人混みの恐怖
精神病院の診察室に母と一緒に通され医者と向き合うこととなった私は、担当となった先生のことがどうにも信用できないでいた。その先生はどうも人の話を途中で遮ってまで話をしており、私のことなんて聞いてない上辺だけの薄っぺらい人なのではないかと思ってしまった。精神科の医者をしている方々には大変申し訳ないが、それが私のその担当医への印象だった。そして、今までのことを大まかに話したが、どうしても母の前で父のことを言う気にはなれなかった。言ってしまえば楽にはなったのだろうが、それではまるで私の今の状態は父のせいだと言っているように思えてしまい、長年一緒にいる母を悲しませたくはなかった。そういったこともあり初めての精神病院はあまりいいものではなかった。
それから私は毎週のように通院を始めた。母の力を借りながらではあるが、毎週火曜日には病院に向かった。母もその日は社長と話して会社を休み、一緒に同行してくれていた。母が働いていたのは小さな町工場だったので、上の人とも話しやすかったのだろう。何より、病院を紹介してくれたのは母の会社の社長だったのだから。
通院を始めてから私は知ったことがある。病院がある隣市に行くのには電車か車で行くのが一番手っ取り早いのだが、隣市の駅は実家の最寄り駅よりも大きく人が多かった。そのことが私には耐えられなかった。私は降りた駅の人の多さを見て息苦しくなり、すぐにでも引き返したいと思っていた。母はそんな私を見て、駅から外へ連れ出してくれました。そして、駅前にあるハンバーガーで有名なチェーン店に、二人で避難するような形で入りました。そこで食べていなかった朝ごはんを食べながら、少しずつ気持ちを落ち着けていった。ハンバーガーを食べながら私はとあることを思い出していた。
「パニック障害」
この障害は突然、よくわからない不安や動悸、めまい、吐き気、震え等に襲われる発作が始まり、それが何度も再発する障害のこと。所謂、繰り返される悪夢のような感じだ。そして、鬱病を発症しやすいのだとか。これは逆もあり得ることではあるそうだ。鬱病について調べていた時にこちらのことも気になって調べていたが、私が発症しているとは思っていなかった。いや、多分発症していると信じたくはなかったんだろう。当時の私も、鬱病やパニック障害を併発しているとは思っていなかった。
だがこの時の私は、人混みを見るだけでも不安になり、息苦しくなり、手が震えてもいた。人混みだけでなく、電車の中でも同じことが起きていた。
「他人が怖い」
その理由だけで中学を卒業する頃から、少しずつ大勢の人が集まる場所への外出を避けていた。昔は一人でも様々なところへと出掛けていたのだが、通院が始まるころには無くなっていた。これを書いている今はもう自分で出掛けられるようになったが、未だに人目が怖いかと言われれば怖いものだ。
そういったこともあり最初は通院することすら億劫だった。だが、母と一緒に行ったり、人が多い通勤時間帯を避けたりと工夫してどうにか通院していた。だが、どうしても担当医に対する不信感は消えないもので、受診するたびにそれは増えていった。
その後、私は通院するのを辞めた。
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