†試される運†

カミュと唯香中心の、ギャグちっくな話(王様ゲーム)

…その日は、多分…二人ともが油断をしていたのだろう。


「ねぇ、カミュ、王様ゲームやらない?」


うきうきとした表情で、足取りも軽く、唯香がカミュの前に割り箸を差し出した。

対してカミュは、頭に花が根付いたような唯香の応対に困り、思わずその割り箸と唯香とを交互に見る。


「…、これで、何をすると?」

「だからー、王様ゲームよ」


さも当然というように、唯香が唇を尖らせる。それにカミュは、これ以上はないと思われる、深い溜め息をついた。


「…付き合いきれない。他をあたれ」

「あら、そんなことを言っちゃっていいわけ?」


口元に手を当てて、くすりと笑う唯香に、カミュは何か引っかかるものを覚え、すぐさま言葉を撤回した。


「分かった。やろう」

「そうこなくちゃね!」

「……」


脅迫まがいではあるが、まんまと乗せられた事実は否めない。そのことをカミュがひたすら根に持っていると、


「ああ、でもこのゲーム、頭数がいないとダメなのよね…

カミュ、六魔将とマリィちゃんを呼んできてよ」

「何? 六魔将をそんな下らない理由で呼び出せと言うのか?」

「イヤなら、あなたのお父様をお呼びしてもいいのよ?」

「…呼んでくる」


すっかり唯香のペースに乗せられたカミュは、不承不承ながらも、とりあえず捕まえることが可能だった六魔将…

シン、サリア、カイネルの三人を呼び出した。


「うーん、でもこの人数だけじゃあ物足りないわね…、やっぱり将臣兄さんもいないとつまらないわよねっ」

「!な…」


カミュが制止する暇もなく、やたらハイテンションな唯香が、徐にケータイを取り出すと、将臣を呼び出す。

これで、ひと通りの頭数は揃ったかのように見えた。

…あくまでひと通りは、だが。


しかし。

カミュに直々に召集された六魔将は、始めはどのような重大な任務を与えられるのかと、ピリピリしていたが、たかがゲームに付き合うためだけに呼び出されたのだと知り…3人が3人とも目くじらを立てた。


真っ先に噛みついたのはサリアだった。


「どういうことです!? カミュ様!」


ヒステリックに声をあげ、カミュに問いただす。カミュがさすがにうんざりした表情を見せると、続けてカイネルが噛みついた。


「我々はそんなに暇じゃないんですよ!?」

「…おい、さっきまで、退屈しのぎにマリィ様と同じレベルで遊んでたのは、どこの誰だよ?」


シンが聞き咎め、横目でカイネルを見る。これにカイネルはあからさまに視線を逸らした。

それを呆れて見やったまま、カミュが話をまとめる。


「…、とにかく、これは命令だ。いいな」

「…は。カミュ様がそう仰るならば…」


サリアは恭しく頭を下げた。その傍らではカイネルが、不機嫌そうな表情で頭を掻いている。

その時、先程ケータイで呼び出された将臣が姿を見せた。

途端にマリィの表情が、ぱあっと明るくなる。


「あっ、将臣!」

「!…マリィ!? それに六魔将が雁首揃えて…」


どうした? と言いかけた将臣は、周囲の状況から、何となく事の次第が掴めたらしく、次には深い溜め息をついた。


「…唯香の我が儘か」


六魔将が既に姿を見せている以上、もはや是非もない。

不本意ではあるが、将臣は腹を括ることにした。


「…それで、唯香。何をすると?」

「ん? …王様ゲーム」


瞬間、将臣の動きが止まった。


「…何だと?」

「“王様ゲーム”。兄さんも知ってるでしょ?」

「…ああ、知ってはいるが…」


…まさか…それに本気で彼らを付き合わせるつもりなのだろうか?

将臣の危惧したことは、まさにそれだった。

しかし、唯香のいたって大真面目な表情からすると、嫌でも彼らを参加させるつもりなのだろう。


将臣は、本日二度目となる溜め息をついた。


「…さて、じゃあ始めるわよ!」


ひと通りのルールを聞いた参加メンバーは、そのルールを聞いただけで、げっそりとしていた。

カミュやカイネルなどは、明らかにやつれて見えた気がしたが、唯香はそれにはまるでお構いなしに続けた。


「えーっと、参加メンバーは7人。ってことは、王様の棒を1本用意して…あとは1から6まで番号を振ればいいのね?」


もはや哀愁すら漂っている他の顔ぶれをよそに、ひとり顔を綻ばせ、浮かれながらも、唯香は割り箸にマジックで、王冠マークと数字を丁寧に書き込んでいった。


…悪夢のようなそれが終わると、占いのぜい竹よろしくそれをこすり合わせ、さも引けと言わんばかりに、皆の前に差し出す。

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