第23話 報告
防衛省特殊災害対策室。
それは防衛省内に設立された組織である。
その指揮権は統合幕僚長に一任されておりながらも自衛隊とはまた別な組織としての扱となっている。
その主要な構成員には防衛省の官僚と上級自衛官は当然として警察庁の刑事局と情報通信局の局長クラスも入っている。
だがそれは公的な職員だけの集まりでは無かった。
民間企業の研究員や大学教授、弁護士にマスメディアと外部の有識者も多く在籍していた。
この組織自体は8年前に発足された。
主な役割としては突如現れた脅威に対する研究および対処で、それにまつわる防衛や駆除、報道に対しての情報規制や隠蔽工作などその役割は限定的な場面ではあるが内容は多岐にわたる。
そしてその脅威と言うのは先般【特対】が相対した特殊害獣、俗にいう化物どもである。
そんな人類の脅威となる化物から国民を守るために集められたエキスパートの意思決定機関、その一部は次の面々である。
陸上自衛隊幕僚長 前田清四郎(54)
防衛大卒で入隊時は陸上自衛隊普通科に配属。後幹部レンジャー過程終了後数々の災害派遣小隊長を経験という、実戦経験豊富な叩き上げのエリート。
警視庁副総監 後藤剛道(62)
東京第一大学卒のキャリア組であるが、本人の希望により都内の所轄に配属。10年以上現場を経験した後警視庁に栄転配属。叩き上げの現場主義者としてノンキャリアからの支持も高い。
東京第一大学 生物学教授 片倉京子(48)
日本最高峰の大学である東京第一大学の教授。遺伝子学の権威で突然変異遺伝子研究においては右に出るものはいないと世界から注目を集めている。
株式会社三橋総合研究所 開発部疑似生体開発課主任 飛田浩二(45)
日本の電気機器から軍事用品まで幅広く最先端技術を提供している三橋グループの技術研究グループリーダー。主にロボット工学を得意としている。
大阪拓尚大学 脳科学・量子力学教授 明石藤十郎(68)
脳の機能研究と量子力学からの超常現象の解明が主な研究テーマ。同方面の教授たちからは変人として有名だ。
それ以外にも多くいるのだが、今日に関してはこの面々が集まり話し合いがもたれていた。
まず口火を切ったのは幕僚長の前田であった。
「このような急な招集にお忙しい中集まっていただきありがとうございます。今回皆さんにお集まりいただいたのは、昨日遂行されましたワーウルフ殲滅【穴ぐらの鼠】作戦についての報告と、今後の戦力強化について意見を出しいただく為です。つきましては、先ず本作戦の指揮を執りました皆川二等陸尉より作戦の内容と結果を報告させていただきます。尚、今回は軍事戦術の話しになりますので外部干渉を主とする要員の方々はお呼びしておりませんのでその趣旨をご理解の上ご了承下さい」
執務室の大きな楕円形の円卓に取り囲むように座っているメンバーの面々は、前面の大型スクリーンの前に立つ皆川に視線を一斉に向ける。
「陸上自衛隊第一師団所属皆川です。宜しくお願い致します。本作戦の概要からご説明させていただきます。本作戦は警視庁要請のもと、緊急性が高いものと判断、特殊災害対策法第2条24項に基づき対策本部の指揮外とし、陸上自衛隊特殊災害害獣特別対策班が策戦の立案及び実行に移したものになります。今回のターゲットとなりましたのは人狼、狼と人の混ざりあった哺乳類型の特殊害獣で、極めて凶暴性が高く、人間を餌として狩りを行う第2級クラスの害獣と判断いたしました。性質としては現時点では技術班の推測でしかありませんが夜行性の動物と類似している可能性が高く、潜伏先が判明した時点から次の活動時間と思われる夜までに殲滅もしくは確保を目的として策案されました。本案件が同法の緊急時における臨時指揮権代行とした経緯に関しましては、事前にターゲットの潜伏先が目撃情報により判明していた為、好機を逃す訳にはいかず早急な対応が必要と判断に至った点と、活性化前の非活動時間内での行動が最善であると判断したためであります」
皆川が資料を見ながら今回の作戦概要を話していると、民間から派遣されてきている三橋総合研究所の飛田が手を上げる。
「皆川さん少しよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「今回の害獣が夜行性だとした根拠って何かあるのですか?」
「自分も科学的な確証があるかどうかまでは解らないのですが、陸上自衛隊特殊災害害獣特別対策技術室長川崎玲子女史の判断によるものではあります。これはあくまでも私見として聞いていただきたいのですが、人狼に関しましては今回ので2例目となりますので、状況判断によるものが大きいのではないでしょうか。もし詳しく知りたいと言う事でしたら、川島室長から報告書を上げてもらう様には致しますが?」
「いえ、そこまでは結構ですよ。異例の速さで実戦されていたので、何か事前に解明していたのがあるのかと思っただけですから。私も一研究員として興味があっただけです。それと、今回のは前回取り逃がした奴と同一体と考えてよろしいのですか?」
「これも確証はありませんが、恐らくはその可能性が高いと思われます。ただ、前回取り逃がしてから今回発見されるまで期間が大分開いていますが、その間の目撃情報も関連事件の発生も無い事を考えますと、確証は持てないですが」
「分かりました」
「よろしいでしょうか?では次に作戦の内容をご説明いたします。今回戦場になりましたのが元鍍金工場であった廃工場です。詳細な地図と見取り図はこちらの画面をご覧ください」
皆川の後ろにあるスクリーンに建物の平面図が映し出される。ポインターを使いながら作戦で取った行動やターゲットの行動や戦況を詳細に説明していく皆川。それを聞きながら人狼の桁違いな能力に難しい顔になっていく面々。一頻り説明が終わったところで何人かが深い溜息を吐いていた。
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