第13話 ワーウルフ殲滅戦4

 特殊災害害獣特別対策班は狡猾な化物に恐怖した。知性がある猛獣はそれだけで恐ろしい強敵となりえる。

 恐怖の感情は時に命を繋ぐうえで必要なシグナルとなる。本能が生き残るために与えた感情を彼らは決して馬鹿にしたりはしない。


 だが彼らは恐怖しても決して怯えたりはしない。


 村瀬の号令に特対隊員たちは一斉に飛び出した。


 得体のしれない化物に対して決死の攻撃を仕掛けるために。そこには躊躇いは一切無い。


 素早い動きに対して組織立って相対する特対の隊員たち。工場内を飛びまわる人狼ワーウルフ、その着地点で待ち構えたブラボー班の二人が小銃で牽制を入れつつ跳び上がる。

 人狼ワーウルフが振り返り迎え撃とうと顎を開いた。だがそれは彼らの誘い。

 囮役となる隊員は小銃を縦に構えて顎を押さえ込む。その隙にもう一人が人狼ワーウルフの横っ面目掛けSVE超高振動電磁ナイフを突き込んだ。


 SVE超高振動電磁ナイフは僅かに頬を切っただけだった。


 金色の目がSVE超高振動電磁ナイフを捉えるや否や人狼ワーウルフは小銃を加え隊員ごと首を振る。


「ぐぉ」「くっ」


 隊員同士でぶつかり合い地面に落下。

 だが人狼ワーウルフの追撃は無い。金色の目は次なる敵を確りと映し出していた。


 人狼ワーウルフが首を振ったタイミングを見計らって仕掛ける者が居た。


 紅一点の片岡だ。


 片岡が飛び込むのに合わせ人狼ワーウルフは爪を立てた腕を振り上げる。体勢は不十分であるがであればそれでも十分だった。


 だがその攻撃はするりと抜けていった。

 片岡が人狼ワーウルフの剛腕のふりを片腕でいなし逸らしていた。


 片岡は女性のみでありながら、この部隊で誰よりも近接戦闘が強い格闘のエキスパートだ。幼少より鍛え上げた格闘技の技術は例え獣の化物であっても十二分に通用した。


「うらぁぁぁぁ!」


 片岡は躱しついでに身を回すと人狼ワーウルフの脇腹にパワードスーツの出力を全開にした蹴りをお見舞いする。

 ドグっとくぐもった音を上げ人狼ワーウルフが真横へと吹っ飛ぶ。重厚な機械に胴体を衝突し床に転がった。


「死ねやワンコ!!」


 そこに上空から女生徒は思えない罵倒を叫んだ片岡が、SVE超高振動電磁ナイフを両手で構えて飛び降りる。

 しかしそれはすんでの所で人狼ワーウルフが横に跳んで躱されてしまった。そしてお返しとばかりに跳び戻ってきた人狼ワーウルフの体当たりを片岡が受ける。


「ぐっ」


 逆に飛ばされた片岡は衝突した手すりを拉げさせ、手すりの反対側へと倒れた。


 ドン!


 轟音が鳴るのと同時に人狼ワーウルフが大きく後ろに飛び退いた瞬間、人狼ワーウルフが居た付近の床が大きく抉れる。


 マテリアルライフルだ。


 接近戦で注意を惹き付けている間狙いを付けていたのだが、人狼ワーウルフはそれさえも躱して見せる。


 人狼ワーウルフは未だマテリアルライフルから決して目を離してはいなかった。


 だがその狙撃は彼らの連携の一つに過ぎないと人狼ワーウルフは気付いていなかった。


 人狼ワーウルフが飛び退いて先、そこで待ち構えていたのは村瀬だった。


 村瀬は必ずそこに人狼ワーウルフがくると分かっていた訳では無かった。ましてやここまでを計画して追い込んだという訳でも無い。ただそこにきっと敵が来るのだと確信に近い信頼のもと動いていた。


 村瀬が渾身にSVE超高振動電磁ナイフを突き出す。

 それは意外なほどぬるりと人狼ワーウルフの腰に刺さった。


「ゴァアアァァァァァ!!!!!」


 激痛が人狼ワーウルフを叫ばせた。身をよじり暴れる。

 村瀬もまた腰にしがみつき振り回される。そしてSVE超高振動電磁ナイフが折れて地面に転がされた。


 ここは絶対的な勝機だった。


 村瀬は逃すまいと直ぐに起き上がるが、その前に一人人狼ワーウルフへと突進するものが。


「さっきは良くもやってくれたなワンコぉ!」


 額から血を流した片岡がM4A1カービンのマガジンを換装しながら人狼ワーウルフへと突っ込む。眼を血走らせた人狼ワーウルフが片岡に全霊の力を爪を振るった。


 青光が弧を描き人狼ワーウルフの頭上に軌跡を描く。

 片岡が宙返りで爪を跳び避けると、片岡は人狼ワーウルフの背後から首に足を絡め、そして銃口を金色の目に押し当てるとその引き金を引いた。


 鮮血が飛び散った。

 耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げ人狼ワーウルフが目を押さえて地面をのたうち回る。


 目を打ち抜かれた人狼ワーウルフ。だがそれでも死なない。

 とんだ化物だ、そう感嘆ともとれる皮肉を内心宣いながら村瀬は走り出す。死角となった潰れた左目から迫り、大きく振りかぶった拳を鼻っ面へと叩き込んだ。


「やれぇ!」


 ここだ、決め所を見た村瀬が浅間に止めを刺せと声を上げた。


 マテリアルライフルが火を吹く。


 弾丸は六条に刻まれたライフリングによって高速の螺旋を纏い、秒速835mの超速で得物を穿つ。音を聞いたときには既に弾丸は通り抜け風穴を開ける事だろう。音速を遥かに超える弾丸は瞬きの間よりも速く獲物に到達する。


 だからそれを見た訳では無い。


 いや実際見る前にそう感じとった。


 一流のスナイパーは獲物をしとめた際その感触を離れたところで感じるという。


 浅間もまた一流のスナイパーであった。


 だからこそ分かった。分かってしまった。




 この弾丸がと言う事を。

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