地図の日


 ~ 四月十九日(月) 地図の日 ~

 ※随類応同いるいおうどう

  相手の能力に合わせて教えること。




 会員を八人集めて。

 部活への昇格を目指す。


 フィールドゲーム同好会。


 一定の人気はあるし。

 動画とかテレビとか。

 見てると楽しいと誰もが言うが。


 部活に入るかと問われると。

 なかなかハードルがあるらしい。


「こんなに楽しいのにな」

「そうだよな……。でも、保坂には簡単過ぎたか?」

「いやいや。難易度はともかく、すごく楽しいよ、風見君」


 クラスでは目立たない方。

 ちょっと線の細い風見君が、同好会の皆さんと一緒に作ってくれたこのゲーム。


 同好会の皆さんに感謝。

 そして。


 俺のレベルに合わせて。

 ちょっとだけ難し目のゲームにと。


 そんなオーダーをしてくれたこいつ。

 今日の姿には腹が立つが。


 それでも、俺が気に入ってる遊びを理解してくれて。

 いや、今日の姿には腹が立つが。


 でもでも、内緒でアポイント取っておいてくれたとかマジ感謝。

 ほんとに今日の姿には……、いや。


 ここは我慢して感謝の言葉を言わないと間違ってるだろう。


「ありがとうな!」

「ふぉっふぉっふぉ。良いのじゃ良いのじゃ」

「うおお……! やっぱ、めっさ腹立つ!!!」


 なんだその上から目線!


「誰もが憧れるキャラじゃろう?」

「憧れんわ。髪型までそれっぽくしてきやがって……」

「Aラインっていうのじゃよ?」

「それ、なんか間違ってる」


 飴色のさらさらロング髪を、Aライン? なる髪形にした。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 目が隠れるほどの白い眉。

