第19話 最低な告白

 綾辻あやつじが家を出て行っていなかったのは本当に良かった。

 あいつが居なくなったと思った時は本当に辛かったし、心穏やかじゃなくなった。

 こんなことになるぐらいなら、あいつのことをエロい目でしか見れなくなったことも、きっちり話しておくべきだったと思っていた。


 だけど——いざそうなると怖いものです。手の震えが止まりません。


 リビングで3人はソファーに座り、俺は正座。これから事の顛末の報告会が行われるところだ。


 ちなみに、3人はグルで、綾辻あやつじは一歩も家から出ていなかった。

 発案者は亜美先輩。

 亜美先輩も沙耶も、俺が綾辻を避けるようになっていたことを、気にしていたそうだ。


「さあ水嶋くん、洗いざらい話してもらおうかしら」


 ……これはね。本当にキツい。流石の俺も恥ずかしいですよ……はい。


「やっぱ話さないとダメですか?」

「本気で出ていっていいのなら、話さなくていいけど、それはあなたが決めて」


 うん……それは嫌だ。

 俺はもう、綾辻と離れたくない。


「分かった……話すよ。でも頼むからドン引きしないで欲しい」

「えっ! おみくんドン引きされるようなことしたの?」

「してねーよ!」

「これからするのよね、水嶋くん」

「しないです!」

「心配しないで、弘臣ひろおみ。これ以上ドン引きのしようがないから」

「それもそうね」

「そうだよね」


 ……頼むから俺の心、折れずにもう少しもってくれ。


「まあ、そう言うことよ、だから安心して話しなさい」


 ……これはもう、流石に話すしかないか。


「新井と初体験の話をしてたんだよ」

「「「初体験!」」」

「そしたら、急に里依紗りいさの事を妙に意識するようになって、里依紗のことをエロい目でしか見れなくなって、まともに顔を見れなくなったんだ」


「「「…………」」」


 3人とも黙ってジト目で俺を見つめた。

 そして長い沈黙が続いた。

 とても辛い沈黙だった。


「——まあ、想像以上にくだらない理由だったわね」


 沈黙を破ったのは綾辻だった。


「本当にくだらないね」「うん、くだらない」


 みんな一様に口を揃えてくだらないと言った。

 これでも、俺は真剣に悩んでいたんだけど。


弘臣ひろおみ……分かっていないようだから教えてあげるけど」


 え、何を?


「そういうのは、あたなだけが思ってるんじゃないってことよ」


 俺だけじゃない?

 ってことは綾辻あやつじも。


「俺の事をエロい目で見てたのか!?」

「いっぺん死んでみる?」

 

 綾辻に一気に距離を詰められ胸ぐらをつかまれ、まるで汚物でも見るかのような目で睨まれた。


「違うわよ、水嶋くん……綾辻さんが言いたいのはそれは、正常だってことよ」

「私だって、好きな人とキスしたり……そのね……おみくんのバカっ!」


 沙耶さやは自爆して俺にクッションを投げつけた。

 一瞬、俺の胸ぐらを掴んでいる綾辻に当たるかとおもったけど、綾辻はこともなげにクッションを避け、俺の顔面に見事に命中した。


「まあ、つまり水嶋くんは、綾辻さんのことをちゃんと彼女として意識しているわけだね」

「うん……おみくんの彼女は綾辻さんなんだね」


 複雑な表情を浮かべる亜美先輩と沙耶。


「いくら幼馴染だからって、これ以上、おみくんの恋の邪魔はしちゃいけないよね」

「そうね、私も先輩としてこれ以上干渉するのも違うわよね」


 亜美先輩……沙耶。


「「私たちは、この家から出ていったほうがいいのかもね……」」


 誰か1人を選ぶというのはこういう事だ。

 いつかこんな日が来る事は最初から分かっていた。


 確かに、俺は綾辻を性的対象として意識した。

 これは否めない事実だ。

 だけど、その前提が、新井と彼女とどうなんだ、綾辻とどうなんだという話をしていたからだ。


 仮にこれが亜美先輩や沙耶の話しだったら、俺は2人を意識していたんじゃないのか?


