愛=愛=愛
いつもより冷えるある日の夜更け。
洗濯物が一杯に入った洗濯籠を抱えた裕太は夜道を照らすコインランドリーへと来ていた。中では数ある洗濯機の内、一つだけが回っており入り口の右手には男性が一人椅子に座っていた。いつもなら無人のコインランドリー。裕太は人がいることに新鮮味を感じながらも、特別気にすることなく正面の洗濯機に洗濯物を入れ始めた。
そして全てを入れ終えドアを閉めようと手を伸ばしたところで後方から声を掛けられた。
「落ちてるよ」
少し低めの落ち着いた声に裕太は彼を除く唯一の客である男性の方を振り返る。その人は男性の裕太でもカッコいいと思えるような容姿をしており、クールな雰囲気がそれをより一層際立てていた。
そんな男性が真っすぐ指差していたのは裕太の足元。その指に導かれ下を向くとそこにはショーツが一枚落ちていた。
「あっ。――ありがとうございます」
そうお礼を言ってショーツを拾うと洗濯機に入れお金を投入。起動音の後、流れ出した大量の水が洗濯物を飲み込み始める。動き始めたのを確認した裕太は洗い終わるのを待つ為にその男性の二つ隣の椅子に腰を下ろした。二台の洗濯機の音が響く中、特にやることもない裕太はスマホを取り出し画面に視線を落とす。
「彼女?」
すると突然、男性が一言そう話しかけてきた。急な事に吃驚してしまい返事より先に男性の方を見遣るとこちらを見る横目と目が合う。
「……あぁ、はい」
「上手くいってんの?」
「え? ――まぁそれなりには」
その返事に男性は興味なさそうという訳ではないが鼻でふーんとと言うと脚を組んで俯いた。
「俺にも付き合ってて同棲してるやつがいるんだけどさ」
突然、自分の話をし始めた男性に裕太は内心「何だ?」と思いはしたが話を遮ることは出来ずスマホを閉じ耳を傾けた。
「一昨日、早く帰るって言ったのに急に後輩達に飲みに誘われて。一応誘ってくれたわけだし交流も兼ねて行ったんだよ。ちょっと飲んで早めに帰ろうと思ってさ。だけど思ったより飲み過ぎちゃって気が付いたらいい時間までいて。そっから帰ったんだけど、あいつ怒ってて。浮気してたんだろとか色々言われてさ。悪いのは俺なんだけど酔ってたのもあったしつい怒っちまったんだよ。そっから喧嘩して未だに顔も合わせてくれないんだよな。今日なんて飯すら同じテーブルで食ってくれなくて」
そして顔を上げた男性は裕太の方を見た。どこか寂しそうな表情をしながら。
「どうしたらいいと思う?」
まさか意見を求められるとは思っていなかった裕太は少し戸惑ってしまい、その動揺は表情にもしっかりと表れていた。
「あっ。ごめん。急にこんな話して。悪かったな」
「いや。全然大丈夫ですけど……。どうしたら……んー」
とりあえず考えてみるが別に恋愛経験が豊富な訳ではない裕太の頭にはこれといって何か名案が浮かぶことは無かった。
だが何か一つぐらいは案を出した方がいいと思い自分ならどうするかを考えてみる。
「よく分からないですけど。やっぱり素直に謝るしかないと思いますね。その人が好きな物を買って帰ってちゃんと謝るしかなさそうですけど。自分ならまずはそうするかもしれないです。すみません。在り来たりな提案で」
「いや。そんなことない」
少し嬉しそうに男性は首を振った。
「確かにそれしかないよな。よし。やってみる」
「仲直りできるといいですね」
「ありがとう」
すると二人の会話を聞いていたかのように二台の内の一台が洗濯を終えた。
「それじゃあお先に」
裕太が軽く頭を下げると男性は立ち上がり終わった洗濯物を持ってコインランドリーを後にした。そして裕太は再びスマホを取り出した。
――四日後。
前回と同じ時間帯に洗濯物を持って裕太はいつものコインランドリーに来ていた。
「こんばんわ」
そこにはあの男性がすでに椅子に座っており裕太が入って来ると笑顔で挨拶をしてきた。それに裕太も返すと洗濯物を入れ男性の二つ隣に腰を下ろす。
「なぁ、聞いてくれ」
裕太が座るや否や男性は彼の方を向き少し弾んだ声でそう話しかけてきた。
