり、俺の体は川の深いところまで沈む。
どうだ、凄いだろ!そんな気持ちで水面に上がろうと手を掻いだ瞬間、何か大きな手に足を掴まれた感触がした。
ゴッボォォオッ!
俺は驚いて思わず息を吐き、水を大量に飲み込んでしまう。
苦しいっ!
息がっ
助けてっ!
母さんっ!
父さんっ!
俺は掴まれた足を必死に引っ張り腕を振り払おうとするが、掴んだ腕は離そうとする所か、ますます強い力で水中に引っ張り込もうとする。
ゴボボッ!
苦しい、
どうしてこんな事するの!?
誰かっ!
助けてっ!誰かっ!
俺は掴んだ腕を必死に蹴り下ろし、その正体を見定めようと目を凝らした。
掴んだ腕は、獣耳爆乳ふしだらロリ系純情処女ビッチ美少女メイドのものだった。
「うわぁあああああああああああああああ!!」
ガバァっと起き上がり、これが夢であったと分かり安堵する。
なんつう悪夢だ、最悪の夢だ。
周りがビッショビショに濡れていたので、もしかして漏らした⁉︎やだいい歳して!と焦ったが、
首筋のあたりまで濡れているあたり、どうやらそれは汗のせいなようだった。
俺は窓に布団を干し、シャワーを浴びて着替えもせずタオル一丁でリビングに向かった。
シャワーを浴びる前に妹の部屋を覗いたが、そこにはもうお袋の姿は無かった。
テーブルに万札が5枚置いてあり何事かと思ったが、お袋が後日、妹の部屋の私物を取りに向かうのでそれまで頼むからどうか手をつけないで欲しい、との書き置きが残してあった。
つまり手切れ金だ、
お袋は妹の私物を引き取ったら、もうここには戻ってこないつもりらしい。
ガスコンロを見ると、ハンバーグの作り置きがフライパンにあった。
俺の大好物で、昔はテストの点数が良かった度に夕飯はハンバーグにしてくれと催促してたっけ、などとセンチメンタルな気持ちになる。
そう言えば、親父の姿を昨日から見てないが一体どこ行ったんだろ?
そう思った直後、ガチャリ、と家のドアが開く音がした。
親父だった。
「おう、おかえり どこ行ってたんだよ」
「病院」
親父は短くそう答えてフラフラと家の中に入っていった。
心無しか顔面が青い、どこか具合でも悪いのか?
「母さん 帰ってきてたんだってな」
親父は俺に低い口調でそう尋ねた。
マズイ、お袋から聞いたのか?
だとしたら妹の部屋を漁ってたことももしかしてもうバレてる?
俺は静かに軍隊式暗殺八極拳の構えを見せ、戦闘態勢に入った。
親父はフラフラとキッチンに入り、ゴソゴソと何かを探っていたと思ったら、
ヌラリ、
と包丁の鈍い光が垣間見えた。
っぴぇっ!?
無理無理無理無理無理無理そりぇはムリィ!!?
どんな格闘技の使い手であろうとも、凶器を持った人間相手には人は勝てない、
そんなの常識パッパパラリヤ
俺はあまりの恐怖に足がすくみ、両手をプチョヘンザし、腰にかけたタオルがはだけ、生まれたてのワガママボディを親父の前に晒した。
「……医者の見立てでな、俺はどうやら後半年ももたないらしい。」
は?
親父が急にそんなことを言うので、思わず素っ頓狂な声を上げる。
「癌があちこちに転移しててな、…とっくの昔に死んでもおかしくないんだと。抗がん剤もいくつか試したが、どれも効き目は無かった。」
へー
「それでな、母さんを呼び戻して、お前の面倒を見て欲しかったんだが……まぁ、駄目だった」
親父は震えていた、よく見ると泣いてるようだった。
「なぁ慶一、お前ももう疲れたろ、今ならまだ俺の手で終わらせてやれる。」
って何を?
「お前も言ってたろ?『俺を産んだ責任取れよ』
って……。その通りだ、済まなかった。
責任取って、俺がお前を終わらせてやる」
いや、
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、
え?嘘?冗談でしょ?いやまじで?
ちょ、刃物こっち向けんといて、危ない危ない!
「父さんもすぐ後を追ってやる、なるべく痛くないように─」
嫌だアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ぴゃあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!
俺は文字通り裸一貫で廊下を飛び出し玄関のドアを開け外に逃げ出した。
「まっ、待て!!!慶一っ!待ってくれ!!!」
ゴホッゴボッ、ゴボッグボェボボボボボボボ!!
あまりの異常な音に振り返ると、親父が口から大量の血を流して喉を抑えていた。
「親父ィっ!?!!?!?」
俺は急いで振り返り親父の元へ駆け寄る。
親父はうまく呼吸ができないようで喉を押さえ、
ヒュー、ヒュー、と風切り音が聞こえた。
どうやら血溜まりが喉に詰まりうまく息ができないらしい。
「親父っ!しっかりしろよ!親父!
誰かっ!助けてくださいっ!助けてくださいっ!
誰かっ!誰かーー!!!」
俺は自分が殺されそうになったことも忘れて、
世田谷の住宅街のど真ん中フルチンで叫び続けた。──
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