第10話 なんて日だ!

 奇跡的にお腹は壊していないが、とてもスリリングな夕食だった。もう2度と2人をキッチンに立たせることはないだろう。


 ——さて、今の状況は回想前と変わらず、まだ綾辻あやつじのおっぱいに顔を埋めたままだ。時間を確認したいとろだが、少しでも動いて綾辻あやつじが目覚めてしまうと、このラッキータイムが終わってしまう。

 慎重に事を運ばなければならない。


 しかし……綾辻あやつじ……いい匂いだ。

 この心地よさはまるで、人をダメにするおっぱいのようだ。


 この世の中がおっぱい星人で溢れかえっているのも納得だ。


 つーか、俺は昨日からやたらおっぱいに縁がある。


 ——それは後片付けの時のことだった。




 *




「後片付けは敗者の仕事よ」


 なんて、柄にもなく殊勝な事を言うものだから、食後の後片付けは綾辻に任せた。


 まさか、お皿を割ったりする定番ハプニングはないだろうかと疑っていたが、それは杞憂だった。


 だが、次に綾辻あやつじが目の前に現れた時、俺は我が目を疑った。


 ……綾辻の上半身がずぶ濡れになり、下着が透けてモロ見えになっていたのだ。


 俺はガン見した。

 我が校の高嶺の花の下着姿など、そうそう見られるものではない。そしてその高嶺の花というブランドが、更に俺の欲望を掻き立てた。


「あら、弘臣ひろおみどうしたの? そんなに私を見つめて——もしかして見惚れちゃった?」


 確かに見惚れている……現在進行形で透け透けの下着姿に。


「あっ! 綾辻さん胸っ!」


 しかし、沙耶さやの余計な一言で。


「えっ、何っ?」


 綾辻は今の惨状に気付いた。

 チッ……沙耶さやめ……余計な事を。


「きゃっ!」


 だが、綾辻あやつじが頬を赤く染め、恥じらいながら両手で胸を隠す仕草も悪くなかった。


 ……最後までご馳走様でした。


 なんて思っていると。


おみくん見ちゃ駄目っ!」


 もう綾辻の下着姿は見えなくなったと言うのに、沙耶さやが、俺の頭をぎゅーっと抱きしめた。


 勿論、俺の顔は沙耶のおっぱいの中だ。


 やっ……柔らかい。

 そしていい匂いだ。


 俺は視覚の天国から触覚の天国へいざなわれた。


 ——しかし今日は、なんて日だ!


 神様は息つく間もなくラッキースケベを与えてくれる。


 だが、ひとつ問題があった。

 


 ——息ができない!


 この天国を味わい続けると、俺は本当の天国へ行ってしまう。さっきは料理で、天国のおばあちゃんと一瞬だけ会えたけど、このままだと、おばあちゃんと仲良く天国で暮らしてしまうまである。


 沙耶さやはおばあちゃんっ子だった俺を、おばあちゃんに会わせたいのだろうか。


 まあ、優しくおっぱいに包まれたまま、果てるのも、男にとっては割と本望だ。悪い選択ではない。


 しかし……こんな事で沙耶を犯罪者にするわけにはいかない。名残惜しいが、俺はおっぱいから脱出した。


「ぷはっ……!」


 空気がうまい。

 おっぱいに挟まれて窒息しそうになった後に吸う、空気はまた格別なものだ。


 空腹は最高のスパイスだっていうけど、おっぱいで窒息させられそうになるのは、うまい空気を味わうための最高のスパイスだ。


綾辻あやつじさん、風邪ひいちゃうよ、お湯張ってるから先にお風呂入って」


 俺が空気を堪能している間に、沙耶さや綾辻あやつじを風呂に案内していた。


 つーか、いつの間にお湯貼ったんだよ。

 全然気付かなかったぞ。


「ありがとう、広瀬ひろせさん、お先にいただくわ」

「うん! あったまっておいで!」


 脱衣所に向かう綾辻あやつじは、すれ違いざまに「えっち」と、ただ一言だけ残した。


 なんか、妙にドキッとしてしまった。


 綾辻あやつじを見送ると、沙耶が頬をぷーっと膨らませ俺を睨んだ。


「ダメだよ、おみくん! そういうところだよ!」


 ……どういうところだ。


「見せるのは大丈夫でも、見られると恥ずかしいんだからね、ああいう時はガン見してないで、ちゃんと教えてあげなきゃ」

「そ……そうなのか」

「そうだよ!」

沙耶さや、お前もか?」

「もちろんそうだよ!」

「じゃぁ、見せてくれよ」

「え……」

「……見せるのは大丈夫なんだろ?」

「え……でも」


 って……俺は何を言ってんだ。

 怒られる前に早くやめないと。


「……いいよ……おみくんなら」


 な……なんですとっ!?


「な……何、冗談いっちゃってんだよ沙耶さや……俺、本気にしちゃうよ」

「私……本気だよ?」

 

 頬をほんのり赤く染め、上目遣いで俺を見つめる沙耶さや

 ていうかさ、女子ってなんでこんな時、極々自然に上目遣いができんだよっ!


 そして沙耶は、ソファーで座る俺の膝の上に、またがった。 


おみくんが脱がせてくれる?」


 ぐはっ……なんて破壊力の強い台詞なんだ。

 ていうか、ダメだぞ……2人っきりならまだしも綾辻あやつじもいるんだぞ。


「……ねえ、おみくん?」


 目の前に胸を強調してくる沙耶。

 ヤバい……とにかくヤバいこのままじゃ、奴が暴れ出してしまう!

 

 だが……そんな目で見つめられたら色々抑えられない。


「沙耶ダメだっ!」

「きゃっ!」


 なんとか欲望に打ち勝つことができたが、沙耶を遠ざけた拍子にバランスを崩し——


 あら不思議……押し倒す形になっておっぱいを揉んでいた。


 そしてそのタイミングで。


「あら、弘臣ひろおみ……あなたは何をやっているのかしら?」


 綾辻あやつじがお風呂から出て来た。

 しかもバスタオル一丁で。

 ……なかなかセクシーだ。


「い……いや、これは違うんだ!」

「私……浮気は許さないって言ったわよね?」


 知ってます……今日何回も聞いてるしっ、知ってますとも!


「だから違うんだって! なっ! 沙耶さやからも言ってやってくれよ」


 沙耶に助けを求めたが。


「……おみくんが、私をいきないり押し倒して」


 さすがにの状況が気まずかったのか、あっさり裏切られた。


「へえ……覚悟はいいからしら?」

「え……いや、俺、本当に何もしてないよ?」

「言い訳はいいわ」


 ……このままではまずい。


「いや、まじで誤解なんだ、信じてくれ」


 俺は必死に絢辻にすがった。

 そしてその拍子に——


 絢辻の身体を包んでいたバスタオルがはだけて、綾辻の胸があらわになった。


 その直後、パチ————————ンと乾いた音が鳴り響き、綾辻は逃げ込むように脱衣所に戻って行った。

 

 流石にちょっと刺激が強すぎて、俺は茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

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