これは…デートでよろしいですか?1

休日。私は街に来ていた。


「ん~……」


目に付いた雑貨屋で、商品を手に取って少し考えて棚に戻す。


これをさっきから色んなお店で永遠繰り返していた。


「このお店じゃ可愛すぎるかなぁ」


グルっと店内を見回す。ピンクと白で統一されためちゃくちゃファンシーなお店。フリルやリボン、ハートや星モチーフで出来た雑貨が所狭しと並んでいる。

つい最近オープンしたみたいで入ってみたけど、千歳にはちょっと可愛すぎるかもしれない。


「う~、悩む……」


明後日は千歳の誕生日。今日はプレゼントを選びに買い物に来ていた。

でも、ピンと来る物が全然見付からなくて、さっきから唸ってばかりいる。


「明後日、千歳と会う約束してるし、もういっそその時に本人に選んでもらうか?……でもそれじゃなぁ」


手に取った、パカッと開くとオルゴールが鳴るジェリーボックスを棚に戻し、私は最終手段も視野に入れてこの可愛すぎるお店を出る。


「お待たせしました」


女性でごった返しているお店に入るのが恥ずかしい、とお店の外にあるベンチで待っていた課長に声を掛けた。


「ああ、もういいのか?」


本を見ていた課長が顔をあげる。


「はい。長々とすみません」


「いや、良いよ」


「では、行きましょうか」


私たちは並んで歩き出す。


「良いのは見付かったか?」


「いえ、まだ……」


「そうか。…あ、あそこなんてどうだ?」


課長が、今出た雑貨屋の斜め向かい位に建っているモダンな店構えのお店を指さした。

そこも最近出来たお店だろうか?見た事が無かった。


「あ、ホントだ。ちょっと見ても良いですか?」


「ああ、構わないよ」


課長がニコッと微笑む。


「ありがとうございます」


こうしていると、デートしているみたいでちょっと照れ臭い。


店内に入った瞬間、あ、ここかも。と言う直感が働いた。


ちょっとレトロな空気が漂っている店内。置いている物もアンティーク調の物で統一されていて、素敵だ。

このお店は可愛すぎると言う事が無い様で、課長も店内を物珍しそうにキョロキョロ見回している。それを見て、ちょっと安心した。


私は嬉しいし楽しいんだけど、課長はどうなんだろう?とずっと不安だった。


男性って、女性の買い物に付き合うのめんどくさがるから。和矢だったら絶対に「だりぃ~~」とか「オレ先帰る」とか言ってる。その点、課長は女性をエスコート出来るし、どう返答すればいいかもちゃんと分かっている。


何件か前に「疲れていませんか?」って聞いたら「いいや?新鮮で楽しいよ」と笑って答えてくれた。その返答を聞いた時、大人だなぁ、と惚れ惚れしてしまった。


最近、恋ってこんなに楽しかったっけ?と再確認する事が多い。


もう、『課長に恋をしている』と認識してからは、毎日が楽しい。千歳が言う様に誘惑なんて出来ないけど(実力不足の為)、一緒に居れるだけで幸せだった。


「良いのあったか?」


浸っていた所に急に声を掛けられてちょっとビクッとしたけど、


「あ、はい。これにします」


直感で『あ、これが良い』と手に取った万年筆を見せた。


「うん。いいんじゃないか?万年筆は使ってると味も出て来るし」


「はい。じゃあ、お会計して来ます」


「うん」


お会計に持って行き、渋めのラッピングをしてもらって受け取った。


「お待たせしました。私の買い物はこれで済みましたけど、課長はいいんですか?なにか買いたい物あったんじゃないんですか?」


お店を出て、隣を歩く課長に聞いてみる。


家を出る時、一人で行こうと思って用意をしていたら「俺も一緒に行く」と言われたので、デートっぽい!と舞い上がってソッコーOKを出したんだけど、よくよく考えたら課長も何か欲しい物があって付いて来たのでは?と思い始めた。


でも課長の返答は違った。


「いいや?特に欲しい物はないよ。ただ、中条と一緒に出掛けたかったんだ」


不意の殺し文句?と爽やかな笑顔に、私のハートは射抜かれた。


「あ、そ、そうなんですか?」


ドキドキを悟られない様に、一生懸命平静を装う。


(えぇーー!?それってどう言う意味!?)


私と一緒に居たかった、って解釈で合ってる!?


そうだったらどんなに嬉しいだろう。


「あ……」


「え?」


私が一人で舞い上がっていると、課長のつぶやきと同時に課長のお腹がグゥゥゥっと鳴った。


え!?と思って時計を見る。針は14時5分を指していた。


「す、すみません!こんな時間になってるの気付きませんでした!お腹空きましたよね!?何か食べに行きましょう!」


私はアワアワと慌てて課長に頭を下げた。プレゼント選びに夢中で、全然気が回らなかった。


「謝らなくて良いよ。俺もお腹空いていた事忘れるくらい楽しかったし」


課長は少し照れ臭そうにお腹をさすっている。


「あの、連れ回しちゃったお詫びとお礼に今日は私がご馳走するんで!行きましょう!」


私は、「え、そんなの悪いよ」と言う課長の手を掴み、ズンズン歩き出した。ここからだといつも行っているカフェが近い。課長に合う様な高級なお店じゃないけど、お腹空いている課長をそんなに歩かせたくないし、味は美味しいお店だからそこに行く事にした。


「ここでいいですか?」


お店に着いて尋ねると、課長は「中条のおススメの店か?なら良いよ」と嫌な顔一つせず、またまた大人な対応を見せた。


(せめて今日は、お店の中で一番高い物をご馳走しよう!)


そう心に決めて、お店に入った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る