「今日、ケーキを買ってあいつにちゃんと謝ったんだ。そしたら分かってくれたよ」
ここへ来る途中、昨夜の事を思い出していた裕太は少しどうなったのか気になっていて丁度、訊こうか迷っていたところ。
だが先に男性が教えてくれ、その結果を聞いて少しホッとしていた。提案した手前上手くいかなかったら、それならまだしも更に悪化でもしたらどうしようかと思ってたところだった。
「良かったですね」
「あんたのおかげだよ」
「いえ。そんな僕は大したことはしてないですよ」
「そんなことないよ。――にしても良かった。ちゃんと謝ってもう一回説明したらわかってくれて、そしたら泣き出してさ。このまま険悪なまま別れるかもって思ったらしくて」
「次からはちゃんと連絡ぐらいはした方がいいですね」
「それだけは絶対に忘れないようにする」
するとこの日は早めに来たのか昨日より早く彼らの洗濯物は終わった。
「それじゃあお先に」
昨日同様に裕太は軽く頭を下げ、その男性は洗濯物を取ってコインランドリーを後にした。
* * * * *
この日も裕太は洗濯籠を抱えコインランドリーに向かった。
「こんばんわ」
そこには一昨日、昨日ともはや常連となった男性が定位置に座っていた。挨拶を返し洗濯物を入れ二つ隣に腰を下ろす。
するとそのタイミングで女性が一人コインランドリーへ入ってきた。女性は真っすぐ空いている洗濯機に向かい洗濯物を入れ始める。
そして全てを入れ終えドアを閉めようとした時。
「落ちてるよ(落ちてますよ)」
裕太と男性が声を揃えて彼女の足元を指差す。
「あえっ?」
女性は二人の方を振り向くと足元を見た。
その後、そこに落ちていたタオルを拾い洗濯機へ放る。
「ありがとうございます」
小さな声でお礼を言うと裕太の一つ空けた隣に腰を下ろした。
少しして三台分の洗濯機が音を鳴らす中、響く女性の深い溜息。
「何か悩み事?」
それを聞いた男性が少し前のめりになって女性を見ながら尋ねた。
「え? まぁ……はい。そんなとこです」
少し驚きながらも女性は頷き答えた。
「話せることならこのお兄さんに相談してみたら? 俺も解決してもらったし」
そう言いながら男性は裕太を指差していた。その指に気が付いた裕太は少し焦りを見せる。
「えぇ? ちょっと、勝手にそんな事。困りますよ」
「ほんとですか?」
「えぇー。――まぁとりあえず話だけなら」
声だけでなく表情まで哀愁漂うその女性に対して嫌とは言えず裕太は一応話だけは聞くことにした。
「私、同棲している人がいるんですけど最近その人が素っ気なくて。元々クールな感じの人だったんですけど前とか同棲し始めとかはもっと積極的に構ってくれたっていうか。最近はちょっかいとか出しても前みたいに構ってくれないし……。私って飽きられたんですかね?」
話している内に込み上げてくるものがあったのか女性はそう裕太に尋ねながら少し泣き出しそうだった。その顔を見てはどこか解決しなくてはいけないような気がして分からないなりに考え始める。
「んー。――同棲して長いんですか?」
「そこまで長いって訳じゃないですけど短くもないって感じです」
「飽きられてはなさそうだけどな」
「そうですよね」
「じゃあなんで? ――まさか他に好きな人が……」
自分で言った言葉に自分でショックを受けたのか女性は俯く。
「違うような気もするんですけど……んー」
そして少し考えてみたが結局、前回同様に名案やこれといった何かは思い浮かばず。
「もう普通に訊いたらどうですか?」
「でもそれってめんどくさいとか思われないですか? それが心配で」
「思われないと思いますけどね。それか多分、慣れたとかじゃないですか?」
「私にですか?」
「というより同棲に。今までは時間を合わせて会うかお泊りでしか会わなかったのが同棲になったら家に帰ればいつでも会えるわけじゃないですか。最初はそれが新鮮だけど毎日その日々を過ごしている内に慣れてきて、本人はそんなつもりないけど接し方がちょっと雑になったというかより素になった? 分かんないですけど。とりあえず慣れたんじゃないですか? それでそんな感じになっちゃったんだと思いますけど」
