本当にあった夜

 夏の夜明け前。

 水銀灯に照らされた公園には砂場しかない。

 接する十字路の信号機が、規則正しく、色を変え続ける。

 動く物のない公園では、その信号機の変化のみが、時間の存在を証明していた。

 公園の片隅には、遊び終わった花火が、片づけられずに残っていた。



 春の盛りの午前十時。

 校舎の渡り廊下を花びらが過ぎて行く。

 私は花のなまえをふと口にした。

 すると、私のもとにあなたが来た。

 舞っていた花とあなたは、同じ名前をつけられていたのだったね。

 教室から聞こえてくる、あなたの好きな曲の名を、私は知らなかった。

 そんな私をあなたは責めた。

 あなたの髪に絡め取られていた花びらすらも、救わなかった私を。



 冬の午後四時半。

 古い眼医者の待合室。

 チャコールグレイの空間は無音であった。

 ソファに坐り会計を待っていると、玄関から眼帯をしたあなたが現れ、私の前に立った。

 前髪が長いと、老いた医者に怒られた話をすると、あなたは自分が使っていたヘアピンを外し、私の前髪を左右に分けた。

 あなたの低いハミングが部屋に流れた。



 秋の真夜中。

 君が私を背負って、長い一本道を歩いて行ったわ。

 道に落ちていたザクロの実を、二人で一緒に食べたじゃない。

 あの夜は独特な匂いがしたわよね。

 あなたが認めさせようとする、私の記憶にはない夜の話。

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