第15話 お仕置き

「い、一緒に住むってどういう事なのっ! おみくん!」


 激しく俺に詰め寄ってくる沙耶さや

 だが、それを聞きたいのは、お前だけではない。


「い、いや、それはだな」

「何で勝手に決めるのよ!」


 俺は何も決めてない。それにお前も俺に同意を得ず、勝手に決めただろう。


「いやまず、聞けよ!」

「聞けよって何よっ!」

「き……聞いて下さい」

「何を聞けっていうのよ!」


 頼むからせめて、話ぐらいは聞いて欲しい。


「だから……」

「だから何よ!」

「くっ……」


 沙耶に揚げ足を取られまくり、しどろもどろしている俺に変わり。


「それは水嶋くんの為よ」


 亜美あみ先輩が答えた。


おみくんのためって、どう言う事ですか!?」

「水嶋くんはね、クラシックギターコンクールに出場するの、そして本戦を目指すの、だから私が一緒に住むのよ」


 胸を張り得意気に話す亜美先輩。

 こんな時に不謹慎だが、強調された胸に目がいってしまう。


「それが、何でおみくんの為なんですか?」

 

 亜美先輩の話を聞いていなかったのだろうか。

 胸を張り悪びれる様子もなく反論する沙耶。

 こんな時に不謹慎だが、強調された胸に目がいってしまう。


「あれ? あなた日本語が通じないのかしら?」


 うん、それは俺もたまに、ていうか、割と思う。


「通じてますよ! 先輩こそどうなんですか!」


 とりあえず、とんでも理論で反撃する沙耶。

 そして詰まる2人の距離。

 このまま、2人の言い合いが続けば、いずれ胸と胸がぶつかってしまうのではないだろうか。


 こんな時に不謹慎だが、できる事なら2人の間に割って入りたい。そして挟まれたい。


 ……違うな、そんなことを考えている場合じゃないな。

 なんとかして、このカオスな状況を収めなくては。


 それにしても、気になるのは綾辻あやつじだ。最初に言い返してからだんまりを決め込んだままだ。

 それどころか表情も陰っている。

 亜美先輩と何かあったのか?


綾辻あやつじさんも何とかいってあげてよ!」


 そしてここで、まさかの沙耶からの、綾辻への無茶振り。お前ら、そんな協力するような仲だったっけ。


「そうね……広瀬ひろせさんの、とんでも理論は置いておいて、合宿とかならまだしも、一緒に住む理由としては妥当ではないわね」

「え——っ、酷いよ綾辻さん! 全然とんでも理論じゃないよ!」


 綾辻にとっても沙耶はとんでも理論だったか。まあ、普通に考えたらそうなるよな。

 よし、この際だ。

 沙耶のことは無視して話をすすめよう。

 無だ、沙耶を無に帰すのだ。


 なんて、考えていると。


「ねえ、おみくんも何とか言ってよ」


 今度は俺に絡んできた。もしかしてこいつは心でも読めるのか。

 でも、俺は更に沙耶を無視し続けた。


「それは、どういうことだ、綾辻」

「どういうことも何も、コンクール出場が目的なら、コンクールまでで良いのでしょ?」

「ねー臣くん!」

「まあ、それはそうだな」

「臣くんってば!」

「いいえ、違うわ、コンクールは今年だけじゃないのよ? 来年も続くし、これからの水嶋くんのギタリスト人生を考えれば、ここでしっかりと実力をつけなくてはならないわ」

「臣く〜ん」

「あら……その理屈だと先輩は来年はもう、弘臣ひろおみの先輩でも部活仲間でもないわ。コンクールも先輩には関係ないですよね」

「お〜み〜く〜ん」

「それは……私と水嶋くんは、ただの部活仲間じゃないのよっ!」

「それは聞き捨てならないわ……詳しく聞かせてほしいですね」

「臣くん! がおぉぉぉぉっっ!」


 ずっと沙耶を無視していたら。


「うわっ、何すんだ沙耶!」


 沙耶のやつが、しがみつくように抱きついてきた。


 そして俺は、バランスを崩し。


「危ない、ひろくん!」


 差し伸べる亜美先輩の手を思わず掴んでしまい。


「あいたっ!」


 転倒してしまった。


 痛い……いくら軽いとはいえ、女子高生2人の下敷きは普通に痛い。


 身体的ダメージはあった。だけど俺の心は満たされている。


 理由は言わずもがな、2人のおっぱいが、なぜか俺の手のひらにあったからだ。

 体を張ったのだこれぐらいの役得があってもいいだろう。

 まあ、一応どんな体勢か説明していおくと、まず俺が仰向け。

 その上に若干右側にそれて、うつ伏せの沙耶。そして右手で沙耶のおっぱい。

 そして沙耶に若干沙耶に被さるように、うつ伏せの亜美先輩。そして左手で亜美先輩のおっぱい。


 ——神の奇跡だ。


「大丈夫、臣くん?」「大丈夫、水嶋くん?」


 俺は2人の呼びかけには答えず、目を閉じ、おっぱいの感触を堪能した。

 いわれのない修羅場続きだったのだ。少しぐらいの現実逃避は許されるはずだ。


 だが。


「……もしかして、頭打ってないよね?」


 あっ……。


「大丈夫、水嶋くん!?」


 本気で心配されて、亜美先輩に、抱きしめられた。

 おっぱいの感触は手から顔へ。


「臣くん、大丈夫!?」


 そして次は沙耶に抱きしめられ、おっぱいの感触は、亜美先輩のおっぱいから、沙耶のおっぱいへ。


 突如として俺は天国へいざなわれた。

 これ……このまま気絶したフリしてやり過ごしたら、修羅場回避できんじゃね?

 なんて思っていたら。


「……弘臣ひろおみ


 まさかの事態、この俺を奪って抱きしめる合戦に綾辻も参戦してきた。

 

 だが……。


「ねえ、いつまで気絶したフリをしているのかしら?」


 俺の、気を失ったまま作戦は綾辻には通用しなかった。だが俺は限りなくゼロに近い可能性を信じて、そのまま気を失ったフリを続けた。


 しかし——


「痛い、痛い、痛いっ!」


 綾辻は、俺の頭をスリーパーホールドで締め上げた。


「何すんだよ、里依紗りいさ……」


 あ……。


「何すんだよじゃないよ、おみくん」

「覚悟はいいかな? 水嶋くん?」

「自業自得よ……弘臣ひろおみ

「……ご、ごめんなさい」


 この後、俺は、言葉にできないような、ご褒美もとい、お仕置きを受けた。


 ——俺は悪くない。

 

 

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