決闘の日


 ~ 四月十三日(火) 決闘の日

 ※三位一体

  大概の敵はこれで倒せる。




 今日から部活勧誘解禁。


 そんな朝の、布団の中。

 たたき起こされたメッセージ。


 『先に行く。いざ尋常に勝負』


「お前は佐々木小次郎か」


 昨日は深夜まで勧誘方法のネタ出しに付き合わされたけど。

 結局何も決まらなかったわけで。


 それで、俺を置いて先に行ったってことは。


 俺が却下したネタの内。

 どれかをやっているに違いない。


 飴をばらまいて、寄ってきたところを投網作戦か。

 この部活に入ったおかげで僕は億万長者になりました作戦か。


「まさか、テストの替え玉引き受けます作戦じゃねえだろうな……」


 ひどい未来予想図しか頭に浮かばないから。

 正解を確認するのもやめようと。


 迂回して、外れから学校に入ろうと考えた俺の目に。


 ひょいと飛び込んできたのは。

 正門前からこそこそと中をうかがう三人組。


 あれはいつぞやの猫っ毛トリオ。

 まさか、勧誘騒ぎが怖くて中に入れないのかな?


「よう。入学式以来だな」

「にょーっ!!! びび、びっくりしたあ!」

「あ、先輩。おはようございます」

「……にゅ」


 びっくり飛び跳ねる子。

 全く動じない子。

 二人の後ろに隠れる子。


 三者三様。

 驚くほどに違うトリオだが。


 どうやら、仲良く過ごしているようで微笑ましい。


「怖くて入れねえのか?」

「だ、だって! 下駄箱までの道が先輩たちのロンドン橋!!!」

「は?」

「ああ、珠里しゅりが言いたいのは、ロンドン橋落ちったっていうあれのことだと思う」

「なるほど、捕まっちまいそうってことか。通訳サンキュ」

「にゅ」

「…………今のは?」

「分からないよ。ゆあ語は、まだ授業で習ってない」


 一番ちっこい、にゅって子がゆあちゃん。

 次にちっこい、にょーって叫ぶ元気な子がしゅりちゃんか。


 そして、三人の中では一番背が高い子が。

 まるで三姉妹のお姉さん。


 いいバランスだこと。


「三人共、仲良くしてるみたいで良かった良かった」

「いや先輩! 呑気系決め込んでる場合じゃそれどころじゃないって緊急事態エージェント発令中!!!」

「エマージェンシーじゃねえのか?」

「強引に入らされそうでやだよ! ぼく、圧に弱くてティッシュとか必ず貰っちゃうし昔大阪に行った時に橋の上で女の子に声かけてるお兄さんたちが怖くてパパが待ってるカニの店に行けなくて泣き叫びながらじょばーってもら」

「止まれ止まれ! なんなんだお前は!」


 にょーのしゅりちゃん。

 一旦しゃべりだすと止まらないタイプなのか?


