「俺のせいなのかよ!?」

「あんたが変な番号引くからでしょ!?」


ぎゃあぎゃあとやり合う二人を、シンは声も出せずに、ただ眺めることしかできなかった。

が、ついにどうしようもなくなり、カミュの方に視線を走らせる。

それに気付いたカミュは頷いた。


「…やめろ、カイネル、サリア」


言葉も鋭く制止すると、それまで散々言い合っていた二人の言葉が止まった。

そのまま釈然としない表情を残し、黙ったまま近くにあった椅子に、すとんと腰を落とす。

つられて、他のメンバーもそれに倣った。


「うーん、なんか物足りない気がするけど、ま、いいか。…じゃあ次」

「!?」


唯香の、軽率かつ楽観的な一言にぎょっとしたのは、言うまでもなくカミュだった。


「まだ付き合わせるつもりなのか!?」

「え? …まだまだ付き合ってもらうつもりだけど」


あっけらかんとしたこの答えに、カミュは頭を抱え込み、サリアとカイネルは過剰反応をし、シンは絶句した。

そしてその一連の様子を、もはや自らに関係無しという目で窺っているのは、将臣とマリィだった。


…だが。

意外に、そうは問屋が卸さないものだ。


唯香が面白半分に割り箸作の籤を混ぜ、再度みんなに引かせる。

すると、今度王様に当たったのは、シンだった。


「…、俺が王様か…」


その、手にしていた割り箸に、無意識のうちに、目に見えないほど細い鋼線を巻きつけ、弄んでいたシンは、しばらく考えていたが、やがて口を開いた。


「…命令。2番と3番」

「!…」


将臣とマリィが、僅かに動揺して身を竦ませると、シンはちらりとそちらに目をやった。

それによって、当たり籤を引いた人材を確かめると、口元に不敵な笑みを浮かべる。


「…じゃあ、二人には、互いに濃密なキスでもして貰おうかな」

「!…」


将臣は、反射的に苛立ちの混じった怒りを露にし、シンを睨み据えた。

すると、その様子を見ていたマリィが、将臣に声をかける。


「将臣」

「何だ? マリ…ィ」


マリィが将臣の服を強く引き寄せ、将臣の顔を自分のその高さまで合わせると、目を閉じながらも、躊躇うことなく将臣に口づけた。


「!?」


将臣は驚きを隠せずにマリィを見る。

それは唯香も、カミュも同様だった。


「へぇ…、マリィちゃん積極的!」

「…面白がってないか? お前」


乙女よろしく目を輝かせる唯香に、これ以上ないほど呆れ返って、カミュは息をついた。

…しばらくの後、マリィの唇が将臣のそれから離れる。


「…、マリィ…」

「!ふ、深い意味はないからね、将臣。これはゲームなんだし…」


言いながらも、マリィの頬は桜色に染まる。それを目の当たりにしたシンは、頷いた。


「ちょっと物足りないような気もするが、まあ…マリィ様側からと言うことで大目にみよう」

「…いいから、早く次へ行け」


ぶっきらぼうに呟いた将臣の表情には、それでも戸惑いが残っていた。


…しかし、その場にいた人物は、この時は皆、気づかなかった。

とある画策は、ここから進んでいたのだ。

そしてその企みを図ったのは、この中に参加している若干一名…!


続けて、シンが差し出した籤を、皆は慣れた手つきで引いた。

すると、またもシンが王様を引き当てた。


「王様引いたぜ」

「え!? またかよ?」


疑いと驚きの入り混じった目で、カイネルがシンを見やる。それに、サリアもごくひっそりと警戒していた。


「とにかく、命令だ。じゃあ…4番と6番」

「!」


カイネルとサリア、将臣とマリィがそれぞれ胸をなで下ろしたのとは逆に、カミュと唯香、二人の体がぎしりと強張る。

それをまたしても敏感に察して、シンは容赦なく命令を下した。


「4番と6番。…ここで相手をどう思ってるか話してくれ」

「!…シン!」


さすがにカミュが制止をかけようとする。弟同然のシンの、しかもゲームという疑似の上のこととはいえ、人目も憚らずにそんなことを言えるはずもない。

…だが意外にも、唯香はすぐに同意した。


「待って。その口振りだと、6番ってカミュなんでしょ? だったら別にいいじゃない、話したって」

「!な…」


呆れ返るを通り越して、カミュはもはや二の句が継げなかった。

しかし、そんなカミュを一瞥し、唯香は惑うこともなく命令に従う。

…その場にいた者は、誰ともなく、唯香の言葉に聞き耳を立てていた。


「えーと、カミュのことは… うーん、もう少し優しいといいかなあ」

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