千歳が感じた不穏な空気1
心地好い風に吹かれながら、アタシはアイスコーヒーに入っている氷をボリボリ食べていた。
顔なじみのカフェだから、氷を少し多めに入れてもらっている。
さっきまで一緒に居た紗月は、用事があるから、と先に帰って行った。
買い物とかだったらアタシも付いて行ったけど、火事の事で実家に行ってくると言われたからここで解散となった。
時計を見ると、もうすぐ13時。
お腹も空いた事だし、せっかくだからここでランチタイムにしてしまおう。
「今日のランチはなにっかな~~?」
メニュー表をパラパラとめくっていると、店内の人影が目の端に映って何気なく顔を上げた。
「あ」
そこには、見知った顔の男女が。
ヘラヘラ笑っている高橋和矢(紗月の元彼)と、
「あれは……」
受付の『
「あいつら……」
新井麗子は、男子に媚を売るいわゆる「ぶりっ子」で有名で、女子たちには嫌われている。
アタシがクズ男(高橋和矢の事をアタシはそう呼んでる)の浮気現場に遭遇して忠告した時に一緒に居た女も、新井麗子だった。
「やっぱりあの女と切れてなかったのか。それにしても、白昼堂々よくも……あ、すみません」
「はい?」
アタシは顔見知りの店員さん(国枝さん、だったかな?)を呼び止め、席を変わっていいかと尋ねる。
「はい、どうぞ。こちら、お持ちしますか?」
「ううん、いいわ。自分で持って行くから。あ、あと、ランチのAひとつお願いね」
「かしこまりました。お待ちくださいね」
アタシは顔を見られない様に携帯をいじりながら店内に入り、クズ男達の後ろの席に座った。
携帯をそのままテーブルに置き、誤魔化しのメニューを開いて眺めた。
紗月が別れて吹っ切れた今となってはどうでも良いのだが、アタシはなんとなく気になって、二人の会話に聞き耳を立てる。
「ねえ、ワタシと二人で会ってて彼女さん何にも言って来ないのぉ?ほら、彼女の友達の――三嶋千歳、だっけぇ?あの人に浮気してるのバレちゃったじゃなぁい?ヤバくなーい?」
いつもの様に、新井麗子が世の中の女性みんなが嫌いなブリブリ口調で会話をし出す。
「あ~。そう言えば一か月くらい前に別れ話のメッセ来てたな」
「えぇ~?やっぱり三嶋千歳が喋ったんじゃないのぉ?なんか言い出したってワタシ知らないよぉ?」
「だーいじょうぶだって!そんな事する様な根性あいつにはねーよ。つーか俺、アイツから慰謝料取ってやろうかと思ってさ」
「え?どう言うことぉ?」
『慰謝料』と言うクズ男の爆弾発言?に、アタシは持っていたメニュー表を落としそうになった。
(は!?慰謝料??え?こいつ、何言っちゃってんの!?)
「俺、別れ話にOKの返事してないんだよね」
「うん。それがぁ?」
「てことはさ、俺は別れたくないって意思表示になんだよ。あんなに俺にベタ惚れだった紗月が急に別れ話とか、おかしいんだって。ぜってー男が出来たと思うんだよ。その証拠掴んで裏切られたー!って騒いで慰謝料ふんだくってやろうと思っててさ」
アタシの動揺を他所に、二人はアホみたいな会話をどんどん繰り広げて行く。
「浮気してたのはアンタなのに、そんな事出来るのぉ?」
うん。新井麗子の言っている事は正論。
「大丈夫だって!結婚の話とかチラつかせてたし、メールの記録もあるし。コレ、婚約破棄って事でイケるべ?」
そんで、クズ男の言っている事は暴論。
て言うか、紗月は結婚の話が出ているなんて言っていただろうか?
今までにした、紗月との会話を思い出す。
(……あっ!あれか!?)
紗月がコイツと別れる数か月前、確かアタシがコイツの浮気現場を目撃して突撃した頃。
紗月がちょっと嬉しそうに『なんか急に結婚についてどう思ってるかとか聞かれた』って言っていた事を思い出した。
(え?あれってそう言う事だったの?)
でも、文面を見せてもらったけど、おおよそ『婚約した』と言う様な内容ではなかった。
(あれを婚約破棄の証拠って……)
頭を抱えるアタシを他所に、二人はどんどん話を進めて行く。
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