 それにひきかえ。


「にゅ」

「…………エネルギー効率とは」


 にゅのゆあちゃん。

 君はそれしか言わないのね。


「しょうがねえな。それじゃ、俺が引っ張って連れて行ってやるよ」

「にょー!! ほんと!?」

「ありがとうございます。助かる……」

「にゅ」


 まあ、怖いのは分からないでもない。

 ここは助けてやろう。


 俺は、三人の先頭に立つと。

 みんな揃って、よちよちとついて来る。


 でも、二方向に引かれた上着は分かるが。

 誰だズボンのベルト引っぱってんの。


 ああ、もういいや。

 突っ込むのも馬鹿馬鹿しい。

 好きなとこ掴まってくれ。


「でもさ。お前ら、どこにも入らない気なのか?」


 ナイトの顔を見て舌打ちを鳴らす勧誘亡者どもを尻目に。

 まるで客寄せだらけみたいな下駄箱までの道を歩きながら問いかけると。


「ううん? どこか入りたいなあって思ってて三人揃って! でも戦車の模型みたいなとこないですかね?」

「……通訳」

「文系っぽくて、それでもアクティブで、珍しい感じの所を探しているんです」

「助かる」

「にゅ」

「………………通訳」

「どこか知りませんか? って聞いてるんじゃないかな」

「助かる」


 どこかって言われてもな。

 珍しい同好会なら。

 はいて捨てるほどあるけど。


 でも、三人の希望する文・アク・珍のさじ加減がまるで分からんからな。


「いくつかめぼしいとこ紹介してやれるけど。あとは見学に行って決めればいい」

「いやいや無理無理! 見学に行ったら、ちょっと湯加減ちがうくても圧!」

「今のは……」

「ああ、大丈夫。理解できたから」


 そうだよな。

 ちょっと違うかなって思っても。

 入部してって迫られたら断り辛いもんだよな。


 だったら……。


「それじゃ、見学にも付き合ってやろうか。勧誘してきても俺が断ってやる」

「え!? なにそれ何が目的まさかハレンチ大作戦!?」

「ちゃうわ」

「でも、ご迷惑なんじゃ……」

「にゅ……」

「いや。全然迷惑じゃないんだ、これが」


 だって。

 俺にとってはただの部活探検。


 そうか。

 こんな一年生のためにあるのかな、うちの同好会。


「気に入った部が見つかるまで引率してやろう。だって俺は……」

「部活探検同好会へようこそ!」


 ……まあ。

 俺の代弁としては正しいんだが。


 ほんとに二刀流でプラカード構えるなよ佐々木小次郎。


「なんの真似だ」

「ぶ、部員勧誘中……」

「やれやれ。……みんな。こいつも一緒に回ることになる、舞浜まいはま秋乃あきのだ」

「ええ!? 綺麗だけど怖い先輩と!?」

「危ない先輩さんとか……」

「にゅ」


 俺たちの反応を見て。

 一瞬、困った表情を浮かべた秋乃。


 状況を把握しろというのも無理だとは思うが。

 それにしたって、無茶苦茶なことを言い始める。


「なんの話かわからんが、あたしと勝負して、もしも負けたら部活探検同好会に入ってもらう!」

「やめねえか」


 なんというおバカさん。

 ジャージ姿でやる気満々。


 でも、誰もその辺に転がってねえところを見ると。


 お前、今まで連戦連敗中だな?


「やれやれ。話が面倒なことになるから通させてもらうぞ」

「そうはいかん! さあ、いざ尋常に勝負!」

「にょー! せ、先輩どうすれば!?」

「大丈夫。二方向から走り抜ければ楽勝だ。しゅり! ゆあ! GO!」

「ラジャー!」

「にゅ!」

「え? え?」


 俺の号令に合わせて走り出した二人を見て。

 わたわたするばかりの秋乃。


 でも、しゅりちゃんとゆあちゃん。

 左右に分かれるかと思ったら。


「うはははははははははははは!!! 上下!?」


 小さなゆあちゃんが、秋乃の股下を潜り抜け。

 しゅりちゃんは、頭の上を飛び越えようと大ジャンプ。


「いだっごひん!?」


 でも、潜り抜けざまにゆあちゃんの鞄が秋乃のお腹へ偶然当たると同時に。

 当然高さが足りないジャンプをしたしゅりちゃんのひざがおでこにヒット。


 そして二人の無謀を。

 ふらふらしながら寄って来た秋乃に謝った三人組のお姉さん。


「ご、ごめんなさごひん!」

「あいだああああああ!!!」


 勢いよく頭を下げると。

 とどめのヘッドバットとなって秋乃の後頭部を穿った。


「にょーっ!? たた、大変!」

「にゅーーーー!!!」

「ど、どうしよう!?」


 気の優しい三人組は。

 大の字になって目を回してる秋乃を心配してくれたんだが。


 俺は、ほっといて良いよと声をかけて。

 秋乃が放り出したプラカードを取りながら三人を校舎へ促した。


「それじゃ、明日から見学開始だ。放課後、昇降口の辺りで待っててくれ」

「えっと……。先輩は……?」

「俺は仕事があるから。じゃあ明日な」


 そう、明日からだ。

 だって俺には仕事がある。


 ダウンした秋乃の代わりに。

 部員の勧誘しないといけないからな。


「これからここを通る一年生ども。こいつみたいに、俺に倒された生徒は部活探検同好会へ強制入部させてくれる」



 ……秋乃。

 だから言ったろ?


 通報されて。

 放課後までずっと立たされることになったじゃねえか。



 そして後輩トリオよ。

 明日からにして正解だったろ?


 俺が、戦う前から結果を予言する。

 宮本武蔵だってことがわかったか。

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