これは…デートでよろしいですか?2

「ごちそう様でした……」


カフェを出た私は課長にちょっと不貞腐れ気味に頭を下げた。


「どういたしまして」


課長は何にも無かった様に、平然とした顔をしている。


(くそ……やられたよ……)


待たせてしまったお詫びにご馳走するってあんなに言ったのに、私がトイレに行ってる隙に課長がお会計を済ませてしまっていた。


迂闊だった。


(課長がやりそうな事じゃない!なんであのタイミングでトイレに行ったかな私!!)


食べ終わった時点で私が支払いを済ませていれば良かった。そうしたらこんなに悔やしい思いをせずに済んだのに。

心の中で地団太を踏んでいる私を他所に、行こうか、と課長が歩き出した。


「あ、はい!」


パッと顔を上げ足を踏み出した所で、「ん?」と思い、足が止まる。


(あれ?)


不意に目を向けた店内に、見知った顔が居た。


(あれって……)


ウチの会社の受付嬢の新井麗子?

丁度私たちが座っていた所からは死角になっていて気が付かなかった。

ここからもちょっと目を凝らさないと見えない様な場所だけど、一際目立った格好をしている彼女は否が応でも目に入る。


(居たんだ)


ここのお店は社内でも人気だから、居てもなんら不思議ではない。


(一緒に居るのは彼氏さんかな?)


少し年配の男性と一緒に楽しそうに喋っている。


(まあ、イマドキ歳が離れてるなんて関係ないか)


でもちょっと……。


相手の男性の格好が不自然で引っかかる。

新井麗子はばっちりキメッキメの服装をしているのに、相手は地味で目立たない服装。全体を黒やカーキでまとめていて、ハンチングを深々と被っている。


なんだか気になってジーっと見ていた私の視線に気が付いたのか、新井麗子が一瞬こちらを見て、あっ!と言う顔をして私から視線を思いっきりそらした。


(ん?なんか、思いっきり気まずそうな顔をされたけど……。あ、もしやっ!?)


私は見てはいけない現場を目撃してしまったのだろうか!?


(え、まさか……不倫!?)


会社内で有名な新井麗子さん。


魔性の女と呼ばれていて、その毒牙に掛かった男は星の数と言われている。あの男性もその一人なんだろうか?だから相手は地味で目立たない格好をしているのかな?

でも、見られて気まずそうにする位だったら、もう少し人気の少ないお店にすればいいのに。


「中条?どうした?」


動揺してその場から動けないでいる私を不審に思ったのか、課長が怪訝な顔でこちらを見ている。


「いえっ!なんでもありません!」


課長がこちらへ向かって来そうになったので、私は慌てて駆け寄った。


「行きましょうか!」


「あ、ああ……」


私は課長の腕を引っ張りお店から遠ざかる。


(今見た事は言わない方が良いよね。多分……)


自分が盛大な勘違いをしている事に気が付かず、気を利かせたつもりで今日の事は私の胸の中に秘めておこう、と勝手に誓った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る