世界の終わり
リンリンと鳴る電話に出なければ、物語は始まらずに終わる。
店員の消えたカフェ。
店先に置かれたテーブルに、女たちは真向いに坐っていた。
「とにかく、お肉を食べなければ、なにもはじまらないわ」
「終わらないの、まちがいではなくて?」
プラスチック製のナイフとフォークを使い、ふたりはステーキを口に運んだ。
法廷では、被告人が淡々と供述していた。
「私は世界の終わりというものを見てみたかったのです。国家の崩壊というものは、その国家に属する者にとって、大地が崩れるようなもの、世界の終わりです。だから、戦争を始めたのです」
裸の男が草原に寝そべりながら、空にむかってつぶやいた。
「頼まれても、私は同じ過ちを繰り返すつもりはない」
無数のイチジクが男に降り注いだ。
店の看板は、タバコの専門店であることを示していた。
店の前の道路で、男が木箱に坐り、焚火に手をかざしていた。
口にはタバコを咥えている。
そこに少女が、リュックサックを背負って、やってきた。
「なにをしているの?」
「見ての通りだよ。タバコを吸っている。どこから来た?」
「遠くから」
「何のために?」
「暇だから。歩くのが好きなの。ほかのことには飽きたわ」
「僕がタバコを吸うのと同じ理由だな」
女の子が店内をのぞくと、棚にはほとんど商品がなかった。
「タバコ、なくなりそうね?」
男が看板を見上げた。
「だから、いま、裏の畑で、タバコを育てているところだ」
「あら、楽しそう。私も手伝っていい?」
「好きにするといいさ」
許しを得た少女は、リュックサックから缶を取り出した。
「私、コーヒーを持っているの。飲みましょうよ」
「それはすばらしい」
少女から缶を受け取ると、男は立ち上がった。
コーヒーを淹れるために。
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