プレゼントは大成功1
いつものカフェで、私と千歳は冬以外は定番で座るテラス席に通され、談笑していた。
「ハッピーバースデー!!はい、プレゼント!」
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞどうぞ!気に入ってくれるといいんだけど……」
ガサゴソと千歳が包みを開けているのを、ドキドキしながら見る。
(う~…この瞬間っていつになっても緊張するなぁ)
パカッと箱を開けた瞬間、千歳が「あっ…」みたいな顔を一瞬した。
その表情を見て、失敗したか!?と不安になったけど、どうやらそうではなかった。
「なんでアタシの欲しかった物分かったの?」
「え?そうなの?」
「うん。前々から欲しいと思ってた」
「そうなんだ。じゃあ、良かった」
さっきの「あっ…」で一瞬ビビったけど、『こんなの要らない』の「あっ…」じゃない事に安堵し、私はホッと胸を撫で下ろした。
「素敵な万年筆。凄く気に入った。でもこれ、高かったんじゃない?見た所アンティークっぽいけど……」
千歳が万年筆を手に取ってクルクル回しながらそう言った。
「うんや?そうでもなかったよ?」
……少しばかり、嘘をつく。
本当は、ちょっと奮発してしまった。でも、色々相談にも乗って貰ったし心配もかけたし(火事の事や失恋の事)。そのお礼も兼ねてだったから値段なんて問題じゃなかった。
「そっか。ありがと。大事にするね」
千歳はバッグから取り出した手帳に万年筆を挟み、またバッグにしまった。
とりあえずひと段落。と、私は辺りをキョロキョロする。
「……あ、国枝さんっ!」
私は他のお客さんに料理を運び終えた国枝さん(仲良くなった店員さん)を呼び止めた。国枝さんは私の顔を見ると、うんうんと頷き、厨房へと早歩きで入って行った。
「なに?」
千歳が一連の流れを見て、眉を寄せている。
「うん、ちょっとね……」
私は多くを語らず、国枝さんの到着を待った。
「ハッピバースデー・トゥー・ユー♪ハッピバースデー・トゥー・ユー♪」
と、歌いながら厨房から出て来た国枝さんがこちらへ向かって来る。
手には、頼んでおいた4号サイズのバースデーケーキが。
「え?なに?」
千歳が目を丸くして私と国枝さんを交互に見る。
「ハッピバースデー・ディア『千歳』さーん……ハッピバースデー・トゥー・ユー」
千歳の目の前に、ケーキが置かれる。
「わっ……」
千歳が少し驚いた声を上げた。
ケーキの上には「2」と「7」のロウソクに火が灯っていて、チョコレートのネームプレートにもちゃんと『千歳』と書いてある。間違っていない事を確認し、安堵した私はロウソクの火を消すように千歳を促す。フ~っと息を吹きかけられた「27」のロウソクから火が消え、何事かと見ていた周りのお客さんからパチパチと拍手が鳴った。千歳が少し照れながらそのお客さん達に軽く会釈をする。
「千歳、おめでとう!あ、国枝さんもありがとうございました!」
国枝さんにお辞儀をしてお礼を言うと、「いえいえ~」と笑いながら厨房へと戻って行った。
「……ビックリした。急に何かと思ったわよ」
千歳がケーキに飾られている苺を一つ摘まみ上げて口に放り込んだ。
「うん。美味しい。これ、全部食べてもいいの?」
「もちろん。千歳の好きにして」
「ありがとう」
普段クールな千歳だけど、甘い物に目がない。この位の大きさ(直径12cm)のケーキなんてあっと言う間に平らげてしまう。それを分かっていて、ケーキをサプライズで用意した。
普段あまり表情を崩さない千歳がニコニコしながらケーキを食べていると、こっちまで嬉しい気持ちになる。
(喜んでくれたみたいで良かった)
やり切った感と安堵感で、私もお腹が空いて来た。
千歳はしばらくケーキに集中だろうから、私も何か食べようとメニュー表に手を伸ばす。
「おっ。この期間限定のパスタ、美味しそう」
ボソッと呟くと、
「それ、ランチセットで頼んだ方が色々付いて来てお得だよ」
ケーキを頬張りながら、千歳が別になっているランチメニュー表を手渡して来た。
ほうほう、とそれを見ると、確かにパスタの他にミニグラタンが付いたりミニサラダが付いたりスープが付いたりして値段もお手頃。
「こないだ食べたら味も美味しかった」
「へ~。んじゃこれにしようかな。あ、すみません」
近くを通った店員さん(国枝さんじゃない)を呼び止め注文をすると、「それ2つお願いね」と横から千歳が声を掛ける。
「ランチセットのAをお2つですね。少々お待ちください」
店員さんが頭を下げ、厨房へと注文を通しに戻る。
「そんなに食べて平気?」
言ってもケーキを1ホール食べている。結構ボリューミーなランチセットまで食べきれるのか?
……いや、千歳なら平気か。
「全然だいじょーぶ。ケーキは別腹だから」
あ、やっぱりね。細いクセに大食漢。羨ましい限りだ。
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