第16話 葛藤
3人に散々説教を受けたあと、俺は
亜美先輩が3人で話がしたいそうだ。
何を話すのか気になったので、最初は防音室の前でしれっと聞き耳を立てていたのだが『女の子の大切な話しを盗み聞きするなんてモテないよ』とか言われて無理やり防音室に押し込められた。
防音室だから、いくら聞き耳をたてても、何も聞こえやしない。この隙に3人の悪口でも叫んで憂さ晴らしでもしようと思ったが、やめておいた。
万が一を考えると、リスクしかない。
ていうか、今の状況はアレだが、一人一人に不満があるわけではないのだ。
まあ、それはいい。
よくないけどいい。
それよりもだ。
咄嗟のことで、聞くのを忘れたが、亜美先輩が俺のことを『
近しい人間はみんな、
でも昔、誰かにずっと弘くんと呼ばれていたような気がするんだけど、その肝心な誰かを思い出せない。
まあ、折角この部屋に来たので、ギターの練習だけでなくマシンを起動し、メールを確認した。
昨日開いていないだけだったのに随分とメールが溜まっていた。
ちがうな、週末開いていなかったから実質三日分か。
つーか、案件の依頼もちらほら混じっている。
実は俺、
名前の由来は臣の反対読みだ。
もちろん親の援助はあるが、俺が3LDKで分不相応な暮らしができるのもそのためだ。
今日は……いい感じの依頼はないな。
何か、変に名前が売れてしまって、依頼と呼べないような依頼が混ざっているのがたまにキズだ。
うん?
なんだこのメール。
『je vais vous rencontrer
日付は三日前。
RiOは界隈では有名な女性シンガーで俺とも絡みのある人物だ。
なんて読むんだ?
とりあえず『日本語でよろ』と返しておいた。
自宅では昨日触らなかっただけだけど、ギターを弾くのも随分久しぶりな気がする。
おかしなものだ。
これは楽器全般かもしれないけど、ギターは1日でも練習をさぼると、一週間は実力が退化してしまう。
昨日部室で練習したけど、夜練と朝練をサボったから、随分腕が怠けていた。
そう思うと、確かに亜美先輩の言う通り、ここで亜美先輩にレッスンしてもらえるのは、俺にとって大きなことかもしれない。
亜美先輩は高校生ながら、色んなコンクールで実績を残している実力派だ。
俺の憧れの
だから……純粋に音楽のことだけを考えるのなら、環境としては申し分ないのだが。
ていうか……なんで皆んないっぺんにまとめてくるんだよ。
ひとりひとり来てくれてたら、こんなにも頭を悩ませずに済んだのに。
「…………」
ひとりひとりか……もし、あの日現れたのが、綾辻じゃなくて、
俺は受け入れていたのか?
幼馴染だし、沙耶の性格もあるし、きっと俺は本気で受け合わなかったと思う。
だけど
じゃあ、亜美先輩ならどうだ。
合宿を盾にこられたら、拒否する理由はなかっただろうな。
それに、ぶっちゃけ亜美先輩には憧れていたし、なし崩し的に受け入れていたことは確かだろう。
まあ、
ていうか、俺は一体何がしたいのだろう。
本気で嫌なら、綾辻のことも沙耶のことも亜美先輩のことも……亜美先輩は無理か。
2人より一枚上手な感じがするもんな。
じゃない!
話を逸らすな俺。
まあ、相手がどう出るかは置いといて、断ることは出来たはずだ。
だが、実際の俺はどうだ?
下心に打ち勝つことができず、曖昧にみんなを受け入れて、自分では収集をつけられなくなって——最低じゃないか。
「水嶋くん入るよ」
自分自身に打ちひしがれていたタイミングで亜美先輩が防音室に入ってきた。
「わおっ! 凄いねこの部屋……聞いていた話以上だね」
亜美先輩には何度かこの部屋のことを話したことがある。
まあ、話したというよりは憧れの先輩にちょっとでも良く見てもらいたくて自慢しただけってのが真相だ。
「エレキもあるんだね」
「ええ、まあ」
「水嶋くんはクラシックだけじゃないんだね」
クラシックも本気で頑張っているつもりだけど、趣味で始めた音源制作の方が評価を受けている感じだ。
「また、色々教えてね」
「あ、はい」
「こっち来てくれる? 話まとまったから」
話しがまとまった?
俺にとっては恐怖でしかないそのことを屈託のない笑顔で報告してくる亜美先輩。
俺はとりあえず、みんなの待つリビングに向かった。
「あのね、3人で部屋割りを決め直したんだ」
部屋割り……てことは、3人とも出ていかないのか。
……なぜか、ほっとした俺がいます。
「でね、新しい部屋割りは……」
誰だ……誰が俺と一緒なんだ。
やっぱり、
それとも亜美先輩か?
一番間違いが起こりやすそうで起こりにくそうな
「水嶋くんが1人で、私たち3人が相部屋にするから」
え……どゆこと!?
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