「分からなくはないな。確かに俺もしばらくしたら慣れ始めたし」
「そうなんですかねぇ。でも一応聞いてみます」
またしても在り来たりなことしか言えなかったと若干ながら凹む裕太。
そしていつも通り先に男性が帰り、しばらくしてから裕太は女性に一言だけ言って帰った。
――四日後。
いつも通りコインランドリーに行くといつも通り男性が先に居て、裕太はいつもの場所に座った。
そして少ししてあの女性が洗濯物を持ってコインランドリーへ。その表情はどこか嬉しそう。
そして洗濯物を入れ裕太の一つ空けた隣に腰を下ろした。
「あの! 昨日はありがとうございます!」
昨日とは違い元気に満ちた声でその女性はお礼を言った。
「あの後、ちゃんと話してみたんですけど本人はそんなつもりはなかったらしくて。今では前みたいに……えへへ」
女性は零すように笑みと笑いを浮かべる。
「良かったですね」
「良かったな」
「お兄さんのおかげです! ありがとうございます!」
今回も今回で特に何かした気はしなかったが問題が解決したならいいかと裕太はそのお礼を快く受け取った。
それからもはやルーティンと化したように先に男性が返りその次に裕太もコインランドリーを後にする。もちろん今では知り合いになった女性に一言言ってから。
* * * * *
「はぁー」
三台の洗濯機が働く音の中、裕太は気が付けば大きな溜息をついていた。
「どうしたんですか?」
「何か悩み事か?」
「え? いや、まぁ……」
俯く裕太越しに男性と女性は顔を合わせ無言の言葉を交わす。
「私たちで良ければ聞きますよ」
「あんたには世話になってるからな」
「そうですよ。解決できるかは分からないですけどもしよければ」
その優しい言葉に顔を上げた裕太は二人を交互に見た。特に付き合いが長い訳でもなく週に数回このコインランドリーで会うだけの二人。
だけど裕太にとってこの二人は友人のような存在になっていた。
「ありがとうございます。――実は……。もしかしたら彼女が浮気してるかもしれなくて……」
振り絞るように裕太は胸に抱えた悩みを声にした。その言葉に二人は互いの顔を一瞥するがすぐに視線を間の裕太へ戻した。
「勘違いとかじゃないのか?」
「最初はそうかもと思ったんですけど、最近よくスマホ見てるし、しょっちゅう友達と遊びに行ってるし、でもその話聞こうとしたらなんか話したがらないというか話題を逸らしてくるんですよね」
「――それは、なというか……」
「怪しいな」
「やっぱそうですよね」
二人の肯定的な言葉に裕太は深く溜息をつき肩を落とした。
「なんか明後日も夜に出かけるらしくて。あんまりしつくこく訊くのもアレですし。はぁー、どうしたらいいですかね?」
裕太の両側でシンクロしながら腕を組み頭を悩ませる二人。
そして少しの間、洗濯機の機械音が鳴り響くとおもむろに男性が口を開いた。
「いっそのこと後を付けてみるってのはどうだ?」
「明後日の予定をですか?」
「あぁ。自分の目で確認した方が納得できるだろ?」
「それはそうですけど……。もし本当に浮気だったら……」
「あっ、それじゃあ私達も一緒について行ってあげますよ」
名案だとい言わんばかりの勢いで女性はそう提案した。
「そうだな。ただあんたがいいならだが」
その提案に真っ先に乗ったのは男性。
「でも急にいいんですか?」
「もちろんですよ」
「あぁ。構わない」
二人の快い返事に裕太の胸にあった不安は少しばかり晴れ、それは表情にも明るさとして現れていた。
「それじゃあ、申し訳ないですけど付き添いよろしくお願いします」
「ならまず連絡先交換しませんか?」
「そうだな」
女性の更なる提案でラインを交換した三人。男性は真人、女性は茉奈。自己紹介をしていなかった三人はそこで初めて互いの名前を知った。
* * * * *
二日後。
