課長との生活の始まり4

お世話になり始めて一週間は何事もなく過ごしていたんだけど、二週目に突入したある日、課長が突然発狂した。


「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!我慢できないっ!!」


「わっ、びっくりした!」


夕飯の片付けも終わってまったりコーヒーを飲んでいたら、何の前触れもなく課長が叫び出し、私は持っていたコーヒーカップを落としそうになる。


「なんですか急に叫び出して!びっくりするじゃないですか!」


カップは落とさなかったけど、服に少しコーヒーが零れてしまった。私は慌ててそばにあったティッシュでそれを拭く。黒のTシャツで良かった。


「いいや、俺は悪くない!悪いのは中条の方だ!」


課長は私の方をビシィッ!と指さし、口をへの字口に曲げている。


「はぁ?」


上司だけど、訳の分からない話にちょっとイラっとして、思わず声と顔にその態度が出てしまった。


「ちょっと意味が分からないんですが?なんで私が悪いんですか?」


別に、課長の機嫌を損ねる様な事をした覚えはない。帰って来て洗濯もちゃんとしたし、夕飯だって課長のリクエストの豚肉の生姜焼きを作った。美味しそうに食べていたし、今飲んでいるコーヒーだって課長がいつも好んで飲んでいる物だし。


課長の要望には全て答えた。それでなんで私が悪いのか?


その旨を伝えると、課長が首を振った。


「違う、そうじゃない!生姜焼きは俺好みの味付けだったし、コーヒーだって中条が淹れた方が美味い。それはなんにも問題はない。問題なのは……その位置だっ!」


「は?……位置?」


「そう!位置!」


課長はやっぱり不機嫌そうに私を指さしている。


一体なんだって言うのか。


私はクルっと首を動かし、自分の位置を確認する。

窓際に置いてある、なんて事はない一人掛けの小さいソファー。私は夜景が一番キレイに見えるここがお気に入りで、大体このソファーに座っている。


「ここが何だって言うんですか?いつもここに座っているじゃなですか。今さらそこは俺のお気に入りだった、とか言うのはナシですよ?私、散々聞きましたからね」


居候のクセに横柄な態度かな?とは思ったけど、私がここに座る事はちゃんと課長の許可を得ている。それなのに、ここに座っている私が悪いと言われても納得出来ない。


「確かに、そこの席は君に譲った。しかし、あの時は俺も気付いていなかったんだ。その位置が……そこの位置が……」


課長が唇を噛みしめ、バッ!と天井を指さし、


「エアコンの風の吹き出し口の真上なんだよ!」


と、全力疾走でもしたかの様にハァハァと息を切らして叫んだ。


「…………は?」


私はより一層意味が分からなくて、首をかしげる。


その私の反応に、なんで分からないかな~、と課長が頭を抱えた。


いや、私の方が頭を抱えたいよ。


「その位置にいると!エアコンの風で中条の髪がふわふわ揺れて俺の我慢がきかなくなるの!」


指さした手をブンブン振り回して、さも私が悪い!みたいな抗議をして来るので、半ば呆れてしまった。


「……つまりどう言う事ですか?」


まあ、大体の予想は付くけど一応聞いてみる。


「頭を撫でまわしたい」


急に真顔になる課長。


それを見て私は小さく息を吐き出し、持っていたコーヒーをテーブルに置いて課長の横に寄った。


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