第11話
腹が減って目が覚めた。
いつの間にか床に這いつくばったまま寝てしまっていたようだった。
ペリペリと頰を床から剥がし腰だけ起き上がる、
無理な体勢で寝ていたので体が痛い。
窓を見るとあたりは真っ暗で、どうやら外はとっくに夜を迎えていたようだ。
階段を降りてリビングに向かう、
物音一つしないところを見ると親父は寝てるのか?
電気もつけないまま冷蔵庫を開ける。
ヴーン、と唸るような低い音だけが空っぽの冷蔵庫内にこだまする。
腹ぁ、…減ったなぁ、
買い物に行くにもお金が無い、カードもついこないだ限度額まで使ってしまって次の月までは無理。
あ、これは割と詰んだんじゃないか?
鳥越慶一郎(35)無職
死因は餓死か栄養失調
新聞の三面の隅っこくらいには載るだろうか、
すみっこぐらしの仲間入りして子供に大人気じゃん、死ぬから暮らしてないけど
ふふふ、と嗤う。
─何一人で笑ってんの?気持ち悪い─
出たな夏の亡霊、
いや今はもう秋だけど
─またなんかのアニメ?アンタ本当アニメの話しか出来ないのね─
うっせ黙れ、何の用だよ?
衰弱死していく哀れな兄貴を看取りに来たのか?
─はは、傑作!アンタ自分が看取られる立場だとでも思ってんの?─
じゃ何しに来たんだよ?もう良いだろ、頼むよ、餓死ってこの世で一番辛い死に方の一つらしいし、もうこれで許してくれよ。
─許すも何も、アタシはただの妄想なんだけど?
まぁいいわ、このまま死なれてもつまらないし、一つアドバイスしてあげる。
アンタがこの家でまだ一つだけ手を付けてない場所があるでしょ?そこどーこだ?─
手を付けて無い場所って……、そんなの一つしかない……
だけどそこは、俺が踏み入れて良い場所じゃない
そこに足を踏み入れてしまったら、俺は今度こそ人として…、いや一人の人間として終わってしまう。
─今更人間がどうとかのたまうの?人間のクズ以下のアンタが?アハハ、本当面白い冗談!─
五月蝿い!これは俺のプライドの問題だ。
─本人がいいって言ってるんだから良いじゃない
プライドじゃ腹は膨らまないわよ─
お前は俺の妄想だろ、
だが、指摘された直後にお腹がグゥーと大きな音を立てた。
腹減った、
慶子の方はいつの間にか片手でジュワジュワ鳴る分厚い鉄板を持ち、もう片方のフォークで血の滴ったステーキを刺して口一杯旨そうに方張っていた。
ああ、ズルい!
チクショウ、妄想だからって何でもアリかよ。
しかし慶子の言う通りだ、プライドじゃ腹は膨れない!
うぉおおおおおおおおお!ベリベリベリッ
俺は自分の矮小なプライドを無理矢理引き剥がし、何度も踏みつけ唾を吐きトイレの大で強引に流し、妹の部屋に直行して金目の物を目の色変えて探し回った。
どこだっ、慶の財布はどこだっ!?貯金箱は!?
ヘソクリは!?金目のモノはなんか無いのか!?
無い!?無い!!ここにも無い!!!
俺はベッドの隙間からタンスの奥までくまなく探して回った。
その時、妹のドアノブがガチャリと回り血の気が引いた。
驚いて振り向くと、
お袋が、
数ヶ月ぶりに見たお袋の姿が、
そこに、
あった。
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