濡れ衣2
『100万払えばこの話はなかった事にしてやる』
――と。
「ひ、ひゃくまんっ!?」
信じられない提案と金額に、声を上げてしまう。
ハッとし、咄嗟に口を手のひらで塞ぐ。隣の部屋に聞こえただろうか?
しばらくジッとしていても何もなかったので、聞こえてはいなかったようだ。
え?なに?これはなんなの?夢?
もう一度メールの内容を確認するけど、さっきと同じ。確かに『100万払えば――』と書かれている。
「………………」
私は絶句してしまった。
なんでこんな事になってるの?100万円なんて大金払えないし払う義務もない。だって、婚約破棄なんてしていない。訴えられる覚えがない。
――ピロン♪
何度目かの着信にビクッ!と体が震える。もう内容を確認するのが怖かったけど、確認しなければならない。
そこには、
『明日までにどうするか決めとけよ』
と書かれており、それ以降は着信が鳴る事はなかった。
「……………………」
頭が真っ白。パニックと言うか、真っ白。思考が停止状態。
別れ話をしてから、一か月以上が経つ。その間なんの連絡もなかったクセに、今さら別れ話に納得していない……?
「和矢のヤツ……なんで……」
腹が立つと言うより、なんだか悲しくなって来た。私はこんな卑劣な事をするやつをずっと好きだったのか。そう思ったら泣けて来た。
「訴えるって、どう言う事だろう……。明日までに返事をしなかったら……?もしかして、課長にまで迷惑掛ける気じゃ……」
そうだよ。ツーショットの場面を写真に撮られてるんだもん。和矢は課長も巻き込む気でいる。
「絶対に明日までに何とかしないと……」
でも、どうしたらいい?知り合いに弁護士なんていないし。
「あ……」
一瞬、「なにかおかしな事があったら必ず知らせる事!」と言われていた千歳の顔が頭を過る。しかし私は、頭を振って千歳の顔をすぐに頭から追い出した。
「なんにも関係ない千歳を巻き込めないよ」
自分で出来る事は何かないか?
私は携帯を手に取って、メールの受信箱を確認する。和矢からのメールを全て遡って確認する為だ。
この一か月以内に和矢から何らかのメッセージが送られて来ていない事と、私が別れのメールを送っている事の確認が取れれば、まだマシかもしれない、と考えた。
「あ…ダメだ……」
私は受信箱を確認してガクッと項垂れた。
「あの時、千歳に言われて和矢からの履歴全部消したんだった……」
アドレス、着信履歴、発信履歴、メッセージのやり取り全て。
と言う事は、
「こっちからなんの確認も出来ない……」
と言う事だった。
もし『別れたくない』と言う趣旨のメッセージが来ていたんだとすれば私の落ち度だし、もし来ていないんだとすると和矢の言い分がおかしな事になる。しかし、全てを消し去った今ではそこの確認が出来なかった。
「どうしよう……」
これは、課長に真相を確かめて告白、なんてしている場合ではなくなった。
明日までにどうにかしなければ、訴えられてしまう。そんな事になったら、私の携帯にはなんの証拠も残っていないからお金を払わなければならない。
「100万円なんて払えないよ。どうしたら良いの……」
私は八方塞がりになってしまい、頭を抱えたまま眠れない夜を過ごした。
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