 そして白いつけひげをして。


 耳から強めにパーマかけて。

 渦巻き杖を手にすれば。


 あーっというまに。

 仙人の出来上がりだ。


「Aライン……」

「まだ言うか。あと、それも間違ってっから」

「間違っておらんのじゃよ?」


 日がな一日。

 もっしゃもっしゃ綿あめ食い続けてるけど。


 どこから調達してきたんだ、それ。


「仙人は、真っ白な霞を食べて生きるのじゃよ」

「昼にとんかつ食ってたろうが」

「そして、白い雲に乗って移動する」

「ああ、あれは雲のつもりだったのか」


 朝のうちは。

 靴に張り付いていた真っ白な綿。


 駅に着くころには。

 泥水吸って、真っ黒になってたけど。


「あの雷雲、どこに捨てたんだ?」

「そんなの引きずって電車に入るなって、駅員さんに雷落とされた……」

「うはははははははははははは!!!」


 やれやれ。

 でも、今日だけは。


 変なかっことか、突っ込むことはするま……。

 いや、でも……。


 むむむ。


「もうお前のかっこは無視無視! よーし! 今日は楽しむぞ!」

「ふぉっふぉっふぉ、若いのう」

「くそう! やっぱ腹立つっ!!!」

「ふぉっふぉっふぉ。皆も頑張るのじゃよ?」


 そう言いながら、仙人様が目を細めて見つめる先には拗音ようおんトリオ。


 冷静な、みんなの長女、にゃ。

 二岡におか丹弥にやちゃん。


 典型的B型次女、にょ。

 新田にった珠里しゅりちゃん。


 そして未だに理解不能な謎のマスコット、にゅ。

 錦小路にしきこうじ ゆあちゃん。


 三人の新入生が。

 今日も元気に……。


「ぜえ……、せえ……」

「にゅ……、にゅ……」

「出してこうぜ、元気」


 今日も元気に。



 ぐったりしていた。



「そんなに疲れたか?」


 唯一、俺たちとそん色ない速さで急斜面を登るにゃに話しかけると。


「ガチインドア勢なんで」


 喘ぎながらも。

 いつもの冷静節が返って来た。


「でも楽しいだろ? にゃ」

「微妙……。文系脳なんで。あと、にゃって呼ばないで下さい」

「うそ。お前なら楽しいって言うと思ってたのに、謎解き」

「ルールも聞かずに変な地図渡されただけで、楽しいだろって言われても」

「いや、そこがいいんだよ。この地図が何を表しているのか分からないってのがポイント」

「理解不能……。どこまで登るんです?」

「ベンチがあるとこまで」

「なんで……」


 そう。

 理論的なこいつなら。

 当然そう来るだろう。


 俺はここぞとばかりに。

 宝の地図の読み方を説明し始めた。


「この暗号、絵が三つ書いてあるだろ?」

「はあ……」

「例えば、このペンチ。それと、三つあるヒントの内、『正解』は『同じ』ってのを組み合わせる」


 あれ?

 返事がない。


 興味ねえのかな?


「正解ってのは、丸のこと。同じってのは、点々で表すだろ? だからベンチになる」

「…………あった、ベンチ」

「おいおい。俺の解説は?」


 学校そばの、それなり急な山道を登った頂上に。

 ぽつりと置かれた、苔むした木製のベンチ。


 そこに、にゃが倒れ込むように腰を下ろして。

 張り付けられていた紙を手に取る。


「くま……。何のこと?」

「ああ。宝の地図に書かれたクマの絵と、ベンチを線で結ぶんだろうな」

「それで……?」

「同じように、あと二カ所にも動物の名前が書かれているんだろう。その三本の線が作る三角形の中に宝があるんじゃないか?」

「え? ……なんで?」


 なんでって。

 いや、そういうもんだろ、宝の地図なんて。


 俺がその辺りをどう説明したもんか考えている間に。

 にゅとにょがようやく到着。


「宝……、あった?」

「この紙みたいだ」

「にゅ……?」

「いや、これが宝じゃなくてな?」


 うーん、困った。

 三人揃ってまったく楽しめてないらしい。


 俺が、申し訳ない思いで風見君たちに振り向くと。

 皆さんそろって、別に気を悪くするでもないように頷いた。


「こういうのは、相手によってレベルを変える必要があるんだ」

「内容とか、楽しませ方とかも、相手によって変える」

「今日はオーダー通りにしたつもりだからね」


 なるほど。

 何度もゲームを作って、お客さんの反応を見て来たから言える話なんだろう。


 でも。

 それなら、俺以外の皆が楽しめてないのに。


 どうしてそんなに涼しい顔してるんだ?


「秋乃……。お前には感謝してるが、俺に合わせて作ったの失敗だったんじゃねえのか?」

「ふぉっふぉっふぉ。ぜんぜんそんなことは無いのじゃよ?」

「は?」


 俺がわけを聞こうとする間にも。

 秋乃仙人は拗音トリオに近付いていくと。


「このそばに、引換券の入った宝箱を隠してある。それを見つけた者には、じゃじゃーん!」

「にゅーーーー!!!」

「イ、イチゴたっぷりタルト!? 是非食べるすぐ食べる!」

「ど、どこだ宝箱!?」


 でかいリュックを背負ってると思ったら。

 そんなもん持って来てやがったのか。


 しかし、この三人のはしゃぎようって。

 薮をこいで、地面を掘って。


「秋乃、すげえなおまえ」

「ふぉっふぉっふぉ。なんくるないのじゃよ」


 そして、ヒントも謎も無い宝探しと。

 景品のタルトを堪能した三人は。


 次のポイントでは何が貰えるのだろうと。

 今度は率先して歩き出す。


 ……春休みの旅行と近いシチュエーション。

 おそらく、このゲームデザインに。

 お前も一枚かんでるんだろう。



 でも。

 この間とは違う。



「今度は、お前も一緒だな」

「ふぉっふぉっふぉ」


 ひげを引っ張りながら笑う秋乃。

 一人ぼっちで寂しい思いをするわけではなく。


 いい方法を見つけたみたいだな。


「よかった。……答え、見つけられたみたいで」

「そう。答えを見つけ出せたから仙人なのじゃよ、下界人」

「…………やっぱ腹立つなおまえ」


 こうして、フィールドゲーム同好会の皆さんと秋乃の合作ゲームにより。


 俺も、一年生たちも。


 そして、秋乃も。


 楽しく一日を過ごすことになった。

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