第3話

ソシャゲを引退したので代わりにネトゲを一日中やるようになった。


その日はギルド内で大事なクエスト攻略があり、

20時間ぶっ通しで雄翼竜討伐に勤しんだ。


「左舷!弾幕薄いぞ何やってんの!!

盾役、姫を守れ!!俺が囮になる!!

うぉぉぉおくらえ!!ムーンエクスプロージョンスクリーム!!!!」

ドッゴォォォォォオン!!


ふ、決まった。


20時間もぶっ通しだった為、流石にそろそろという事で一旦おひらきとなった。

俺も腹ごなしにと一階に降りたのだが、


親父の姿がない。

ま、まさか……


遂に親父も家を出ていったのかと、

めちゃ、多少、若干焦ったが、昔の仕事仲間に会うという書き置きが残してあり、ほっと胸を撫でおろす。


腹が減ったので冷蔵庫の中を漁るが、食える物がバターしか無い。


ふざけんなよ、俺に飢えて死ねって言うのか


まさかそれが親父の狙い…⁉︎

だとしたらこの書き置きはアリバイ工作…⁉︎


野郎、ただで死んでたまるか

うぉおおおおお

俺は暴れ回ってテーブルを持ち上げひっくり返そうとするが重くて持ち上がらない。


すると書き置きの下からするりと千円札が落ちてきた。


親父がお昼代に置いていったのか


親父、ありが…シケてんなぁたった千円かよ


一応この国の元官僚トップだろ

天皇から重光章叙勲勲章した上級国民様だろ

早期退職とは言え年金だって平民より幾倍支給されてるだろ


今時の小学生だってもう少し貰ってるぞ。

俺に黙ってどこに金隠してやがる、


ブツクサ文句を言いながらも千円札はしっかりとポケットにしまう。


さて、この千円でお昼は何を食べようか


久しぶりにピザでも頼みたかったが、手持ちの金ではとても足りない。


諦めて外食にするか


だが昨日から風呂にも入らず寝間着姿のままではご近所に通報されかねない、

仕方なくさっとシャワーを浴びて身繕いを済ませる。


サンダルを履いて玄関を出た。


実に何年ぶりかの外出で太陽の光が目に痛い。

景色は昔とすっかり変わっていて、ちょっとした浦島太郎気分だった。


記憶を頼りに歩き出す。

外は麗らかな春日和で桜が満開だった。


爽やかな風が吹き、舞い落ちた桜の花びらが肩に乗り風情を感じる。


久し振りの外出に、スキップしたくなるほど

心が浮ついていく、

たまにはこうやって散歩に行くのも良いかもしれない。

うん、健康にも良いし明日から毎日そうしよう!


前を見ると手を繋ぎ朗らかに花見をする母子の姿があって、微笑ましくなる。

俺にもそんな時代があったな──


追い越した時ふと子供と目が合ったので、

軽く微笑んで手を振ってやった。





めっちゃ泣かれた。

母親は汚物を見る目で子供を背中に隠した。



クソが、

我は元経産省事務総長の一人息子である鳥越慶一郎様なるぞ下民如きが


ぺっ、と痰を吐き足早に通り過ぎる。

あー、害したわー、めっちゃ気分害したわー。

何が桜だ鬱陶しいんじゃボケ、


ははは

はぁもうやる気無くしたわ、

どこかシャレオツなカフェでオシャなランチでも洒落込もうと入ろうかと思ったが、面倒臭くなり近場のドラッグストアに入る。


最近はドラッグストアにも弁当や食料品、お菓子やアイスなども販売している。

ちぃ、覚えた


海苔弁当とvtuberがコラボした可愛いラベルの炭酸飲料を手にレジに並ぶ。


混雑したレジにイライラしながら並んでいると、横棚にふと塗るサロンパスなる物が目に入り、つい手に取ってしまった。


へー、今時サロンパスは貼るものじゃなく塗るものなんだな


ここに来るときにすれ違った母子が目に浮かんだ。


だが、今の俺の手持ちはポケットでクシャクシャになった千円札しかない、弁当と飲み物を買ったら後は小さい小銭しか残らない。


俺は諦めて商品を棚に戻した───



「ただいま」

親父が夕方頃になってやっと帰ってきた。

俺は5ちゃんの無職共にレスバしかけてマウント煽りに忙しかった為、手だけで挨拶を返す。


どうせ昔のお偉い同僚達と高級料亭でノーパンしゃぶしゃぶでもしゃぶってきたんだろう、

お前の息子は広いリビングで一人添加物マシマシの冷えた偏食弁当だったっていうのによ、ケッ


親父はとても疲れた様子で、水を一杯飲むと倒れるように椅子にもたれかけた。


その時、テーブルに置いた物に気付いたようで

驚いた顔でこちらをジッと見つめてくる。


な、なんだよ、


「…その湿布、身体に塗るんだってさ

怪我させたからね…

打ち身だから、意味あるか分からんけど」


「うむ、打ち身…切り傷…擦過傷…

様々な外的裂傷、傷に効くはずもない


しかし、息子の好意を無碍にする、

これも親子の健全な関係とは言い難い


暴力も喰らう

好意も喰らう


両方を親子のコミュニケーションと感じ──

愛を受け止める度胸こそが親子には肝要だ」



ヤバい…泣きそうだよ


親父ィ、……悪いんだけど今日洗い物やってくんね?

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