第4話 約束
この村で僕が住んでいたのは、親戚の家。
ありきたりといえば、ありきたりだが、
その親戚は、既に他界している。
家は、すでに更地になっていた。
「ねえ、高台行ってみない?」
五月さんから、そう言われる。
僕は、軽くうなずいた。
「ねえ、覚えてない」
「何を?」
「ここでの、君と私との想い出」
僕は首を横に振る。
本当は覚えている。
でも、それを口にするのは恥ずかしい気がした。
「そう、答えると思った」
五月さんも、わかってくれたようだ。
「この村の時間は、もうじき止まるんだね」
「ああ」
「いつまでも、このままなんだね」
「うん」
ふたりで、村を見下ろす。
もう、村人は程んどいない。
もう、この村を見ることは出来ない。
潜らない限り・・・
「五月さんは、どうするの?」
「私は、しばらくは親戚のところに行くかな」
「親戚って・・・」
そこからは、踏み越えてはならない一線。
「今日、泊っていかない?」
「でも、ご迷惑じゃ・・・」
「気にしないで。両親も弟も、先に引っ越したから」
「なら、どうして五月さんは・・・」
「言ったでしょ?君とこの村を見ておきたかったからって・・・」
しばらくして、五月さんが言う。
「忘れないでね・・・この村を・・・」
翌日。
僕はこの村を去った。
もう、戻ってくることの出来ない村を・・・
人生において、過ぎたことはダムのように水の底に沈む。
思い出すことは出来るが、元には戻れない。
帰りの車中で、僕は思う。
「となり、いいですか?」
若い女性が、声をかけてくる。
「どうぞ」
女性は、おじきをして、僕の横に腰を下ろした。
「あなたも、あの村へ・・・」
「ええ。一時期住んでいたので、最後に見ておきたくて」
「私もです。偶然ですね」
「ええ」
想い出の地へ・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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