第24話 報告2
「・・・・と、言う状況ではありました。これは我々、と言いますか、直接ターゲットと相対した隊員からの感想ではあるのですが・・・・・・・今の装備では真面に戦うのは難しいとのことです。一番は実弾が効かないことがあげられますが、それ以外で高出力の電磁武装を動かす為のバッテリーパックの重量が足かせとなり、今回の様な獣タイプの特殊害獣にはついていけないとのことです」
「今回の装備は、12.7mmライフルと74式7.62mm小銃でしたか?」
皆川の報告にまたも飛田が質問をする。
「はい。小銃は体毛を貫通するまでには至らずあくまでも牽制用としてしか効果はありませんでした」
「ナナヨンの歩兵用に改造銃ですよね? それでもダメとは恐れ入るよ」
「そこに関しましては我々も目を疑いました。まさか正面から弾かれるとは、想定はされていましたが実際起こるとその衝撃は凄まじいですね」
「そうでしょうね。生物が持つ細胞の強度域を明らかに超えていますからね」
生物学者の片倉が飽きれたとばかりに肩を竦める。
「その化け物一体逃してますが、これに関してはうちとの合同捜査というかたちでしょうか?」
警視庁副総監の後藤が顔の前で手を組み合わせて難しそうな顔をしながら口を開いた。
「はい、それでお願いしたく思います。逃げた一体は右目を含め複数の負傷を負ってはいますが、正直致命傷とまでは至っていませんでした。動きが悪くなっているという報告もありませんので、実際視界に難はあれどそれがワーウルフにとって然程影響あるものでは無いのかもしれません」
「なるほど、脅威度が高い手負いの獣ですか。厄介ですなそれは、警察としては聞き込みや関連事件からの絞り込みになるでしょうが、正直、直ぐに見つかるとは思えませんけど」
「先手を打ったのに逃がしたのは大きな痛手ですね」
後藤の後に片倉が続く。切れ長の細い目を更に細めた片倉は如何にも神経質そうな面持ちである。
勝手なことを、と片倉の言い分に人知れず皆川が息を零す。言うは易し行うは難し、それが如何に困難な事だったかは現場に出たものしか分からない事だと分かっていても、そう言われてしまえば腹が立つというものだ。
「警察の方で採取した体毛のサンプルで相手の特徴は分かっていたのでしょうに、どうして効きもしない武装をしたのかしら?」
「そこに関しましては技術室でも恐らく弾丸は通らないだろうとは予測しておりました。今回の戦場が市街地に近い事や工場内であった事が本作戦での武器選定での大きな基準となっております。まぁ正直時間的にそれ以上の武器使用許可が下りなかったというのもあるのですが、ただそこを踏まえましてもこれ以上の威力がある火器は使用するには問題が生じてしまうでしょうから、この短時間では実際この辺りが最善でしょうな」
「そうですか。武器に関しましてはわたくしも専門外ですので。ところでそれの死体がまだこちらに回ってこないのですが、何時になったら来るのかしら?」
「ああ、それは」
陸上幕僚長の前田が静かに口を開く。
「一体に関しては明日にでもラボにお送りいたします。もう一体は当方の技術班からの要望でこちらで解剖、研究をさせていただきたいと思っていますのでそこはご了承ください」
片倉は2体とも欲しかったのか面白くなさそうに「そう」とだけ答えた。その様子に皆川は研究者はどこも一緒かと苦笑いをひっそりと浮かべる。
「今回確認されているのは3体のみですか?」
「実際に遭遇したのは3体ではありますが、それで全てかどうかは未確定です」
後藤の質問に皆川が眼尻にしわを寄せ答える。
ここに関しては皆川も危惧している部分ではある。あの場所にいたのが全てとは限らないし、他にもいる可能性はかなり高いとも思っている。纏まって寝ていることからある程度群れる習性はあるのかもしれないが、あくまでも可能性の話でしかない。
逃した1体もそうだが、他の個体がまた行動を起こせば相当な数の被害者が出ることになるだろうし、今回の殲滅作戦の厳しい現状からそう簡単には片付きそうにも無い。
部下を1人重症においこまれた皆川はそれを思うと厳しい表情になる。
「報道規制はどうなっていますか?何人か犠牲者が出ているのでしょう」
「表に出てしまったものは模倣犯を装った悪戯で処理はしたのだが、場所が場所だっただけに噂がかなり流れてしまったようですな。報道機関に対しては従来通り、てところでしょうか」
「それももう限界でしょうな。ただ今回は不発弾処理と銘をうっては置きましたが」
「・・・・・・・」
この害獣に関しては国民には一切知らせていない。今迄も人目のつかない場所でしか遭遇してこなかったため、国民感情を考え内密に処理してきた。だがそれも何時までも続くとはここに居る誰もが思っていない。
「みなさん大体よろしいでしょうか?」
そんな重くしくなる会議室内の空気を前田が強引に引き戻す。他に意見質問が無いか前田見渡すが誰からも反応は返ってこないことでここは終わりと区切りをつけた。
「それでは皆川二等陸尉は以上で結構です。ご苦労さまでした」
「はっ。失礼いたします」
皆川が敬礼後執務室を出ていくと、飛田が椅子に凭れかかり、
「結果的に武器が無いって話ですかね?」
と、持っていた資料をテーブルに置きながら頭を掻きむしる。
「そうなりますな。既存の人間用の兵器では対応が難しいのは今に始まった事ではないのですが、専用武器は重量という問題がどうしても付きまとうのですよ。前回殲滅した小鬼のような物でしたら十分に効くのですが・・・・今回の様に硬くて速い相手となると難しいですね。確か三橋さんの所で開発委託していたものはまだ実戦投入はできないのでしょうか?」
昨日からこれの対応に追われ殆ど寝ていない前田は目頭を指で押さえる。
「まだですね。正直あと半年はみていただきたい」
「明石先生の所は?」
「わしのか? 出せなくはないが、まだデータ取りしたい事が多いのでな、出したくないと言うのが本音じゃの」
「今何人使えそうなのがいます?」
「即戦力としては二人かのう。下手に出して潰されては叶わないんで出すのは装備が整ってからにしてほしいな」
「はぁそうですか。分かりました。今回は既存のまま何とかやってみます。残りの人狼一体の殲滅、捜査は警察庁に協力をお願いして、対応は特対に取ってもらいます。では個別の案件に関しましては事務方を通してお伝えいたします。それでは本日はここまでといたしましょう。お疲れ様でした」
前田の締めにメンバー達はぞろぞろと部屋を出ていく。一人残った前田は椅子にドカッと座ると一人呟くのだった。
「あれらが現れて14年も経つと言うのに未だ真面な装備すらそろえられんとは。銃弾が効かない相手に戦えとは随分酷な話だ。国民を守るのが義務とは言えど、流石に納得いかないものだな」
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