第14話 ワーウルフ殲滅戦5

 ふざけるな、誰もがそう思った。


 浅間の放った射線は完ぺきと言えた。

 初弾で頭部を狙い避けられた事を念頭に、浅間は避け難い体の中心部、心臓付近を目掛けて撃っていた。

 体勢だって崩している。視界も半分を奪い、頭を揺らして脳震盪も起こさせたはずだった。


 避けられるはずが無い、そう確信できる一射だった。


 だが人狼ワーウルフは避けた・・・・・・・いや爪で弾丸を弾いたのだ。


 そんな事可能なのか、その驚愕にさすがの村瀬も咄嗟に動くことが出来なかった。そしてそれは他の隊員たちも同様、組織の動きがピタリと止まった。


 それがこの戦いの分かれ目となった。


 ここで誰かが突撃していれば、あるいは仕留めきれたかもしれない。

 弾丸を弾き飛ばしてはいたが人狼ワーウルフは明らかに弱っていた。

 しかしこの場でそれをなせるものは一人もいなかった。



 人狼ワーウルフが跳躍した。そして8メートルはあろうかと言う天井にはしるホイストクレーンの梁の上へと跳び乗った。

 片目となった人狼ワーウルフの金眼だけがやけに光って見えた。恨めしい、隠す気の無い強い感情を宿した歪んだ目で村瀬達を見下ろす。


 その眼に村瀬はゾッとした。


 それまで恐怖しても怯えは無かった村瀬だが、今は見上げる相手に酷く怯えていた。


 手が震える。


 息が苦しい。


 闇に浮かぶ金色の瞳はあまりにも禍々しく、そして強い怨念の様なものを感じた。


 その金眼が村瀬からそれて上を見上げる。

 そこにあるのは朽ちて穴が開いた天井だった。

 


(っ、拙い!!)



 村瀬は即座に悟った。

 それは村瀬が考え得るうえでの最も悪い結末だった。


 村瀬は焦りを露に、小銃を構える。


「奴をあそこから。撃て、ライフルで撃て」


 叫ぶよりも先に人狼ワーウルフへと無駄だと分かっている銃を放つ。


(駄目だ。奴だけは!!)


 人狼ワーウルフは確実に人類にとって脅威の存在だった。これまでにも母娘含め六人もの犠牲者を出し、自分たちもかなりの痛手を被っている。

 そして今相対している人狼ワーウルフ、これはどの人狼ワーウルフよりも危険だと村瀬の直感がざわついている。


(あの目だ、奴は人間に深い怒りを抱いている)


 人間を酷く敵視した化物、それが世に放たれる。それは如何程の危険な存在となるのか計り知れない。

 今まではあくまでも食事として人を襲っていたが、これからは純粋な悪意を持って人を殺す恐れすらある。


 村瀬は感じていた。この人狼ワーウルフだけは他とどこか違う存在であることを。知性が高くそして何より強いと言う事を。


 それが世に放たれる。


 村瀬はそれだけは絶対に阻止したかった。


(銃では抑えきれない)


 だがやはり小銃では効果が薄い。既に人狼ワーウルフはM4A1カービンを危険視していない。これでは狙撃する前に人狼ワーウルフはここから脱出してしまうだろう。


(だったらこの体で)


 それならば自分が直接、そう覚悟を決めた・・・・・・だが。


「・・・・・・なっ、クソ!!動け、動けよ」


 だが肝心な時にパワードスーツが動かない。バッテリーが切れたのだ。

 兎モードでSVE超高振動電磁ナイフを多用したため想定よりもずっと早く稼働限界が来てしまっていた。


 自分が駄目なら誰か、そう村瀬が思った時には時すでに遅く。

 マテリアルライフルを構えると同時に天井の穴から人狼ワーウルフがするりと外へと飛び出してしまっていた。


「くそぉ!! センター、ターゲットが一体外に出た至急対応されたし」


 村瀬が無線で報告し、そして唇を噛んだ。

 人狼ワーウルフの一体を逃してしまった自分の失態に、村瀬は地面を殴りつけた。






 結果的にいた人狼ワーウルフの内二体は殲滅し、一体は防衛線で押さえることが出来ず、そのまま夜の闇に姿をくらませてしまった。


 陸上自衛隊側の被害は特対の隊員が四名負傷、内重傷者は二名であった。

 オペレーション【穴ぐらの犬】は苦い結果に終わった。

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