第11話 ワーウルフ殲滅戦2
「化物が・・・・」
まるで空気自体が震撼したかのようだった。
思わず村瀬は耳を塞ぎたくなるのをぐっとこらえる。
天井から漏れ落ちる僅かばかりの灯りがそれをゆっくりと照らし出す。人の頭程度なら丸呑みしそうな裂けた大きな長い口先は、恐ろしくなるほどの無数の鋭い牙で埋め尽くされている。
こうして見上げている所為か、その体はあまりにも大きくそして逞しい。それはどちらかと言えば狼よりもトラに近く感じた。
怒りからか全身の毛を逆立たせ、鉄さえも引き裂きそうな巨大な爪を剥き出しに、その巨獣はあらん限りの存在をまざまざと隊員たちに見せつける。
そのあまりに凶悪な姿を目の当たりにして隊員たちは慄きに息を呑んだ。
「怯むなぁぁぁ!!撃ち殺せえぇ!!」
呑まれそうになる隊員たち、だがそれは村瀬の喝で一気に引き戻される。
気を引き締め直した隊員たちは、小銃を化物に向けて一斉に放った。
特殊作戦群の種装備として持つ銃は、コルトM4A1カービン。5.56mm口径のNATO弾で世界的に多用される軍用小銃だ。
閃光する火花を散らし火薬で熱せられた弾丸は赤線を描きながら
だがその世界的な軍用小銃はこの強靭な化物の前では力不足だった。
弾丸を浴びる
だがハッキリ言ってしまえばそれだけでしかない。
弾丸を受けても血の一滴も垂らさない化物。事前に聞かされていたとはいえこうして目の当たりにすれと、これまでも幾度となく人外と戦ってきた特対の隊員であっても驚愕を禁じ得なかった。
だがそれでも全くの無意味ではない。
仕留めるには力不足でも銃弾の猛攻は化物の動きを止めていた。
明確な外傷こそ見あたらないが銃弾の衝撃は腕を弾き、脚を崩し、体を躍らせている。
「射線確保しろ。味方には絶対あてるなよ。ライフル二射目急げ!」
目の前で蹲る人外の化け物に、突撃班の総隊長を務める村瀬は今のうちにと現状を確認に努めた。
相対している
「状況は!!」
近くにいた隊員に声を掛ける。
「一体は頭部を損壊。恐らく死んでいると思われます」
どうやら一体だけは仕留めたようだ。見ると床にぐったりと横たわる化物の周囲は血で溢れている。
本来であれば初撃のマテリアルライフルで終えたかったのだがな、そう悔やむ村瀬だったがそこまで悲観は無い。
(少なくともマテリアルライフルであれば
だがどうにも奇襲が失敗し浮足立ってしまっている。
村瀬は流れを変えるために自ら打って出る事にした。
「俺が足止めする。その間にライフルで仕留めろ」
村瀬はパワードスーツの出力を上げた。亀モードから兎モードへとスイッチを切り替える。
各部の疑似筋繊維へと繋がる筋が蒼白く発光する。右アームに取り付けられた超高振動ナイフが得物を求めて唸りを上げる。振動による空気が震えと放射熱で刀身の周りを蜃気楼のように歪ませる。
溜め込んだパワーを一気に解放させ地面を踏み込んだ。
蒼白い残光をなびかせ、外部骨格の可動部が軋みを上げる。
人間の持つ身体能力の限界を軽々と超え、異次元の加速で
文字通り一直線に跳ぶ村瀬。
右のアームに仕込まれた新装備の
だがその村瀬を
振り落とされる剛腕。その鋭さは巨躯からは想像も出来ないスピード。
事は一瞬、
完全に見えていた訳では無かった。ましてやその攻撃が来ると知っていた訳でも無い。
だが歴戦の戦士は張り詰める空気からそれを感じ読みとった。
村瀬は
「おおおぉぉぉ!」
「グ、ギャアァァア」
未だ慣れきれない過負荷の中村瀬の狙いは僅かにずれる。
まるで木の幹にナイフを突き立てたような気分だった。あまりの硬さに刃が止まりかける。村瀬は体重を乗せ強引に押し込む。
焦げ臭さが鼻腔を刺激する。
悲鳴を上げ
「浅間ぁ!」
村瀬が
放たれた一発の銃弾。
その瞬間、
アルファ分隊射撃手である浅間の放った、バレットM82A1マテリアルライフル。その威力は凶悪な化け物を吹き飛ばした。
「これでも生きているか化物よ」
村瀬に油断は無い。
むやみに近付くことは無く、村瀬が手を上げると再度銃声が響いた。
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