「…先程、少し触れた通り、お前のオリジナルは強力な力を持っている。それは理解出来たな?」

「…ええ」


私が頷くと、サヴァイスはそれを確認した後、先を続ける。


「オリジナルそのものを手に入れることは、非常に難しい。

そこで、我は考えた…

ならば、同じ魂を持つ者を造り出し、その上で、その者を手に入れてしまえば良いのではないかと」

「!では…つまり私は、その能力者の身代わりなのですか!?」


私が興奮気味に問い詰めると、サヴァイスは静かに首を振った。


「…構成する“もの”が同じである以上、決して身代わりなどではない。

お前はあくまで、その能力者本人。それは揺るぎない事実だ」

「…でも…!」


…私の手が、感情に比例して、わずかに震え始めた。

その様子を見たサヴァイスは、私の手を包み込むように、自らの手を添える。


「だが、お前のオリジナルの潜在能力は、我の予想を遥かに超えていた。

よもや、その負荷が業となり、全てお前に来ようとは…」

「…どういう…ことですか?」


私は訝しげに問い返す。

サヴァイスは、答えることを躊躇うかのように、わずかに視線を逸らしたが、すぐにまたそれを私に戻すと、答えた。


「…お前のその体は、オリジナルの力を受け入れるには不十分だ。

否、オリジナルの力がそれだけ強大なものであるのだろうがな…」


遠回しな言い方に、私は彼に詰め寄った。

…彼の、奥歯に物が挟まったような物言いに、歯痒さを感じたからだ。


「私は構いませんから、はっきり仰って下さい。

…造られた存在である私に、何か…致命的ともなる欠陥があるのですか?」

「…、ああ」


根負けしたように、サヴァイスが答える。

この答えを何となくは予測していたものの、私は目の前が徐々に暗くなっていくのを感じていた。


「…力ある者のレプリカ… それはその身を、内からの力に喰われると言うことだ。

元々が、それだけの力を受け入れられるようには出来ていない…

それ故にライザ、お前の体は…定期的に外からも力を補充してやらねば、細胞のひとつひとつが、数週間と持たずに死滅する」

「!」


私は、恐怖で頭を抱え込んだ。



聞かなければ良かった。

聞いても聞かなくても、いつかは体が悲鳴をあげることを考えれば、いずれはこの無情な結果に行き着くのだろうが…


…やはり、聞かなければ良かった。



「案ずるな、ライザよ」


言い知れぬ恐怖におののく私の様を見越してか、サヴァイスが優しく声をかけた。

天上の天使が見せる、慈愛にも似たその笑みが、私の心の底に潜む恐怖心を、少しずつ取り除いていく。


「…我が、あえて真実を話したのは、お前には自らの体の事情を…少しでも知っておいて欲しかったからだ」

「!…」

「…それは時に、お前の枷になるやも知れぬ。

だが…、我はそれでも、お前と常に、共にあることを願っている」

「!…」


…優しく語りかける彼のその言葉には、同情や哀れみなどは一切なく…

そのような身体的な事情を持つ私をも、労るように包み込むような包容力が見られた。


そんな優しさに甘えて、私は自らが疑問に思ったことを訊ねた。


「…、では、ひとつだけ教えて下さい」

「…オリジナルの情報を知りたいのか?」

「!…ええ」


…さすがにこちらの考えを見通している。


だが、私にしてみれば、それはただの興味本位ではなかった。


…知りたいのは、求めるのは自分自身のこと。

そして、それを知る権利も…当然、自分にはあるはずだ。


サヴァイスはそんな私の性格すらも、とうに把握しているらしく、ふと立ち上がった。


「…サヴァイス…?」

「……」


私の問いかけに、彼は反応するも、答えようとはしなかった。

…むしろ、逆に指摘される。


「…己を知りたい気持ちは分からなくもないが…知ったところでどうなるものでもない。

それよりもライザよ…、お前は、我の何だ?」

「…えっ?」


そう問われても、私にはどう答えたらよいのか分からない。

私が戸惑っていると、サヴァイスは不意に私の手を引き寄せた。


私は勢い余って、サヴァイスの側に倒れ込む形となる。


「…っ!」


サヴァイスはそんな私の体を、引き寄せるように掴むと、そのまま私の全てを我が物とするかのように、私に貪るように…熱く口づけた。


「!」


驚いて目を見開いた先には、サヴァイスの…伏せられた長い睫がある。

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