水辺の町

 二両編成の列車に乗っているのは、私だけであった。

 その私も、海沿いの駅で電車を降りた。


 降りた駅も、無人であった。

 日はまぶしすぎず、暑くもない。

 よい天気と言えた。

 私は、しばらく、その場にたたずんだあと、改札の窓口に切符を置き、構外へ出た。


 海の近くのはずなのに、塩の匂いがしない。

 昔、訪れたときの記憶をたどりながら、私は住宅地の中を歩いた。

 途中でだれとも会わなかったし、家の中に人がいる雰囲気もなかった。

 ゆるやかだが長々とつづく坂をりていくと、その先に、くだりの階段があるはずだった。


 たしかに、私の記憶通りに、階段はあった。

 しかし、下りていくことはできなかった。

 階段は澄んだ水に侵されており、階段下にある公園は水没していた。

 波ひとつないうえに、水の透明度が高いため、公園の遊具などをじっと見ていると、それが水の中にあるものだとは思えなかった。


 私は、その場を引き返し、ゆるやかだが長々とつづく上り坂の途中で、思いついたまま、横道に入ってみた。

 入った横道の両脇も民家がつづいていたが、相変わらず、人の気配は感じられなかった。

 そのまま、あてどなく、町をさまよった。



 しばらく歩いていると、ある会社の事務所が目にとまった。

 中で、何かが動いているようにみえた。

 近寄ってガラス越しに中をのぞいてみると、人の形をした何かが数体、事務所の中で揺れ動いていた。

 私は、深く考えずに、事務所のドアを開けた。

 すると、部屋の中を満たしていた水が、一気に襲いかかってきた。

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