第6話
夢を見た。
前回のような異世界転生ではなく、過去の…
学生時代の嫌な思い出だった。
「おい見ろよ、コイツノートにクッソキモい絵描いてんぞ!」
や、やめろ、見ないでくれ
「うわぁキッショ」
「引くわ」
「幼稚園児かよ」
「え、ナニナニ?『黒翼の堕天使?』
これクラウドのパクリじゃんw」
やめろ、返せ 返せよ
「ちょっとやめなよ男子ぃ、鳥越君が可哀想じゃん!」
そ、その声は獣耳爆乳ふしだらロリ系純情処女ビッチ美少女メイドシスタちゃん⁉︎
「はい、ノート。鳥越君って絵が上手いんだね」
い、いや違う、彼女は当時クラスメイトで、学校中のマドンナだった長谷川直子さんだ!
しかし、彼女は俺が夢見た獣耳爆乳ふしだらロリ系純情処女ビッチ美少女メイドシスタちゃんにソックリだった。
そうか──俺は知らないうちに深層意識で彼女をモデルにしていたのか
「良かったら今度また絵書いて見せてね」
彼女は菩薩のような微笑みでそう言い残し、友達の元へ帰っていく。
振り向きざまにショートボブの短い髪が風に乗って軽やかに揺れた。
(今度また絵書いて見せてね…)
(今度また絵書いて見せてね…)
その声をリフレインしながら目覚めた俺は、一瞬電子レンジでタイムリープを果たしていないのかと軽く落ち込みはしたものの、体の方は未だかつてないほどの清々しさと超絶ビンビンヤル気MAX1000000%に満ち溢れていた。
起き抜けにゲーミングチェアに飛び乗り、コミケの参加要項に申し込む為光速タイピングで派手にキーボードを打ち鳴らす。
カタカタカタカタッターンッ!!!
ターンエンドだっ!!!
コミケのサークル参加は抽選で、当選確率は6〜7割
だが俺は必ず当選すると確信していた、
何故なら俺には女神の御告げがあったから。
(また絵書いて見せてね)
ああ、分かったよシスタ…いや長谷川さん…
やってやる!やってやるさ!
俺はかつてこれ程迄に人生で努力したことがあったろうかというほど同人誌制作にのめり込んだ。
デジタル原稿でいくと決め、Photoshopと液タブを親父のクレジットカードで購入し、youtubeやpixivでのプロ絵師のお絵かき動画を参考にしながら何枚もイラストを書き上げていく。
最初はひたすらプロと同じ構図、同じ絵を模写し続けた。同じように描いたつもりなのに、自分の絵とプロが描く絵では雲泥の差があった。
だがそこがかえって面白く、自分のオリジナリティだと思うと、なんだか味のあるイラストだとも感じた。
慣れない液タブでの絵描きに苦戦し、俺は寝食も忘れてひたすらパソコンの前で制作に没頭していたので、気付けば以前のお袋が出ていく前の酷く汚い生活に戻りつつあった。
だが親父は何も言わなかった。
一人で黙々と慣れない家事をこなし、偶にお袋の時のように黙って部屋の前にご飯を置いてきてくれるようにもなった。
感謝…! 圧倒的感謝っ…!!
無言で協力してくれている親父の為にも、この同人誌は何としても完成させなければならない。
──1ヶ月経ち、まだまだ実力不足だがそこそこ見れるものは描けるようになったと思う。
俺はイラスト制作に一旦見切りを付け、原稿の下書きに取り掛かった。
気付けばあっという間に2ヶ月、3ヶ月と時間が過ぎ、いつの間にかスマホにはコミケの当落通知メールが届いていた。
結果は……
無事当選…!!!
っしゃオラぁっ!!!
俺は実に何年振りかの短いガッツポーズをした。
後は原稿を完成させるだけだ。
待ってろコミケ、待ってろシス…長谷川さん!!
あともう一息頑張るゾイ!!!
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