先に家を出た裕太の彼女である優菜を真人と茉奈が先に追い、後から裕太という形で三人は合流。二人は駅前にある銅像の前でスマホに視線を落とす優菜の姿を確認できるカフェの窓際の席に座っていた。いつものコインランドリーで会う時よりちゃんとした私服姿に新鮮味を感じながらも裕太も席に腰を下ろす。
「どうですか?」
「まだ一人だな」
「今日は何て言って出かけてましたか?」
「友達と遊ぶって言ってました」
「おい。誰か来たぞ!」
真人の小声だが力の籠ったその声に裕太と茉奈は優菜の方を見遣る。笑顔を浮かべる優菜の隣に歩いて来たのは男だった。しかもかなりモテそうな容姿をした。
何を話しているのかは分からないが優菜は終始喜色を浮かべ楽しそう。その姿に裕太は唖然としていた。
「中々のイケメンだな」
「確かに。というか優菜さんってめっちゃ可愛いですね」
「こう見ると――お似合いだな(お似合いですね)」
声を揃えて率直な感想を言った二人が裕太へ視線を向けると彼はすっかり顔を俯かせていた。
「やっぱり……。しかもあんな僕に勝ち目なんてなさそうな人と」
もう終わったと言わんばかりの嘆息が言葉を追うように零れ落ちる。そんな裕太に真人と茉奈は一度顔を見合わせ無言の会話をした。
そして再び視線を裕太へ。
「でもまだ決まった訳じゃないですし」
「本当にただの友達かも」
「あっ、ほらどこか行っちゃいますよ」
「よし。行こう」
二人は半ば強引に裕太の腕を引きカフェから出ると適度な距離を保ちながら尾行を開始した。
「でも今のところは特別恋人っぽい感じはないですよね」
「ずっと楽しそうだけどな」
「ちょっと真人さん。友達同士でもあれぐらい楽しそうにしますって」
そう言った茉奈がチラッと後ろを確認するように見ると裕太はすっかり肩を落としていた。
それからも優菜と男の後を尾行し続けた三人。前の二人はカフェに寄り服を見た後、アクセサリーショップをいくつか回っていた。指輪やネックレスなどを互いに渡し合いその付けた感じを見合っては色々と楽しそうに会話をしていた。
「随分と恋人っぽいけどな」
「まぁ……。そう言われればって感じですね」
「はぁー。僕一体どうしたら……」
もうすっかり諦めモードに入っていた裕太は何度も溜息を零していた。
「もういっその事、直接訊きに行ったらいいんじゃないか?」
「えっ? 訊きに行くって今ですか?」
「あぁ。この状況なら言い逃れも出来ないだろう」
「でも友達って言われるんじゃ……」
「男の方が彼氏持ちって分かってたらそう言う可能性はありますよね」
「突然、現れて訊かれる訳だから多少なりとも反応に出るだろ」
「もし浮気だったらどうしたらいいんですか?」
「それはあんた次第だろ」
「もしもそうだったら私たちが慰めてあげますって。ねっ、真人さん」
「飯でも奢ってやる」
「でも……」
「あっ、ほら! 出てきますよ」
優菜と男はそれぞれ紙袋を手に持ちながらお店から出て来た。
「さっ! 行きますよ」
「ちょっ!」
そして茉奈は裕太の腕を引きお店の前で話しをする二人に近づいた。
「ちょっとお姉さん」
その声に優菜は言葉を止め茉奈の方を見た。そして彼女に引っ張られてきた裕太に気が付くと瞠目し声を漏らす。
「裕太? こんなとこで何してるの?」
「えーっと……」
「ちゃんと言わないと駄目ですからね。大丈夫。私たちがついてますって」
気まずそうにしながらも後ろを向いた裕太は茉奈と真人の顔を一度ずつ確認した。そして再び前を向くと覚悟を決めるように息を吐く。
「え? 何、どうしたの? ていうかその人たちは?」
「優菜さ。最近よく友達と出かけてるけどその人?」
裕太は優菜の隣で事の成り行きを見守る男を指差した。
「うん。まぁ、最近は多いかな。それがどうかした?」
「いや。――最近、よく出掛けるしそれにスマホもよく見てるし、それなのに話を聞こうとしても逸らすじゃん。だから……」
もし本当に浮気で優菜と別れる事になったら嫌だという思いから裕太は言葉を詰まらせた。だが続きを――ちゃんと訊かないといけないと分かっている。彼は詰まった言葉を吐き出す為に大きく息を吸った。
