本当にあった夜
夏の夜明け前。
水銀灯に照らされた公園には砂場しかない。
接する十字路の信号機が、規則正しく、色を変え続ける。
動く物のない公園では、その信号機の変化のみが、時間の存在を証明していた。
公園の片隅には、遊び終わった花火が、片づけられずに残っていた。
春の盛りの午前十時。
校舎の渡り廊下を花びらが過ぎて行く。
私は花のなまえをふと口にした。
すると、私のもとにあなたが来た。
舞っていた花とあなたは、同じ名前をつけられていたのだったね。
教室から聞こえてくる、あなたの好きな曲の名を、私は知らなかった。
そんな私をあなたは責めた。
あなたの髪に絡め取られていた花びらすらも、救わなかった私を。
冬の午後四時半。
古い眼医者の待合室。
チャコールグレイの空間は無音であった。
ソファに坐り会計を待っていると、玄関から眼帯をしたあなたが現れ、私の前に立った。
前髪が長いと、老いた医者に怒られた話をすると、あなたは自分が使っていたヘアピンを外し、私の前髪を左右に分けた。
あなたの低いハミングが部屋に流れた。
秋の真夜中。
君が私を背負って、長い一本道を歩いて行ったわ。
道に落ちていたザクロの実を、二人で一緒に食べたじゃない。
あの夜は独特な匂いがしたわよね。
あなたが認めさせようとする、私の記憶にはない夜の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます