これに根負けして、覚悟を決めたかのように、まずは将臣が引いた。

それから、マリィ、カミュ、六魔将、唯香と順に引いていく。

そのまま彼らの目線は、割り箸の下に釘付けになった。


「…あっ! あたし王様引いたっ!」


勝ち誇ったように声をあげたのは、言わずと知れた唯香だった。

それに、カイネルとシンの表情が揃って固まる。


「!げっ」

「…何よその反応。あたしが王様じゃ不服?」

「いや、怖ぇ」


カイネルが馬鹿正直に答えたことで、それを黙らせるべく、サリアがいつもより数段上の、強烈な肘鉄を食らわせる。

それが鳩尾にまともに入ったカイネルは、声にもならずにただ暴れた。


「! ! …!」

「ったくもう…、余計なことは言わないの! …それじゃ王様、命令をどうぞ」


サリアに促された唯香は、しばらく何事か考えていたが、やがて、ポンと手を打った。


「じゃあ、1番と5番」

『えっ!?』


揃って声をあげたのは、なんと、サリアとカイネルだった。

共に、相手が分かった途端に、文字通り天を仰いで仰天する。


「!な、な、な、なんでお前が5番なんだよ!?」

「!こっちの科白よ! なんであんたが1番なのよ!?」


がっちりと睨み合って、犬猿よろしくやり合う二人に、唯香は頬を掻きながらも、容赦なく命令を下した。


「…じゃ、1番と5番。1本のポッキーを両端から食べて」

『…は!?』


またも見事にハモりつつ、カイネルとサリアが、目を大きく見開いた。

サリアなどは、その特徴ある髪型が、あまりのショックで乱れたほどだ。


「!…じょ、冗談じゃないわよ! 何が悲しくてカイネルと…!」

「!な…、それは俺の科白だ! 何の因果でお前なんかと…!」


互いに言いたい放題言った後で、相手の言い分に気付き、二人がこめかみにぴしりと血管を浮かせた頃、


「…あのさ、二人とも。これは王様の命令なんだから、聞かないとゲームにはならないでしょ?」


と、唯香が正論を口にする。それが真実なため、全く反論できない二人は、ちらりとカミュの方を向いた。

…カミュは無言のまま、頷いてみせる。

同時にサリアが、がっくりと肩を落とした。


「いいわ…、分かったわよ。どこまで食べればいいの? まさか…」

「え? …全部」


唯香が平然と答えると、サリアの堪忍袋の緒が、ぶつりと音を立てて切れた。


「か、カミュ様っ…

これでもまだ御命令には従わねばなりませんか?」

「そうですよ! 何が悲しくてこいつと…!」


双方が口調を荒げるのを聞いて、カミュは仕方なく唯香に妥協を求めた。


「…おい、少しは緩和してやったらどうだ」

「うーん、じゃあ、大目に見て1センチ! 1センチなら残しても可!」

「!変わんねぇよ!」


カイネルが反射的に声をあげる。が、カミュの命令もある手前、次には無理やり妥協し、深い溜め息をついた。


「はぁ…、仕方ねぇなあ…腹括るか…」


独りごちながら、都合よく手近にあったお菓子入れの中から、ポッキーと書かれた袋を取り出し、破る。

カイネルがそれをくわえた頃には、サリアの顔色はトマトよろしく真っ赤に熟していた。


しかし、恥じらってではない。

…底知れぬ怒りによってである。


サリアは覚悟を決めると、こめかみを戦慄かせながら、件のポッキーを、カイネルとは対極の位置からくわえた。

その目の前には、自分に高さを合わせた、カイネルの整った顔がある。

カイネルは開き直ったように目を閉じると、端から少しずつ食べ始めた。

これに怯んだサリアは、既に覚悟は決めたものの、それとは裏腹に、目を見開いたまま硬直した。


(…こ…、この場合…、どうすればいいの!?)


迷っているうちにも、カイネルの顔…、唇は近づいてくる。それに、サリアはますます混乱した。

…すると。


ぽきっ、と乾いた音がして、カイネルがサリアの唇からきっかり1センチを残して折り取った。

そのまま、今だくわえたままのポッキーを、残らず食べ、飲み下す。

そこまでして初めて、カイネルは目を開いた。


「これならいいだろ?」

「!…」


開いた口が塞がらないサリアの口から、くわえていた短いポッキーが落ちた。


…これでは…、自分だけびびり損ではないか。


そう瞬間的に察したサリアの平手打ちは、問答無用でカイネルの頬にヒットしていた。


「!ってぇな、この凶暴女!」

「紛らわしいことをするあんたが悪いのよ!」


頬を紅潮させ、息も荒く告げるサリアに、今度はカイネルが怯んだ。

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