「もしかして浮気してるんじゃないかって。どうなの?」
裕太の言葉に口を半開きにした優菜と男はゆっくりと互いの顔を見合った。街の喧騒の中、ぽっかりと穴の空いたような沈黙に包まれる五人。
だがそれは優菜の堪え切れないといった笑い声に埋め尽くされた。
「もしかしてあたしが彼と浮気してるんじゃないかって心配してたの?」
「してるよ。今も」
眉を顰めながら裕太が答えると優菜は少し笑った後に彼の目の前まで足を進めた。
「それはごめんね。でも大丈夫」
そう言うと優菜は裕太の手を取るとその上にお店の紙袋を置いた。
「早いけど。はい、誕生日おめでとう」
「えっ?」
「裕太って誕生日のお祝いとかあんまりして欲しくないタイプじゃん。それにプレゼントも欲しがらないし。でもあたしはお祝いもプレゼントもちゃんと貰ってるし、それに今年は付き合って五年っていうちょっとした節目でもあるからさ。たまにはお返ししてもいいかなって思って。だから手伝ってもらったの彼に」
優菜はそう言うと後ろの男を手で指した。
「代わりにあたしが彼の彼女さんのプレゼント選びを手伝ってね」
「だから話も逸らしてたの?」
「だってついうっかりボロが出たら嫌じゃん。絶対に買わなくていいって言うし。でも買っちゃったらもう貰うしかないから」
裕太は優菜から手の上にあるプレゼントへと視線を移した。そして視線は再びいつものその魅力を倍増させる笑顔を浮かべた優菜へ。裕太はそんな彼女を見つめながら段々と自責の念に駆られていゆくのを感じていた。同時にこうして疑ってしまった自分を情けなさも。
「ごめん。僕の為だったのに……。こんな風に疑っちゃって。優菜ごめん」
「裕太が謝る事ないよ。あたしだって隠してた訳だし。不安にさせてごめんね」
そして二人は互いに許し合い仲直りのハグをした。
* * * * *
いつもより冷えるある日の夜更け。
洗濯物が一杯に入った洗濯籠を抱えた裕太と優菜は夜道を照らすコインランドリーへ来ていた。中では数ある洗濯機の内、二つが回っており入り口の右手には男性二人と女性二人が椅子に座っていた。
「あっ、裕太さんこんばんわ!」
すっかり聞き慣れたその声に裕太は椅子の方へ顔を向ける。
だがそこには知ってる顔の他に初めて見る人の姿もあった。
「茉奈さん、真人さんこんばんわ。その人たちは?」
その問いかけにまず真人が先に口を開いた。
「この人が俺の同棲中の恋人」
真人は隣に座る少し童顔の男性を手で指した紹介した。その相手に裕太と優菜は内心の一驚を零してしまった。
だが真人はそんな二人の反応に特別何かをいう訳ではなく慣れた様子で返す。
「そう。俺、ゲイなんだよね」
「――そうだったんですね。すみません。勝手に彼女さんの話をしてるとばっかり思ってました」
「いいよ別に」
「でも別に驚いただけで僕は全然、気にしないですからね」
「分かってるよ。あんたはそんな人じゃないって事ぐらい」
裕太はそれから視線を隣の茉奈へ移した。
「という事はもしかして茉奈さんの恋人って」
「そうこの子。私はレズビアンなの」
「俺もさっき聞いた時は吃驚したよ。話を聞いた時は同じように彼氏の話かと思ってたから」
「それは私もですよ」
「でも今日は二人共どうして恋人さんと一緒に? って僕もですけど。僕はたまには一緒に行こうって彼女に言われたからですかね」
その質問にみんなの視線が一度裕太に集まった。そして茉奈と真人は一度隣の恋人と目を合わせてから口を開く。
「そう。たまにはって思って一緒に来てみたんですけど」
「まさか二人も同じだったなんてな」
「面白い偶然ですね。あっ、そうだ。折角なんで紹介してくださいよ。まずは僕から――」
そして全員が挨拶を交わした六人は洗濯が終わっても少しの間、その場所で話し続けた。
そんな六人が次に真人らの家に集まったのはまた別の話。
―完―
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