 だって、俺はその証拠に。


 2人が出ていくと聞いてから……胸が苦しくて、涙がとまらないのだから。


「……弘臣ひろおみ

「……おみくん」

「……水嶋くん」


「俺は、里依紗が居なくなったと思った時、目の前が真っ暗になった。里依紗にあんな態度をとった事を猛烈に後悔した。

 ……だから俺は里依紗の事が好きなんだと思った」

弘臣ひろおみ


 俺は今から最低な事を言う。


「でも、それは亜美先輩も沙耶も同じだった。今、2人がこの家から出ていくって聞いて、里依紗が居なくなった時と同じ気持ちになった。胸がもやもやした。喪失感でいっぱいになった」

おみくん」

「水嶋くん」


 こんな事を言うのは許されることではない。


「俺は、恋愛経験なんてないし、里依紗に告白されるまで、恋なんて無縁なことだと思っていたし、人を好きになることだっていまいち良く分かっていない」


 だけど……この気持ちを胸にしまっておくのは無理だ。


「3人とも俺にとって大切な人だ。出ていって欲しくない」


 最低な告白だって事は理解している。いくら言葉を尽くしても俺が間違えているのは分かっている。


「恋とか愛とかそんな感情じゃないかもしれないし、これから、この中の誰か1人だけを好きになるかもしれない。

 もしかしたら、もっと他の誰かを好きになるかもしれない。

 でも俺は」


 告白した。


「俺は、3人とも大好きだ」


 3人とも黙ったままだ。

 流石に都合が良すぎる告白だ。

 3人とも愛想を尽かして出ていくかもしれない。


 それでも、この気持ちを、しまっておくことが出来なかった。


「勝手だよおみくん」

沙耶さや……」

「でも私も、勝手に押しかけちゃったしね、これでおあいこかな」


 え……。


「わがままね水嶋くん」

「亜美先輩……」

「でもあなたをコンクールに連れていくのは私のわがままよ。そんなわがままを言うなら、私のわがままにも、付き合ってよ」


 ……まさか。


「随分最低な告白ね」

「里依紗……」

「でも、1ミクロンもあなたのことを好きじゃないわって言った私も、随分最低な告白をしたわ——最低な告白同士も、いいんじゃない?」


 皆んな俺を許してくれるのか。


「まあ、そんなわけだから弘臣ひろおみ

「「「これからもよろしく!」」」


 理由は三者三様だ。

 俺の身勝手に付き合ってくれる沙耶。

 俺のわがままに付き合ってくれる亜美先輩。

 そして最低な告白に対して最低な告白で応えた、俺と里依紗。


 まあ、普通に考えたら俺たちの同棲は破綻するし、今2人が出ていった方が幸せな未来が待っているのかもしれない。


 でも、今はもう少しこの3人と一緒にくらして、ラッキースケベ を味わいたい!


 これが俺の本当の最低な告白だ!

 





 ————


 【あとがき】

 

 逢坂です。

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 連載開始時に近況ノートで触れていたのですが、本作は中編で考えていて、本来設定していた完結はここと思っておりました。


 ですが里依紗と弘臣の本当の関係や里依紗と亜美の関係などフラグ回収をまだ行なっていませんので、完結とはせず、のんびりと続きを書いていこうかと思っています。

 音無凛もまだ登場していないですしね!


 ifでそれそれのヒロインルートとかも面白いかな?

 なんて妄想も膨らんでおります。

 でも、まずは里依紗視点、もしくは亜美先輩視点で未回収のフラグを……。

 兎にも角にも、一旦の区切りです。

 応援ありがとうございました!

 

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通学路で高嶺の花に告られて同棲することになって幼馴染に話したら、とんでもない事になってしまった件 逢坂こひる @minaiosaka

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