第17話 めぐみの男気

「おはよう愛理」


 【工藤めぐみ】が教室に入ってきた親しい友人ににこやかな笑顔を浮かべ軽く手を上げる。

 入ってきたのは【田口愛理】。愛理とは小学校からの付き合いでそれこそ出会った当初から気が合う友人だ。

 性格は全く違う、考え方も趣味も。

 だがそれが返ってめぐみには心地良く感じた。自分とここまで違う者だからこそ癖の強い自分をこれほどまでに受け止めてくれるのだろう。


「・・・・うん、おはよう・・・・」


 だが返ってきた友人の声音は明らかに普段と全く違うくぐもったものだった。

 それを耳にした途端、笑顔だっためぐみの眉は顰められていた。

 友人だからとか関係なしに分かるほど様子がおかしな愛理に怪訝に目を細めた。


そんな訝しむ友人に気付きもせず愛理は自分の席へと向かう。いつもの日課となっている挨拶行脚も無い。愛理は自分の席へと静かに座った。


 クラスのマスコットの異変は直ぐに教室全体に影を落とす。

 愛理のどんよりとした空気に教室全体が静かになっていた。無言の視線だけが愛理へと向かっていく。


「どうした?元気ないな」

「・・・・うん?」


 誰もが声を掛けづらいと思っている中、親友でもあるめぐみは愛理の前の椅子にまたがって腰を下ろすと、心配げに愛理の顔を覗き込んだ。そして単刀直入に問いかける。

 力の無い愛想笑いを浮かべた愛理が、誤魔化しきれていない誤魔化しに首を少しだけ傾けた。

 ただめぐみは愛理の不調の原因が何であるのかある程度察してはいる。伊達に何年も付き合ってはいない。


「そういや眼鏡はどうした?いつも一緒なのに」

「ケン君は・・・・今日は・・・・お休みかな?!」


 めぐみは悪戯の策略は施すが回りくどいのは好きではない。思い当たる原因をダイレクトにぶつける。

 案の定、愛理は一層気落ちしたように肩と視線を落し煮え切らない返答をしてきた。


「・・・・・・・なんだか釈然としない態度だな?眼鏡と何かあったのか?」

「・・・・・・・・」

「珍しく喧嘩でもしたのか?でもあいつ相手では口喧嘩にもならなさそうだな。いつも愛理の言う事は素直に聞いてるし逆らった事なんて無さそうだもんな。それとも昨日置いてけぼり喰らって拗ねちまったのか?」

「ごめんね、ありがとう・・・・そんなんじゃないから大丈夫。ちょっと心配事があるだけだから・・・・」


 賢志の事を聞かれ僅かに身を固くするも、愛理は愛想笑いを浮かべたまま申し訳なさそうに礼を述べる。そんな友人にめぐみは短く息を吐くと、これ以上は何も言わないと悟ったのか「何かあったらいいな」と自分の席へと戻ることにした。


 釈然としないが流石のめぐみも今この場で根掘り葉掘りと訊くことは出来ないと諦める。渋々ながら席に戻ると猪俣昌平が待っていたかのように寄ってきた。


「工藤さん。田口さん元気無いみたいだけど、何かあったの?」

「さぁ、何かあったんだろうけど・・・・」

「何も言わない?」

「結構押し込めるタイプだからな、愛理は。聞いても何も言わないだろうさ」

「そう・・・・昨日の帰りから何かおかしかったよね?帰ってから何かあったのかな?」

「じゃねーの。ま、帰ってからだと眼鏡絡みしか無いだろうけどな」

「眼鏡?ああ、皇の事?幼馴染だったっけ、二人」

「ああ、それこそ生まれた時から一緒だって聞いたぞ」


 めぐみはニヤリと昌平を見る。昌平はその視線の意味が分かったのか苦笑いを浮かべ「そうなんだ」と軽く答えた。


「まぁ、昼休みにでもまた話してみんよ!」


 反応の薄い昌平にめぐみは詰まらなさそうに頬杖を突き、愛理を一度見た後に鼻でフンと笑う。


「何か工藤さんて・・・・男気感じるよね」


 そんなめぐみに昌平は言い辛そうにしながらも微妙な賛辞を贈る。


「はぁ、何だそりゃ!!」


 めぐみは心底嫌そうに眉をしかめた。

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