まさかのライバル出現!?1
「は~、お腹いっぱい」
夕飯を食べ終え、課長と別れて自室に戻った。
ベッドに横になり、ごろんと寝返りを打つ。なんとなく、課長と繋がれていた手をじーっと見る。
結局やっぱり、マンションに着くまで課長は手を離してくれなかった。
「私的には全然良いんだけど、課長は一体どう言うつもりなんだろう?」
付き合っても居ない女性と、簡単に手を繋ぐ。
これってどう言う事だろう。
「ていうか、度々あるんだよね……」
不思議な事の一つに挙げていたけど、課長との距離がなんだかグッと近くなった気がする。
一緒にテレビを見ている時も、前まではお互い別々のソファーに座って見ていたけどいつの間にか課長が私の隣にくっ付いて見てたり、呼ばれたから行ってみても、私が課長に膝枕をされるんじゃなく私に膝枕を要求して来たり。
なにかと距離が近い今日この頃。いかがお過ごしでしょうか――。
「ええ、そりゃあもうドキドキの毎日を過ごしておりますよ」
一人でブツブツと心の声と対話をしていると、コンコンコンッ――とドアをノックされ飛び起きた。
「はいいっ!!」
急いでドアを開けると、にゅっとお酒の瓶が差し出される。
え?と思い顔を上げると、
「これ、一緒に飲まないか?」
と課長からのお誘いを受けた。
「あ、はい」
なんだかよく分からないけど、咄嗟に返事を返した私の手を取り、「よし」と課長が頷いた。そのまま手を引かれ、先程別れたリビングに戻る。
「今日はルイの命日なんだ」
「えっ!?」
ソファーに座り、もうテーブルにセッティングしてあったワイングラスにワインを注ぎながら課長が言った。
「そ、そうなんですかっ!?」
そんなの一言も聞いていなかったから、ビックリして声を上げた。
「うん」
「なんで言ってくれなかったんですか!!」
「あれ?言ってなかったか?」
「聞いてません!」
「それはすまなかった」
私がちょっと怒り気味に言ってるのに、課長はなんでかニコニコしている。
「課長、私ちょっと怒ってるんですけど。なにニヤニヤしてるんですか?」
大事な事を教えてくれなかった事も、それをニコニコしながら謝る事も、なんだかちょっとイラっとして、課長にそう言った。
「いや、本当にそれはすまなかったよ。でも、俺も今日になるまで頭から抜けてたんだ」
「え?」
こんな大事な事、なんで忘れる?ペットロスにまでなったルイちゃんの事だよ?
私の言いたい事を私の表情で感じ取ったのか、課長が続けて話してくれた。
「中条が家に来てしばらく経つが、毎日が楽しいんだ。家に帰って来ると『おかえりなさい』と言ってくれる人がいて、何てことない事で喧嘩したり、毎日温かい手料理を食べたり……。ルイの事を考える時間も、落ち込む日も少なくなって来た。本当に感謝しているんだ。ありがとう」
課長が私に向かって頭を下げた。
「課長……」
そんな事を言われたら、怒れないじゃないか。
「課長、顔を上げて下さい。もう怒ってませんから」
課長が顔を上げ、すまなかった、ともう一度だけ謝ってくれた。
一年前の今日がルイちゃんの命日。
(てことは、大分と長い事ペットロスに悩まされていたんだな……)
それがここまで回復したんだから、コンプレックスだった私の髪質も、役に立てて良かった。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ワインが注がれたグラスを受け取り、ささやかにチンッ――と合わせた。
「あ、美味しい」
一口飲んでボソッと呟くと、
「そうか?良かった。コレ、
「え……」
メグミ……?メグミって誰だっけ?
首を傾げる私を見て、ああ、と課長が説明してくれた。
「同期で幼馴染の
「ああ、
以前、まだ課長が私の教育係だった頃に聞いた事がある。
「そう。あいつに貰ったんだ」
課長が優しく微笑みながらそのワインボトルを眺めている。
『
課長の幼馴染にして営業二課の課長。
バリバリのキャリアウーマンで、迫田課長の手に掛かれば取引きのなくなった相手でも再度契約を結んでしまうと言う手腕の持ち主。
ちなみに、和矢の上司。
そう言えばよく和矢が『迫田課長が厳し過ぎる。マジだりぃ』とか仕事が出来ない自分を棚上げして最低な事を抜かしていた。
迫田課長は綺麗で隙が無く、女性社員に優しいから『王子様みたい』と人気を博している。ボーイッシュな見た目もそうさせている要因ではあると思うけど。
和矢みたいに、厳しい面もある迫田課長の事を煙たがっている男性社員もいるだろうけど、先に話した様に迫田課長を崇拝している女性社員が大勢いるから声を大にして文句を言う様な猛者はいない。
(女子たちの報復が怖いからね……)
ん?でも、なんで迫田課長が?
不思議に思い尋ねてみる。
「幼い頃、愛実はよくウチに遊びに来ていたからね。ルイが亡くなった事も知ってるんだ」
「あ、そうだったんですか……」
小さい頃から課長の家を行き来する間柄。私なんか課長に出会ったのは大学卒業して入社した時だからまだ4年ちょっと。
幼馴染に嫉妬しても勝ち目なんかないし仕方ないんだけど、なんだかモヤモヤする。
(私はルイちゃんの命日も知らなかったし教えてもらえなかった)
『楽しくて忘れていた』なんて課長は言ったけど、実の所『教える必要のない人』って認識だったのでは……?
迫田課長が知っていてくれればそれで良い。とか。
(あ~、やだなぁ。嫌な方向にばっかり考えが行っちゃう……)
そんな事をグルグル考えていたら、急にドサッ!と課長が私の膝に倒れ込んで来た。
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